冬のハナワラビの迷宮
2013/03/17 Sun. 22:52 [edit]
昨年末から今年の早春にかけてハナワラビの仲間を集中的に探してまわりました。
兵庫県で冬期に胞子葉を出すものとしてはフユノハナワラビ、アカハナワラビ、オオハナワラビ、モトマチハナワラビが生育していますが、2種以上が混生すると雑種を生じていることが多く、それぞれの種の線引きが容易ではありません。3種以上になると、どれが親種であるのか推測するのが難しく、まるで迷宮に迷い込んだ感じになってしまいます。
課題は山積していますが、とりあえずまとめておこうと思います。
画像:フユノハナワラビ、アカハナワラビ、アカフユノハナワラビ?、オオハナワラビ、
アイフユノハナワラビ、モトマチハナワラビ、
モトマチハナワラビとオオハナワラビの幼個体、
モトマチハナワラビとオオハナワラビ交雑個体、
モトマチハナワラビとフユノハナワラビ交雑個体?、
フユノハナワラビの変異個体?、ほか
アカネハナワラビの画像を追加しました。(2013.5/5)

Fig.1 フユノハナワラビ
日当たりよい草地-農地の畦、溜池土堤、草刈りされた土手、庭の草地などでよく見かけます。開けた場所に生育しているので眼につきやすく、自宅の庭にも生えています。

Fig.2 フユノハナワラビの葉
小羽片は鈍頭であることが多く、深裂します。裂片も丸味を帯び、辺縁の鋸歯は鈍頭。
葉面にはほとんど光沢はなく、脈が微妙に膨らんでいるものが多く見られます。
冬に紅変するものと、紅変しないものがあり、紅変するものはアカハナワラビや種間雑種のアカフユノハナワラビと混同しやすいものです。
紅変しても葉裏の色が変わりないものはフユノハナワラビ紅変型であることが多いようです。

Fig.3 胞子葉が倒れこんだフユノハナワラビ
フユノハナワラビの胞子葉は胞子を放出したあと枯れ始め、年を越すと葉柄ごと倒れこみます。
アカハナワラビも倒れこみますが、オオハナワラビやモトマチハナワラビは胞子放出後も胞子葉は枯れずに直立しています。

Fig.4 アカハナワラビ
明るい雑木林や社寺林の林縁など、長く土壌が撹乱されなかったような場所に生育するようで、兵庫県では自生地の少ない稀な種です。丹波地方では未記録だったので探したところ、胞子葉を持たない小さな個体が2株見つかったにすぎません。
画像は一昨年の12月にアカハナワラビの具体的特長をよく把握しないまま、自生地を案内していただいた時に撮影したもので、他の種も混じっているかもしれません。
葉が紅変していませんが、暖かい地域生えているからかもしれません。
また、越年しても紅変しない個体もあるようで、フユノハナワラビとの区別を難しくしています。

Fig.5 アカハナワラビの栄養葉
Fig.4と同じ場所のものです。小羽片はフユノハナワラビよりも尖り気味になります。
小羽軸は淡色となり、脈に沿ってカスリ状の模様が微妙に入るのですが、緑色のものは解りづらいです。

Fig.6 紅変したアカハナワラビの栄養葉
紅変すると、淡色の小羽軸や、脈のカスリ模様がはっきりしてきます。
葉の裏側も紅変します。

Fig.7 アカフユノハナワラビ?
フユノハナワラビとアカハナワラビが交雑したものをアカフユノハナワラビといいますが、画像の個体がそうであるかどうかは解りません。周囲にはフユノハナワラビしか見られず、カスリ模様は入っていますが、葉の形はフユノハナワラビと変わりがありません。この時はすぐ近くにコバノヒノキシダとトキワトラノオの雑種らしきものがあって、そちらに気を取られて裏面を確認しなかったのが悔やまれます。葉裏の確認は今冬の宿題です。

