ハタベカンガレイ自生地での撹乱と増殖の記録 / 撹乱依存する湿生・水生植物
2017/02/24 Fri. 00:31 [edit]
2010年に丹波地方でハタベカンガレイの自生する溜池を発見したが、水深が30cm程度と比較的浅く、水が澄んでいるうえ、沈水葉のみの若い個体も水中に見られるため、翌年の2011年の初秋に自生地の水中画像の撮影を試みた。水深は浅く見えたが、ウェーダーを履いて水中に踏み込むと、水底には軟泥が20~40cmほど堆積しており、ウェーダーの膝から股まで水中に浸かった。水温も低く、上方に隣接する谷池があり、そこからの浸出水が地下水と混じっていることを思わせた。
この水中撮影のため、水底の多くの部分を撹乱する結果となった。翌年の2012年に自生地の様子を観察しに行くと、撹乱した場所を中心にして個体数は増加し、100個体前後生育しているのを確認した。小穂をつけた成熟個体ではあるが、まだ沈水葉を伴っている個体が数多く見られた。さらに翌2013年には倍増したように見え、2014年に個体数を計測したところ300個体前後となっていた。昨年の2016年には池に密生する状態になり、ざっと見積もって500個体以上となった。
以下は2011年から年毎の画像による記録で、2015年のものをのぞいて、全て同じ場所と角度で撮影している。
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大きな画像(1024×768)を見る時は、リンク先の画像を別のウインドかタブで表示してください。

Fig.1 発見当初のハタベカンガレイ (兵庫県丹波地方 2010.7/15)
小穂基部からクローンを多数芽生している。
この時は大型個体が3株と、沈水葉を伴う若い成熟個体が2株生育していた。
関連ページ 抽水~沈水植物・ハタベカンガレイ

Fig.2 撹乱当年の自生地 (兵庫県丹波地方 2011.9/24)
大型個体が5個体と、若い成熟個体が数個体生育。水中には十数個体の沈水葉のみの若い個体が生育していた。開放水面の多くの部分はフトヒルムシロをはじめとして、ヒツジグサ、ホソバミズヒキモからなる浮葉植物群落によって占められている。

Fig.3 水中の様子 (兵庫県丹波地方 2011.9/24)
沈水葉を展開したヒツジグサと、その手前にハタベカンガレイの沈水葉のみの若い個体が見られる。
糸状の沈水葉を茎から互生しているものはホソバミズヒキモ。

Fig.4 大型個体周辺に散在する若い個体 (兵庫県丹波地方 2011.9/24)
大型の親株周辺の水中に、沈水葉のみの若い個体が見られる。

Fig.5 撹乱翌年の自生地 (兵庫県丹波地方 2012.10/11)
以前からあった大型個体のほか、小穂を付けているが沈水葉を伴う若い成熟個体が急増した。

Fig.6 撹乱から2年後の自生地 (兵庫県丹波地方 2013.8/14)
個体数はさらに倍増しているように見え、浮葉植物群落はかなり後退している。

Fig.7 撹乱から3年後の自生地 (兵庫県丹波地方 2014.8/14)
この年、個体数計測すると300個体前後となっていた。

Fig.8 撹乱から4年後の自生地を別の方向から撮影 (兵庫県丹波地方 2015.7/31)
溜池の浅水域を除いて高い密度で群生している。

Fig.9 撹乱から5年後の昨年撮影の自生地 (兵庫県丹波地方 2016.8/6)
大型個体が密生しざっと見て500個体はあるように見える。目視での個人による個体数計測は難しく時間と根気が必要になるだろう。周辺には沈水葉のみの若い個体も見られる。

