京都の棚田で見られたスブタ属3種
2013/10/14 Mon. 23:24 [edit]
京都の棚田にセトヤナギスブタらしきものがあり、そこでの植物調査のお誘いがあったので行って来ました。そこはこれまで除草剤が全く使用されてこなかった棚田で、全面がサンショウモに覆われた水田もある素晴らしい場所でした。
今回はその棚田の水田の様子と、そこで見られたスブタ属3種の形態の比較をしてみました。
画像:ヒロハイヌノヒゲ、サンショウモ、マルバノサワトウガラシ、在来水田雑草群落、
セトヤナギスブタ、スブタ属3種比較、スブタ、ヤナギスブタ、溜池のスブタ、
セトヤナギスブタの葉、スブタ属3種の鋸歯、開花中のセトヤナギスブタ、
スブタ属3種の果実、スブタ属3種の種子、淡緑色のセトヤナギスブタ、ゲンゴロウ、
水田減反部のスブタとヤナギスブタなど。
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

Fig.1 密生するヒロハイヌノヒゲ (京都府 2013.10/11)
棚田には乾田と湿田が混在していて、下部の乾田ではヒロハイヌノヒゲが密生していました。
これまで見たことの無い生育密度でした。
この棚田ではいずれの水田でも水田雑草の生育密度が非常に高く、しかも外来雑草は全く見られませんでした。
関連ページ 湿生植物・ヒロハイヌノヒゲ

Fig.2 サンショウモ (京都府 2013.10/11)
山際から湧水が湧出するような場所では膝まで泥に沈む湿田となっていて、そのような水田ではサンショウモが密生しています。
周辺に見られる浮葉植物には沈水葉がありませんでしたが、おそらくヒルムシロでしょう。

Fig.3 マルバノサワトウガラシなど (京都府 2013.10/11)
画像が不鮮明ですが、ニッポンイヌノヒゲやマツバイとともにマルバノサワトウガラシが生育しています。他にゴマノハグサ科ではサワトウガラシ、アゼトウガラシ、エダウチスズメノトウガラシ、トキワハゼが生育していましたが、自然度の高い水田によく出現するシソクサとスズメハコベは見られませんでした。
関連ページ 湿生植物・マルバノサワトウガラシ

Fig.4 在来水田雑草群落 (京都府 2013.10/11)
密生するヤナギスブタ、サンショウモ、水田型イヌタヌキモ、ヒロハイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、コナギ、チゴザサ、ヤノネグサ、クログワイ・・・とても刈り取り後の水田とは思えない光景でした。

Fig.5 水路内に生育するセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
セトヤナギスブタは山側の湧水を温めるために掘られた水田の水路内に多く見られました。
棚田でも限られた水田にのみ生育しており、個体数は多くありません。おそらくヤナギスブタの数十分の一ほどでしょう。

Fig.6 スブタ属3種の生体標本 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
同一水田内から採集したもので、セトヤナギスブタはヤナギスブタの2倍ほどの大きさであるのが分かります。
茎の径はセトヤナギスブタが約3mm、ヤナギスブタが約2mmでした。

Fig.7 スブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
現地ではあまり良い画像が撮れなかったので兵庫県内で過去に撮影したものを持って来ました。
葉はセトヤナギスブタよりも幅広く、ほぼ根生し、明瞭な茎を持たないのが特徴です。

Fig.8 ヤナギスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
これも兵庫県内のもの。
明瞭な茎を持ちますが、セトヤナギスブタよりも葉は短く、葉幅も狭くなります。
以下、3種の葉の長さと葉幅です。
・セトヤナギスブタ・・・葉長:6~8cm 葉幅:2.5~4mm(3.5mm程度が多かった)
・スブタ・・・葉長:10~30cm以上 葉幅:3~9mm
・ヤナギスブタ・・・葉長:2.5~5cm 葉幅:1.5~2.3mm

Fig.9 溜池のスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
溜池などの水深のある場所に生育するスブタは、ときに葉が長く伸びて40cmほどになることがあります。

Fig.10 セトヤナギスブタの葉 (京都府 2013.10/11)
明瞭な鋸歯が見られます。

Fig.11 スブタ属3種の鋸歯 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。同じ縮尺で撮影しています。
セトヤナギスブタの鋸歯が最も明瞭であることが判ります。

Fig.12 開花中のセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
花弁の長さは13mmとスブタと同程度の大きさです。
ヤナギスブタの花弁の長さは3~8mmと小型です。