Fig.8 オオハナワラビ
この仲間では最も大きくなる種で、林縁から林床の肥沃でやや湿った場所を好むようです。
冬期にあまり乾燥しないような地域では、日なたに出てくることもあります。
小羽片が規則正しく切れ込む美しいハナワラビで、各地に普通に見られますが、見つけると嬉しくなるシダです。

Fig.9 オオハナワラビの小羽片
切れ込みは下に向かうほど深くなり、最下裂片の下側は心形状に湾曲します。
辺縁には尖った鋸歯が並びます。

Fig.10 オオハナワラビの葉柄
茎は地上近くで分枝します。左の直立気味なのは胞子葉の柄、右に斜上しているのは栄養葉の柄。
栄養葉の葉柄には細長い灰色の微毛が生え、葉軸上にも同様の毛が見られます。
フユノハナワラビやアカハナワラビの栄養葉の葉柄はほぼ無毛です。

Fig.11 紅変した葉をもったオオハナワラビ
日当たりよい場所に生育するものは、越年すると栄養葉が強く紅紫色を帯びることがあります。
生育しているのは乾燥した草地斜面で、葉縁が下側に巻いていました。
オオハナワラビの胞子葉は越年しても枯れることなく、晩春あたりまで直立しています。

Fig.12 群生するオオハナワラビ
植林地の平坦部にいくつかの塊りとなって群生していました。
周辺にはシダ類が多いのですが、オオハナワラビの群生箇所には他のシダや草本の被植がほとんどありません。
腐生菌類が生産した物質による影響でしょうか。
近くにはフユノハナワラビ、アカハナワラビ、モトマチハナワラビも生育し、雑種らしきものも多数見られました。画像中にもよく見ると怪しげな栄養葉を持ったものが見られます。

Fig.13 アイフユノハナワラビ
フユノハナワラビとオオハナワラビの雑種で、両種の混生地によく現れるもので、丹波地方ではよく見かけるものです。向陽~半日陰の草地に生育しているもので、胞子葉のソーラスが付く部分は枯れていますが、葉柄は直立したままです。葉には両種の特徴が見られ、紅変して葉縁が下に巻いています。
栄養葉の葉柄を見ると、まばらに微毛が見られました。

Fig.14 アカネハナワラビ (2013.5/5追加)
アカハナワラビとオオハナワラビの推定種間雑種で、両種の混生地に稀に見られるものです。栄養葉の全体の形はオオハナワラビに非常に近いが、葉面にはカスリ模様がある上、春期になって紅色から退色し、青白い印象を与えます。カスリ模様や退色後に青白くなるのは、アカハナワラビの特徴であり、両種の種間雑種であると考えられます。この個体の胞子葉はすでに倒れこんでほとんど枯れていました。一方、周囲に生育しているオオハナワラビはまだ胞子葉が直立している状態でした。周辺を探してみましたが、樹林下の薄暗い場所でアカハナワラビの生育は確認できませんでした。

Fig.15 アカネハナワラビの羽片拡大 (2013.5/5追加)
鋸歯は内側に湾曲し、裂片の縁には重鋸歯状となる部分が現れています。

Fig.16 オオハナワラビの栄養葉の変異
栄養葉の下方の裂片が細くなって、ソーラスを形成し、直立しています。
大型の個体に稀に見られます。

Fig.17 モトマチハナワラビ
伊豆大島の元町で、最近になって認識された種で、まだ原記載されていません。
南方系で種で、本来は照葉樹林下に生育するものですが、兵庫県では社寺周辺の植林地などで遺存的に生育しています。葉面に光沢があり、羽片や裂片の先は尖り、裂片の幅は多種に比べて狭いものです。
胞子葉は胞子放出後も枯れることなく、直立して越年します。

Fig.18 モトマチハナワラビの全草標本
この仲間は年に1枚の葉を生じますが、シカやイノシシなどの食害や撹乱を受けない場所では、モトマチハナワラビは地上に当年と昨年の2枚の栄養葉が見られ、さらに枯葉の下には痛んだ一昨年の栄養葉がよく見られます。このことから、モトマチハナワラビは常緑性であると考えられます。画像の標本では、昨年の栄養葉の基部付近に、枯れた昨年の胞子葉が干からびて残っているのが見えています。