Fig.10 倒伏した有花茎にみられる芽生 (兵庫県丹波地方 2013.8/14)
短期間によるこのような増殖は、撹乱によって泥中の深い場所で休眠していた種子が地表近くに移動して目覚めたことと、芽生したクローンが周辺に拡散されたためだろう。
ハタベカンガレイは7~8月に小穂基部にクローンを多数芽生し、有花茎が倒伏して枯れることによって接地して増殖する。多くのクローンは親株や水草に絡んで水底に定着するが、Fig.8の画像に見られる池の水際に生育しているものは、浮遊していたクローンが岸辺に吹き寄せられて定着したものだろう。
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1年生の湿生・水生植物が世代を繋ぐには、生育条件として氾濫や耕起などの撹乱が不可欠となる例が比較的多い。衰退しつつある一部の多年生のものも、同様な撹乱によって埋土種子から回復が可能なように思われる。特に衰退の原因が水質の悪化でなければ、この手法は有効だろう。
以下に撹乱を必要とするものをいくつか挙げておきたい。

Fig.11 撹乱の翌年に出現したオニバス (兵庫県播磨地方 2015.8/6)
溜池の土堤改修の翌年に出現したが、昨年は出現しなかった。
ウェーダーを履いて池底を少し撹乱しておいたが、オニバスの場合は小規模な人力程度の撹乱では効果は少なく、重機による撹乱が必要なレベルかもしれない。
関連ページ 浮葉植物・オニバス

Fig.12 撹乱環境に生育するデンジソウ (兵庫県摂津地方 2009.10/15)
原野環境的な小湿地に生育しており、クルマのわだち周辺に生育していた。
現在は遷移が進んで見られなくなっているが、デンジソウの胞子嚢は強固で、長期にわたって胞子が保存されるという。新たな撹乱と充分な水分があれば、再び出現するだろう。
関連ページ 湿生植物・デンジソウ

Fig.13 休耕田に生育するミズネコノオ (兵庫県丹波地方 2014.9/29)
休耕された当年、ミズネコノオの大型個体が多数見られたが、翌年は高茎草本が増加して個体数はわずかとなり、さらに次の年はセイタカアワダチソウが繁茂して全く見られなくなった。
ミズネコノオは1年草であるが、このような場合でもできるだけ早い時期に春期に耕起して湛水状態とすることによって回復は可能だろう。多くの1年生の水田雑草は同様な傾向にある
関連ページ 湿生植物・ミズネコノオ

Fig.14 休耕田に生育するコホタルイ (滋賀県 2014.9/8)
2014年に近畿地方および滋賀県新産として発見・報告(「京都植物」)したが、翌年には早くも高茎草本に覆われて消失したという。
コホタルイは多年生草本であるが、このような場合は結実期を過ぎた晩秋~早春にトラクターで耕起して、水を入れることにより復旧する可能性が高い。
関連ページ 湿生植物・コホタルイ
この水中撮影のため、水底の多くの部分を撹乱する結果となった。翌年の2012年に自生地の様子を観察しに行くと、撹乱した場所を中心にして個体数は増加し、100個体前後生育しているのを確認した。小穂をつけた成熟個体ではあるが、まだ沈水葉を伴っている個体が数多く見られた。さらに翌2013年には倍増したように見え、2014年に個体数を計測したところ300個体前後となっていた。昨年の2016年には池に密生する状態になり、ざっと見積もって500個体以上となった。
以下は2011年から年毎の画像による記録で、2015年のものをのぞいて、全て同じ場所と角度で撮影している。
*画像クリックで、別ウィンドで表示されます。
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Fig.1 発見当初のハタベカンガレイ (兵庫県丹波地方 2010.7/15)
小穂基部からクローンを多数芽生している。
この時は大型個体が3株と、沈水葉を伴う若い成熟個体が2株生育していた。
関連ページ 抽水~沈水植物・ハタベカンガレイ

Fig.2 撹乱当年の自生地 (兵庫県丹波地方 2011.9/24)
大型個体が5個体と、若い成熟個体が数個体生育。水中には十数個体の沈水葉のみの若い個体が生育していた。開放水面の多くの部分はフトヒルムシロをはじめとして、ヒツジグサ、ホソバミズヒキモからなる浮葉植物群落によって占められている。

Fig.3 水中の様子 (兵庫県丹波地方 2011.9/24)
沈水葉を展開したヒツジグサと、その手前にハタベカンガレイの沈水葉のみの若い個体が見られる。
糸状の沈水葉を茎から互生しているものはホソバミズヒキモ。