Fig.13 スブタ属3種の果実 (京都府 2013.10/11)
上からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
スブタの果実は長く、セトヤナギスブタの果実の長さはヤナギスブタとあまり差はないようでした。果実内の種子数はセトヤナギスブタが圧倒的に少なく、このため自生地での個体数も少なくなるのでしょう。

Fig.14 スブタ属3種の種子 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
セトヤナギスブタの種子は大きく、1.8~2.5mmの範囲に納まりました。
表面の突起数は『日本水草図鑑』では2~10個と記されていますが、この個体は20個以上突起があるものも見られました。
しかし、種子の突起数は変異の範疇で、草体の様子からセトヤナギスブタであると思います。
結実も正常なのでスブタとヤナギスブタの雑種は考えにくいと思います。

Fig.15 淡緑色のセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
セトヤナギスブタは赤紫色を帯びる傾向がありますが、日陰では他の水草と同様、あまり色づかないようです。このような草体の色の変化は生育条件によって変化があるため、あまり同定の区別点としては使えません。
ただ、この場所にあったヤナギスブタとスブタは全く色づくものがなく、日当たりよい場所のものは区別が容易でした。
以下の2点の画像は色づいたスブタとヤナギスブタです。

Fig.16 一部の葉が色づいたスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
溜池に生育しているもので一部の葉が赤紫色を帯びています。

Fig.17 赤紫色に色づいたヤナギスブタ (兵庫県宝塚市 2012.10/8)
溜池に生育していたものです。

Fig.18 セトヤナギスブタとヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
水田内に生育しているもので、左がセトヤナギスブタ、右がヤナギスブタです。
同一環境下では色に差が出ていることが解ります。

Fig.19 クロゲンゴロウとヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
棚田ではクロゲンゴロウやタイコウチが沢山見られました。
以下は兵庫県で見られたスブタとヤナギスブタの混生地です。
兵庫県では最近セトヤナギスブタの自生のニュースを聞いたことがなく、現状不明です。
京都府のようにどこかの谷津に残っているといいのですが。

Fig.20 水田の減反部に生育するスブタとヤナギスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
シソクサ、アブノメ、キクモ、イヌミゾハコベ、アゼナ、アメリカアゼナ、アゼトウガラシなどとともに生育していました。
関連ページ 沈水植物・セトヤナギスブタ
関連ページ 沈水植物・スブタ
関連ページ 沈水植物・ヤナギスブタ
今回はその棚田の水田の様子と、そこで見られたスブタ属3種の形態の比較をしてみました。
画像:ヒロハイヌノヒゲ、サンショウモ、マルバノサワトウガラシ、在来水田雑草群落、
セトヤナギスブタ、スブタ属3種比較、スブタ、ヤナギスブタ、溜池のスブタ、
セトヤナギスブタの葉、スブタ属3種の鋸歯、開花中のセトヤナギスブタ、
スブタ属3種の果実、スブタ属3種の種子、淡緑色のセトヤナギスブタ、ゲンゴロウ、
水田減反部のスブタとヤナギスブタなど。
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

Fig.1 密生するヒロハイヌノヒゲ (京都府 2013.10/11)
棚田には乾田と湿田が混在していて、下部の乾田ではヒロハイヌノヒゲが密生していました。
これまで見たことの無い生育密度でした。
この棚田ではいずれの水田でも水田雑草の生育密度が非常に高く、しかも外来雑草は全く見られませんでした。
関連ページ 湿生植物・ヒロハイヌノヒゲ

Fig.2 サンショウモ (京都府 2013.10/11)
山際から湧水が湧出するような場所では膝まで泥に沈む湿田となっていて、そのような水田ではサンショウモが密生しています。
周辺に見られる浮葉植物には沈水葉がありませんでしたが、おそらくヒルムシロでしょう。

Fig.3 マルバノサワトウガラシなど (京都府 2013.10/11)
画像が不鮮明ですが、ニッポンイヌノヒゲやマツバイとともにマルバノサワトウガラシが生育しています。他にゴマノハグサ科ではサワトウガラシ、アゼトウガラシ、エダウチスズメノトウガラシ、トキワハゼが生育していましたが、自然度の高い水田によく出現するシソクサとスズメハコベは見られませんでした。
関連ページ 湿生植物・マルバノサワトウガラシ