Fig.19 モトマチハナワラビの羽片
葉面には光沢があり、小羽片は細かく中~深裂し、幅の狭い裂片の縁には尖った鋸歯が並びます。

Fig.20 モトマチハナワラビ(左)とオオハナワラビ(右)

Fig.21 モトマチハナワラビ(左)とオオハナワラビ(右)の葉
たまたま両種が接近して生えていました。両種の栄養葉の違いがよく解るかと思います。

Fig.22 モトマチハナワラビの葉柄
左から順に、昨年の栄養葉の葉柄、当年の栄養葉の葉柄、胞子葉の葉柄。
当年の栄養葉の葉柄にはオオハナワラビと同様の微毛が見られます。

Fig.23 モトマチハナワラビの自生状況
これまで丹波地方に十数か所の自生地を見つけましたが、遺存的に分布するためか群生地には出会っていません。多くは湿った植林地の林床で点在しています。オオハナワラビとともに生育している場所がほとんどで、画像中の右端にもオオハナワラビが見られます。

Fig.24 日なたで見られた栄養葉
モトマチハナワラビはあまり向陽地には出てきませんが、稀に日なたに生育しているものは、越年すると黄褐色を帯びているものがほとんどで、オオハナワラビが赤紫色を帯びるのとは大きな違いになります。

Fig.25 福知山で発見した個体
丹波市でもモトマチハナワラビが見つかったことから、モトマチハナワラビは氷上低地を通って福知山方面へと北上して分布域を広げているに違いないと思い探してみると、やはり見つけることができました。社寺林縁の向陽な草地で、黄変した強い光沢を持った栄養葉を広げていました。

Fig.26 モトマチハナワラビ(左)とオオハナワラビ(右)の幼個体
被植の少ない植林地の林床では、幼個体があってもよく目立ち、成長過程がよく観察できます。
モトマチハナワラビにはすでに小さな羽片に切れ込みが見えます。

Fig.27モトマチハナワラビとオオハナワラビの雑種と思われる個体
モトマチハナワラビとオオハナワラビとの中間的な特徴が見られ、胞子には不稔と思われるへこんだものが混じっています。(2015.1/2訂正)

Fig.28 モトマチハナワラビとオオハナワラビの混生地
小さなお堂の脇のシキミの木陰で残っているもので、午前中は向陽地となるような場所で混生しています。
しかし、ここに写っているものの大半が雑種であるかもしれません。向陽地での雑種の勉強には良い場所かもしれませんが、それにしても悩ましい個体ばかりです。さらに困ったことにはすぐ脇の草地にはフユノハナワラビもあり、そこにもモトマチハナワラビが進出していました。

Fig.29 栄養葉が赤褐色に染まった個体
Fig.27の脇にある刈り込まれた草地に生育しているものです。
モトマチハナワラビは向陽地では黄褐色を帯びるのを見てきましたが、ここでは赤褐色に染まっています。
葉面には光沢がありますが、裂片の幅はモトマチよりも広く感じられ、これもモトマチハナワラビとオオハナワラビの交雑個体ではないかと考えています。

Fig.30 モトマチハナワラビとフユノハナワラビの交雑個体?
植林地の暗い場所に生育している個体で、胞子葉は倒れこみ、栄養葉もしなだれて乱れています。
近くにはフユノハナワラビ、オオハナワラビ、モトマチハナワラビが生育していますが、胞子葉が倒れこむ形質にはフユノハナワラビの血が、裂片が狭く鋸歯が尖っている形質にはモトマチハナワラビの血が混じっているのではと感じさせます。
どのような胞子をつくるのか、今冬の課題です。