Fig.4 大型個体周辺に散在する若い個体 (兵庫県丹波地方 2011.9/24)
大型の親株周辺の水中に、沈水葉のみの若い個体が見られる。

Fig.5 撹乱翌年の自生地 (兵庫県丹波地方 2012.10/11)
以前からあった大型個体のほか、小穂を付けているが沈水葉を伴う若い成熟個体が急増した。

Fig.6 撹乱から2年後の自生地 (兵庫県丹波地方 2013.8/14)
個体数はさらに倍増しているように見え、浮葉植物群落はかなり後退している。

Fig.7 撹乱から3年後の自生地 (兵庫県丹波地方 2014.8/14)
この年、個体数計測すると300個体前後となっていた。

Fig.8 撹乱から4年後の自生地を別の方向から撮影 (兵庫県丹波地方 2015.7/31)
溜池の浅水域を除いて高い密度で群生している。

Fig.9 撹乱から5年後の昨年撮影の自生地 (兵庫県丹波地方 2016.8/6)
大型個体が密生しざっと見て500個体はあるように見える。目視での個人による個体数計測は難しく時間と根気が必要になるだろう。周辺には沈水葉のみの若い個体も見られる。

Fig.10 倒伏した有花茎にみられる芽生 (兵庫県丹波地方 2013.8/14)
短期間によるこのような増殖は、撹乱によって泥中の深い場所で休眠していた種子が地表近くに移動して目覚めたことと、芽生したクローンが周辺に拡散されたためだろう。
ハタベカンガレイは7~8月に小穂基部にクローンを多数芽生し、有花茎が倒伏して枯れることによって接地して増殖する。多くのクローンは親株や水草に絡んで水底に定着するが、Fig.8の画像に見られる池の水際に生育しているものは、浮遊していたクローンが岸辺に吹き寄せられて定着したものだろう。
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1年生の湿生・水生植物が世代を繋ぐには、生育条件として氾濫や耕起などの撹乱が不可欠となる例が比較的多い。衰退しつつある一部の多年生のものも、同様な撹乱によって埋土種子から回復が可能なように思われる。特に衰退の原因が水質の悪化でなければ、この手法は有効だろう。
以下に撹乱を必要とするものをいくつか挙げておきたい。

Fig.11 撹乱の翌年に出現したオニバス (兵庫県播磨地方 2015.8/6)
溜池の土堤改修の翌年に出現したが、昨年は出現しなかった。
ウェーダーを履いて池底を少し撹乱しておいたが、オニバスの場合は小規模な人力程度の撹乱では効果は少なく、重機による撹乱が必要なレベルかもしれない。
関連ページ 浮葉植物・オニバス

Fig.12 撹乱環境に生育するデンジソウ (兵庫県摂津地方 2009.10/15)
原野環境的な小湿地に生育しており、クルマのわだち周辺に生育していた。
現在は遷移が進んで見られなくなっているが、デンジソウの胞子嚢は強固で、長期にわたって胞子が保存されるという。新たな撹乱と充分な水分があれば、再び出現するだろう。
関連ページ 湿生植物・デンジソウ

Fig.13 休耕田に生育するミズネコノオ (兵庫県丹波地方 2014.9/29)
休耕された当年、ミズネコノオの大型個体が多数見られたが、翌年は高茎草本が増加して個体数はわずかとなり、さらに次の年はセイタカアワダチソウが繁茂して全く見られなくなった。
ミズネコノオは1年草であるが、このような場合でもできるだけ早い時期に春期に耕起して湛水状態とすることによって回復は可能だろう。多くの1年生の水田雑草は同様な傾向にある
関連ページ 湿生植物・ミズネコノオ

Fig.14 休耕田に生育するコホタルイ (滋賀県 2014.9/8)
2014年に近畿地方および滋賀県新産として発見・報告(「京都植物」)したが、翌年には早くも高茎草本に覆われて消失したという。
コホタルイは多年生草本であるが、このような場合は結実期を過ぎた晩秋~早春にトラクターで耕起して、水を入れることにより復旧する可能性が高い。
関連ページ 湿生植物・コホタルイ
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