Fig.4 在来水田雑草群落 (京都府 2013.10/11)
密生するヤナギスブタ、サンショウモ、水田型イヌタヌキモ、ヒロハイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、コナギ、チゴザサ、ヤノネグサ、クログワイ・・・とても刈り取り後の水田とは思えない光景でした。

Fig.5 水路内に生育するセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
セトヤナギスブタは山側の湧水を温めるために掘られた水田の水路内に多く見られました。
棚田でも限られた水田にのみ生育しており、個体数は多くありません。おそらくヤナギスブタの数十分の一ほどでしょう。

Fig.6 スブタ属3種の生体標本 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
同一水田内から採集したもので、セトヤナギスブタはヤナギスブタの2倍ほどの大きさであるのが分かります。
茎の径はセトヤナギスブタが約3mm、ヤナギスブタが約2mmでした。

Fig.7 スブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
現地ではあまり良い画像が撮れなかったので兵庫県内で過去に撮影したものを持って来ました。
葉はセトヤナギスブタよりも幅広く、ほぼ根生し、明瞭な茎を持たないのが特徴です。

Fig.8 ヤナギスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
これも兵庫県内のもの。
明瞭な茎を持ちますが、セトヤナギスブタよりも葉は短く、葉幅も狭くなります。
以下、3種の葉の長さと葉幅です。
・セトヤナギスブタ・・・葉長:6~8cm 葉幅:2.5~4mm(3.5mm程度が多かった)
・スブタ・・・葉長:10~30cm以上 葉幅:3~9mm
・ヤナギスブタ・・・葉長:2.5~5cm 葉幅:1.5~2.3mm

Fig.9 溜池のスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
溜池などの水深のある場所に生育するスブタは、ときに葉が長く伸びて40cmほどになることがあります。

Fig.10 セトヤナギスブタの葉 (京都府 2013.10/11)
明瞭な鋸歯が見られます。

Fig.11 スブタ属3種の鋸歯 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。同じ縮尺で撮影しています。
セトヤナギスブタの鋸歯が最も明瞭であることが判ります。

Fig.12 開花中のセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
花弁の長さは13mmとスブタと同程度の大きさです。
ヤナギスブタの花弁の長さは3~8mmと小型です。

Fig.13 スブタ属3種の果実 (京都府 2013.10/11)
上からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
スブタの果実は長く、セトヤナギスブタの果実の長さはヤナギスブタとあまり差はないようでした。果実内の種子数はセトヤナギスブタが圧倒的に少なく、このため自生地での個体数も少なくなるのでしょう。

Fig.14 スブタ属3種の種子 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
セトヤナギスブタの種子は大きく、1.8~2.5mmの範囲に納まりました。
表面の突起数は『日本水草図鑑』では2~10個と記されていますが、この個体は20個以上突起があるものも見られました。
しかし、種子の突起数は変異の範疇で、草体の様子からセトヤナギスブタであると思います。
結実も正常なのでスブタとヤナギスブタの雑種は考えにくいと思います。

Fig.15 淡緑色のセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
セトヤナギスブタは赤紫色を帯びる傾向がありますが、日陰では他の水草と同様、あまり色づかないようです。このような草体の色の変化は生育条件によって変化があるため、あまり同定の区別点としては使えません。
ただ、この場所にあったヤナギスブタとスブタは全く色づくものがなく、日当たりよい場所のものは区別が容易でした。
以下の2点の画像は色づいたスブタとヤナギスブタです。

Fig.16 一部の葉が色づいたスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
溜池に生育しているもので一部の葉が赤紫色を帯びています。

Fig.17 赤紫色に色づいたヤナギスブタ (兵庫県宝塚市 2012.10/8)
溜池に生育していたものです。

Fig.18 セトヤナギスブタとヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
水田内に生育しているもので、左がセトヤナギスブタ、右がヤナギスブタです。
同一環境下では色に差が出ていることが解ります。

Fig.19 クロゲンゴロウとヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
棚田ではクロゲンゴロウやタイコウチが沢山見られました。
以下は兵庫県で見られたスブタとヤナギスブタの混生地です。
兵庫県では最近セトヤナギスブタの自生のニュースを聞いたことがなく、現状不明です。
京都府のようにどこかの谷津に残っているといいのですが。

Fig.20 水田の減反部に生育するスブタとヤナギスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
シソクサ、アブノメ、キクモ、イヌミゾハコベ、アゼナ、アメリカアゼナ、アゼトウガラシなどとともに生育していました。
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関連ページ 沈水植物・ヤナギスブタ
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