Fig.31 モトマチハナワラビとフユノハナワラビの交雑個体?
こちらは光条件がやや恵まれた社寺林の林床で見られたもので、やはり栄養葉に乱れが見られますが、フユノハナワラビとオオハナワラビの交雑の可能性も捨てきれません。

Fig.32 Fig.29の小羽片
小羽片の鋸歯には鋭頭のものと鈍頭のものが混ざっています。少し赤紫色を帯びているあたりは、片親がオオハナワラビの可能性を感じます。栄養葉の葉柄には微毛がまばらに見られました。この社寺林の林床には雑種と考えられるこのタイプだけが残っています。

Fig.33 フユノハナワラビの変異個体?
ナガボノワレモコウの生育する水田の畦に生育しているものです。
裂片の幅の狭いフユノハナワラビの変異個体かと考えていましたが、mst-kyさんのブログにも同様なものが見られ、胞子葉にも異常があることを知りました。
良く見ると画像のものも胞子葉(右側)にソーラスがほとんど付いていません。
フユノハナワラビに一定の割合で現れる変異や病変なのか、それとも何かとの雑種なのか、周辺を調べてみる必要がありそうです。
mst-kyさんのブログには、ハナワラビの仲間の胞子の顕微鏡画像もあり、雑種を含めてこの仲間を知りたい方には必須のブログでしょう。
「関西の花」関連ページ
関西の花・シダ フユノハナワラビ
関西の花・シダ オオハナワラビ
兵庫県で冬期に胞子葉を出すものとしてはフユノハナワラビ、アカハナワラビ、オオハナワラビ、モトマチハナワラビが生育していますが、2種以上が混生すると雑種を生じていることが多く、それぞれの種の線引きが容易ではありません。3種以上になると、どれが親種であるのか推測するのが難しく、まるで迷宮に迷い込んだ感じになってしまいます。
課題は山積していますが、とりあえずまとめておこうと思います。
画像:フユノハナワラビ、アカハナワラビ、アカフユノハナワラビ?、オオハナワラビ、
アイフユノハナワラビ、モトマチハナワラビ、
モトマチハナワラビとオオハナワラビの幼個体、
モトマチハナワラビとオオハナワラビ交雑個体、
モトマチハナワラビとフユノハナワラビ交雑個体?、
フユノハナワラビの変異個体?、ほか
アカネハナワラビの画像を追加しました。(2013.5/5)

Fig.1 フユノハナワラビ
日当たりよい草地-農地の畦、溜池土堤、草刈りされた土手、庭の草地などでよく見かけます。開けた場所に生育しているので眼につきやすく、自宅の庭にも生えています。

Fig.2 フユノハナワラビの葉
小羽片は鈍頭であることが多く、深裂します。裂片も丸味を帯び、辺縁の鋸歯は鈍頭。
葉面にはほとんど光沢はなく、脈が微妙に膨らんでいるものが多く見られます。
冬に紅変するものと、紅変しないものがあり、紅変するものはアカハナワラビや種間雑種のアカフユノハナワラビと混同しやすいものです。
紅変しても葉裏の色が変わりないものはフユノハナワラビ紅変型であることが多いようです。

Fig.3 胞子葉が倒れこんだフユノハナワラビ
フユノハナワラビの胞子葉は胞子を放出したあと枯れ始め、年を越すと葉柄ごと倒れこみます。
アカハナワラビも倒れこみますが、オオハナワラビやモトマチハナワラビは胞子放出後も胞子葉は枯れずに直立しています。

Fig.4 アカハナワラビ
明るい雑木林や社寺林の林縁など、長く土壌が撹乱されなかったような場所に生育するようで、兵庫県では自生地の少ない稀な種です。丹波地方では未記録だったので探したところ、胞子葉を持たない小さな個体が2株見つかったにすぎません。
画像は一昨年の12月にアカハナワラビの具体的特長をよく把握しないまま、自生地を案内していただいた時に撮影したもので、他の種も混じっているかもしれません。
葉が紅変していませんが、暖かい地域生えているからかもしれません。
また、越年しても紅変しない個体もあるようで、フユノハナワラビとの区別を難しくしています。

