琵琶湖の湿生・水生植物 5
2012/11/08 Thu. 00:24 [edit]

Fig.1 沈水植物群落 水中に花穂を上げているのはオオササエビモ
湖北の沈水植物群落
淡水での水中撮影は、止水域となると周辺部からの有機物・腐食質の流入や、巻き上がる軟泥によって透明度が悪く、なかなか良い画像を得ることが難しい。
しかも、今水中撮影に使っているのは安価な防滴仕様のコンデジでレンズも暗いため、ちょっと水深が深くなるとかなり画質が粗くなってしまう。
しかし、無いよりはあったほうがマシ。
水生植物の水中画像は水槽内で人工育成しているものについては多いが、自生地で生育している画像にはなかなか接する機会がなく、たとえ画質が悪くとも自生状態を知るのための参考となると思っている。
巨大な淡水の止水域である琵琶湖は、周辺自治体の努力もあって、かつての一時期よりもかなり水質が良くなっている。
特に湖北では比較的透明度が高く、礫底であるため泥の巻上げもなく、水中での水生植物の自生の様子を観察するのに向いている。
今年は昨年に比べて春から夏にかけての降雨量が少なかったためか、水底の礫表面の付着藻類が少なく、昨年よりも観察しやすかった。
また、数年前と比較すると明らかにブラックバスなどの外来魚が減っており、今回は1匹も見ることが無く、コアユが群遊している光景もよく見かけた。

Fig.2 ヒロハノエビモの花茎とコアユ
湖北では水際から10mも沖に向かうと急激に水深が増す部分があり、そこでは水深によって植生が変化している様子が観察できる。
なだらかな水深60cm付近から水生植物が現れ、水深3m付近まで湖岸に帯状に沈水植物群落が形成されており、水深3mより深くなると生育に充分な光が届かないため水生植物はほとんど見られず、弱い光量でも生育できるオトメフラスコモやシャジクモ類などの淡水藻類が生育しており、この部分は生態学的にはシャジクモ帯として知られている。
今回の観察地付近での優占種はクロモで、水深60cm付近から出現し、2.5m付近まで生育しており、1m付近で最も個体数が多い。
このクロモ群落中には、いずれもヒルムシロ科であるセンニンモ、ヒロハノエビモとともに雑種起源とされるオオササエビモ、雑種と推定されているサンネンモ、ヒロハノセンニンモが混生しており、センニンモとヒロハノエビモは外見上から区別しやすいが、他3種は陸に上がってじっくり観察しないと判別が難しい。
Fig.6は琵琶湖で見られるヒルムシロ科のうちの6種で、このうちササバモは礫底が大部分を占める湖北にはあまり生育しておらず、遠浅の砂底が広がる湖東や湖南に多く見られる。

Fig.3 水深80cm付近の湖底 (2011年度撮影)

Fig.4 湖底に生育するセンニンモ (2011年度撮影)

Fig.5 混生するヒルムシロ科の水生植物 (2011年度撮影)

Fig.6 琵琶湖産ヒルムシロ科近似6種 (2011年度撮影)

Fig.7 礫間に生育するネジレモ 砂地で繁茂するネジレモは礫底の湖北には少ない。
先に水深1m付近はクロモが優占すると書いたが、ところどころにパッチ状にヒロハノエビモが群落をつくる場所があり、特に水深1~2m程度の場所に多く見られる。
ヒロハノエビモの有花茎は水底から長く伸びて花穂は水面上に達し、その長さは1.5~3mにも及ぶ。
無花茎は節間が短く、湖底に倒れこむように生育しているが、有花茎は節間が長くて少し太い。
この茎には空気を入れる空隙が多くて、水面を目指して上に向かって伸びている。

Fig.8 有花茎を水面に伸ばすヒロハノエビモ群落

Fig.9 有花茎の下には倒伏した無花茎がある (2011年度撮影)
琵琶湖の湖岸では台風などの後に、多くの水生植物のいわゆる「切れ藻」が打ち上げられている。
切れ藻の中には標本に最適と思われる果実をつけたものも多く見られる。
ヒルムシロ科のもので果実をつけて打ち上げられているのは、ササバモ、ヒロハノエビモ、ホソバミズヒキモで、湖北の湖底で多く見られるセンニンモ、オオササエビモ、サンネンモ、ヒロハノセンニンモの3種は結実しているものを見ない。
このうちセンニンモは「ただし開花の見られる場所は少ない。」と『日本水草図鑑』の記述にあるように、琵琶湖で花茎を上げて開花しているものを見たことが無い。
サンネンモ、ヒロハノセンニンモともに片親はセンニンモと推定される種間雑種であるため、センニンモの形質が優位に現れているのか、これも花茎を上げているものを見ない。
オオササエビモはササバモとヒロハノエビモの雑種を起源とする種と考えられており、花茎を出すが、湖北での観察では有花茎はヒロハノエビモのように水面まで到達せず、いずれの年にも有花茎は高さ60cm程度まで伸びて水中で開花していた。
これでは浸透圧によって花粉が破裂してしまい、受粉もできなくなってしまう。
琵琶湖に流入する河川では、時々浅い場所にオオササエビモが生育している場所もあるが消長が著しい。
これまで水面上に花穂を上げている集団を観察したことがないが、いずれにせよ雑種起源であるため結実は稀なのかもしれない。

Fig.10 水中で開花するオオササエビモ
ヒロハノエビモ群落が途切れ始める水深1.8mから、今度はホザキノフサモの群落が発達する。
ここでは水深3m近くまで生育しているが、水面まで到達しているものはなく、毎年開花個体は見られない。
2m以上伸びた水中茎の中部から下部にかけては、葉が枯れ落ちて裸となっており、葉は茎上部のおよそ80cmの部分に見られるのみである。

Fig.11 水深2m付近で繁茂するホザキノフサモ

Fig.12 オトメフラスコモ かつて水槽中で育成していたもの。絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)だが、湖西北部から湖北にかけては多く、主に水深の深い場所、沈水植物群落の外周でシャジクモ帯を形成するが、浅い場所でも見かけることがある。この仲間は水質悪化に弱いが、水槽での育成は容易である。
文字での説明を補うため、以下に2本の水中動画を揚げておきます。
【参考文献】
角野康郎, 1994. 日本の水草. 『日本水草図鑑』 2~7. 文一統合出版
大滝末男, 1980. 水生植物の概観. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 286~302. 北隆館
大滝末男, 1976. 水草の概念と生態. 『水草の観察と研究』 1~29. ニューサイエンス社
沖野外輝男, 2002. 湖沼の成因と形態. 『湖沼の生態学』 21~57. 共立出版
浜島繁隆・土山ふみ・近藤繁生・益田芳樹 (編), 2001. 『ため池の自然』 信山社サイテック
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