Fig.5 アカハナワラビの栄養葉
Fig.4と同じ場所のものです。小羽片はフユノハナワラビよりも尖り気味になります。
小羽軸は淡色となり、脈に沿ってカスリ状の模様が微妙に入るのですが、緑色のものは解りづらいです。

Fig.6 紅変したアカハナワラビの栄養葉
紅変すると、淡色の小羽軸や、脈のカスリ模様がはっきりしてきます。
葉の裏側も紅変します。

Fig.7 アカフユノハナワラビ?
フユノハナワラビとアカハナワラビが交雑したものをアカフユノハナワラビといいますが、画像の個体がそうであるかどうかは解りません。周囲にはフユノハナワラビしか見られず、カスリ模様は入っていますが、葉の形はフユノハナワラビと変わりがありません。この時はすぐ近くにコバノヒノキシダとトキワトラノオの雑種らしきものがあって、そちらに気を取られて裏面を確認しなかったのが悔やまれます。葉裏の確認は今冬の宿題です。

Fig.8 オオハナワラビ
この仲間では最も大きくなる種で、林縁から林床の肥沃でやや湿った場所を好むようです。
冬期にあまり乾燥しないような地域では、日なたに出てくることもあります。
小羽片が規則正しく切れ込む美しいハナワラビで、各地に普通に見られますが、見つけると嬉しくなるシダです。

Fig.9 オオハナワラビの小羽片
切れ込みは下に向かうほど深くなり、最下裂片の下側は心形状に湾曲します。
辺縁には尖った鋸歯が並びます。

Fig.10 オオハナワラビの葉柄
茎は地上近くで分枝します。左の直立気味なのは胞子葉の柄、右に斜上しているのは栄養葉の柄。
栄養葉の葉柄には細長い灰色の微毛が生え、葉軸上にも同様の毛が見られます。
フユノハナワラビやアカハナワラビの栄養葉の葉柄はほぼ無毛です。

Fig.11 紅変した葉をもったオオハナワラビ
日当たりよい場所に生育するものは、越年すると栄養葉が強く紅紫色を帯びることがあります。
生育しているのは乾燥した草地斜面で、葉縁が下側に巻いていました。
オオハナワラビの胞子葉は越年しても枯れることなく、晩春あたりまで直立しています。

Fig.12 群生するオオハナワラビ
植林地の平坦部にいくつかの塊りとなって群生していました。
周辺にはシダ類が多いのですが、オオハナワラビの群生箇所には他のシダや草本の被植がほとんどありません。
腐生菌類が生産した物質による影響でしょうか。
近くにはフユノハナワラビ、アカハナワラビ、モトマチハナワラビも生育し、雑種らしきものも多数見られました。画像中にもよく見ると怪しげな栄養葉を持ったものが見られます。

Fig.13 アイフユノハナワラビ
フユノハナワラビとオオハナワラビの雑種で、両種の混生地によく現れるもので、丹波地方ではよく見かけるものです。向陽~半日陰の草地に生育しているもので、胞子葉のソーラスが付く部分は枯れていますが、葉柄は直立したままです。葉には両種の特徴が見られ、紅変して葉縁が下に巻いています。
栄養葉の葉柄を見ると、まばらに微毛が見られました。

Fig.14 アカネハナワラビ (2013.5/5追加)
アカハナワラビとオオハナワラビの推定種間雑種で、両種の混生地に稀に見られるものです。栄養葉の全体の形はオオハナワラビに非常に近いが、葉面にはカスリ模様がある上、春期になって紅色から退色し、青白い印象を与えます。カスリ模様や退色後に青白くなるのは、アカハナワラビの特徴であり、両種の種間雑種であると考えられます。この個体の胞子葉はすでに倒れこんでほとんど枯れていました。一方、周囲に生育しているオオハナワラビはまだ胞子葉が直立している状態でした。周辺を探してみましたが、樹林下の薄暗い場所でアカハナワラビの生育は確認できませんでした。

Fig.15 アカネハナワラビの羽片拡大 (2013.5/5追加)
鋸歯は内側に湾曲し、裂片の縁には重鋸歯状となる部分が現れています。

Fig.16 オオハナワラビの栄養葉の変異
栄養葉の下方の裂片が細くなって、ソーラスを形成し、直立しています。
大型の個体に稀に見られます。

Fig.17 モトマチハナワラビ
伊豆大島の元町で、最近になって認識された種で、まだ原記載されていません。
南方系で種で、本来は照葉樹林下に生育するものですが、兵庫県では社寺周辺の植林地などで遺存的に生育しています。葉面に光沢があり、羽片や裂片の先は尖り、裂片の幅は多種に比べて狭いものです。
胞子葉は胞子放出後も枯れることなく、直立して越年します。

Fig.18 モトマチハナワラビの全草標本
この仲間は年に1枚の葉を生じますが、シカやイノシシなどの食害や撹乱を受けない場所では、モトマチハナワラビは地上に当年と昨年の2枚の栄養葉が見られ、さらに枯葉の下には痛んだ一昨年の栄養葉がよく見られます。このことから、モトマチハナワラビは常緑性であると考えられます。画像の標本では、昨年の栄養葉の基部付近に、枯れた昨年の胞子葉が干からびて残っているのが見えています。

Fig.19 モトマチハナワラビの羽片
葉面には光沢があり、小羽片は細かく中~深裂し、幅の狭い裂片の縁には尖った鋸歯が並びます。

Fig.20 モトマチハナワラビ(左)とオオハナワラビ(右)

Fig.21 モトマチハナワラビ(左)とオオハナワラビ(右)の葉
たまたま両種が接近して生えていました。両種の栄養葉の違いがよく解るかと思います。

Fig.22 モトマチハナワラビの葉柄
左から順に、昨年の栄養葉の葉柄、当年の栄養葉の葉柄、胞子葉の葉柄。
当年の栄養葉の葉柄にはオオハナワラビと同様の微毛が見られます。

Fig.23 モトマチハナワラビの自生状況
これまで丹波地方に十数か所の自生地を見つけましたが、遺存的に分布するためか群生地には出会っていません。多くは湿った植林地の林床で点在しています。オオハナワラビとともに生育している場所がほとんどで、画像中の右端にもオオハナワラビが見られます。

Fig.24 日なたで見られた栄養葉
モトマチハナワラビはあまり向陽地には出てきませんが、稀に日なたに生育しているものは、越年すると黄褐色を帯びているものがほとんどで、オオハナワラビが赤紫色を帯びるのとは大きな違いになります。

Fig.25 福知山で発見した個体
丹波市でもモトマチハナワラビが見つかったことから、モトマチハナワラビは氷上低地を通って福知山方面へと北上して分布域を広げているに違いないと思い探してみると、やはり見つけることができました。社寺林縁の向陽な草地で、黄変した強い光沢を持った栄養葉を広げていました。

Fig.26 モトマチハナワラビ(左)とオオハナワラビ(右)の幼個体
被植の少ない植林地の林床では、幼個体があってもよく目立ち、成長過程がよく観察できます。
モトマチハナワラビにはすでに小さな羽片に切れ込みが見えます。

Fig.27
モトマチハナワラビとオオハナワラビとの中間的な特徴が見られ、胞子には不稔と思われるへこんだものが混じっています。(2015.1/2訂正)

Fig.28 モトマチハナワラビとオオハナワラビの混生地
小さなお堂の脇のシキミの木陰で残っているもので、午前中は向陽地となるような場所で混生しています。
しかし、ここに写っているものの大半が雑種であるかもしれません。向陽地での雑種の勉強には良い場所かもしれませんが、それにしても悩ましい個体ばかりです。さらに困ったことにはすぐ脇の草地にはフユノハナワラビもあり、そこにもモトマチハナワラビが進出していました。

Fig.29 栄養葉が赤褐色に染まった個体
Fig.27の脇にある刈り込まれた草地に生育しているものです。
モトマチハナワラビは向陽地では黄褐色を帯びるのを見てきましたが、ここでは赤褐色に染まっています。
葉面には光沢がありますが、裂片の幅はモトマチよりも広く感じられ、これもモトマチハナワラビとオオハナワラビの交雑個体ではないかと考えています。

Fig.30 モトマチハナワラビとフユノハナワラビの交雑個体?
植林地の暗い場所に生育している個体で、胞子葉は倒れこみ、栄養葉もしなだれて乱れています。
近くにはフユノハナワラビ、オオハナワラビ、モトマチハナワラビが生育していますが、胞子葉が倒れこむ形質にはフユノハナワラビの血が、裂片が狭く鋸歯が尖っている形質にはモトマチハナワラビの血が混じっているのではと感じさせます。
どのような胞子をつくるのか、今冬の課題です。

Fig.31 モトマチハナワラビとフユノハナワラビの交雑個体?
こちらは光条件がやや恵まれた社寺林の林床で見られたもので、やはり栄養葉に乱れが見られますが、フユノハナワラビとオオハナワラビの交雑の可能性も捨てきれません。

Fig.32 Fig.29の小羽片
小羽片の鋸歯には鋭頭のものと鈍頭のものが混ざっています。少し赤紫色を帯びているあたりは、片親がオオハナワラビの可能性を感じます。栄養葉の葉柄には微毛がまばらに見られました。この社寺林の林床には雑種と考えられるこのタイプだけが残っています。

Fig.33 フユノハナワラビの変異個体?
ナガボノワレモコウの生育する水田の畦に生育しているものです。
裂片の幅の狭いフユノハナワラビの変異個体かと考えていましたが、mst-kyさんのブログにも同様なものが見られ、胞子葉にも異常があることを知りました。
良く見ると画像のものも胞子葉(右側)にソーラスがほとんど付いていません。
フユノハナワラビに一定の割合で現れる変異や病変なのか、それとも何かとの雑種なのか、周辺を調べてみる必要がありそうです。
mst-kyさんのブログには、ハナワラビの仲間の胞子の顕微鏡画像もあり、雑種を含めてこの仲間を知りたい方には必須のブログでしょう。
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category: シダ
thread: 博物学・自然・生き物 - janre: 学問・文化・芸術
コメント
冬のハナワラビ類の迷宮
ずしりと重い内容で、当面このブログが日本の暖帯のハナワラビ類のスタンダードになるような気が…。私もまだ完全には把握できていないグループだけに、英断に拍手を送ります。
光田 重幸 #UPCNk2uw URL [2013/03/20 19:14] edit
Re: 冬のハナワラビ類の迷宮
いつもご指導いただいているシダの先生からのお褒めのお言葉、身にあまる光栄です。ハナワラビの仲間、まだまだ知って間もないようなものなので、今後も生育環境を含めた生態に注意しつつ、観察事例を集めたいと思います。
昨日は福知山市から丹波市に抜けてきました、福知山では棚田のアマナの群生や、小川のカワモヅクの群落に癒されましたが、これといった成果はありませんでした。丹波市ではオオマルバコンロンソウ、キバナノアマナ、キンキエンゴサクが開花していました。オオマルバコンロンソウは、いよいよ急ピッチで探さないといけませんね。
昨日は福知山市から丹波市に抜けてきました、福知山では棚田のアマナの群生や、小川のカワモヅクの群落に癒されましたが、これといった成果はありませんでした。丹波市ではオオマルバコンロンソウ、キバナノアマナ、キンキエンゴサクが開花していました。オオマルバコンロンソウは、いよいよ急ピッチで探さないといけませんね。
マツモムシ06 #- URL [2013/03/20 22:39] edit
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