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Satoyama, Plants & Nature

ウメバチソウの咲く貧栄養湿地 -西宮の自然- 

 兵庫県は花崗岩や流紋岩質の基岩が広がる南部を中心として、数多くの貧栄養な湿地が点在しています。西宮市も例外ではなく、有名な甲山湿原をはじめとして大小の貧栄養な湿地が見られます。
 本州中部以北で発達する高層湿原は主に雨水によって涵養され、ふつう高所で低い気温により有機物は分解されず、泥炭が発達して土壌は酸性に傾き、適度な栄養下で大きく成長する草本は生育できず、発達したミズゴケ類の群落中に貧栄養かつ嫌気的環境にも生育しうる草本が生育します。
 一方で花崗岩や流紋岩ではナトリウムやカリウムの含有量はふつう少なく、風化土壌は酸性に傾きがちで、低地の低水温の湧水が湧出するような湿地では貧栄養な湿地が形成されることがあります。形成要因は地すべりによって表土が剥き出しとなり、湧水のある水源が堰き止められるものがほとんどで、泥炭は形成されませんが、緩斜面で湧水が広範な面積を占める場合は貧栄養湿地が成立し、寒冷期に南下した種が遺存的にそのような場所に生育していることがあります。
 今回はちょうどウメバチソウの開花期ということもあって、久しぶりに西宮市内のウメバチソウが咲く貧栄養な湿地を訪れてみました。この湿地の基岩は六甲山地に広く見られる花崗岩からなり、風化してできた肌理の細かい「まさ土」がゆるい湧水の流れにより堆積して数多くの湿生植物の生育する湿地となっています。ここは湿生植物を観察しはじめた頃、頻繁に通っていた思い出深い場所でもあり、今でもほとんどの種が健在でした。
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ウメバチソウの咲く貧栄養湿地
Fig.1 ウメバチソウの咲く貧栄養湿地 (西宮市 2016.10/14)
ウメバチソウは日本のほか、台湾、東アジア北部、樺太、千島に分布し、台湾では高所に生育し、北方系の種です。国内では低地でも貧栄養湿地や裸地状の湿った草地や草刈りの行われる棚田の土手に遺存的に生育しています。酸性に傾いた貧栄養湿地では競合種が少ないため、最終氷期に定着したものと考えられ、この湿地の成立が比較的古いものと解ります。
関連ページ 湿生植物・ウメバチソウ

開花したウメバチソウ
Fig.2 開花したウメバチソウ (西宮市 2016.10/14)
思惑通り、ちょうど開花全盛で多数の開花個体が見られました。西宮市内では時に日当たりのよい渓流畔の湧水に濡れた岩場にも見られますが、種子の供給源はこの湿地であるかもしれません。ウメバチソウの種子は1mm以下で小さく、泥とともに動物や鳥類によって容易に運ばれるでしょう。

ウメバチソウの花の拡大
Fig.3 ウメバチソウの花の拡大 (西宮市 2016.10/14)
ウメバチソウの魅力は先端に腺体を持った多数に糸状に裂開した仮雄蕊。
腺体は始め黄色ですが、やがて脱色して小さくなり透明となります。

オオミズゴケのマット
Fig.4 オオミズゴケのマット (西宮市 2016.10/14)
湿地の大部分はオオミズゴケ群落が発達し、そこに湿地を特徴付ける湿生植物が生育しています。
関連ページ 湿生植物・オオミズゴケ

ウメバチソウとノガリヤス
Fig.5 ウメバチソウとノガリヤス (西宮市 2016.10/14)
湿地周縁部のこんもりとしたオオミズゴケのマット上に生育しています。
ノガリヤスは湿地の林縁部にのみ少数が見られ、湿地の主要構成種ではなく、山野に広く生育する常在種です。
関連ページ 関西の花/イネ科・ノガリヤス

ミミカキグサ
Fig.6 ミミカキグサ (西宮市 2016.10/14)
湿地の裸地部から内部の細流、水溜り内に生育しています。
この時期は寒気を避けるためか、花茎は低く少数の花を付けています。
関連ページ 湿生植物・ミミカキグサ

ホザキノミミカキグサ
Fig.7 ホザキノミミカキグサ (西宮市 2016.10/14)
本種もミミカキグサ同様、寒気のため花茎は低くて穂咲き状とならず、花茎には1~2花が付いている程度でした。
関連ページ 湿生植物・ホザキノミミカキグサ

ムラサキミミカキグサ
Fig.8 ムラサキミミカキグサ (西宮市 2016.10/14)
本種はこの仲間のなかでは、この時期もっとも草丈が低く、花自体も小さくなります。
ムラサキミミカキグサは比較的古くからある湿地に生育し、長期にわたって土壌の大きな撹乱のなかった自然度の高い湿地に生育しています。生育するには持続的に湧水の供給が必要で、ミミカキグサの中では長期維持が比較的困難な部類に入ります。
関連ページ 湿生植物・ムラサキミミカキグサ

沈水葉をつけたムラサキミミカキグサ
Fig.9 沈水葉をつけたムラサキミミカキグサ (西宮市 2016.10/14)
湿地内の湧水の水溜りの泥中に地下茎が這っているものは、光条件が低下するためか沈水葉といえるような大きな葉を付けています。本種はミミカキグサの仲間の中でも最も大きな沈水葉をつけ、時に長さ5cmに達することもあります。

モウセンゴケ
Fig.10 モウセンゴケ (西宮市 2016.10/14)
貧栄養な湿地では必ず見られる常在種で、西宮市内でも日当たりよく湧水のあるような場所でよく見かけます。この湿地では表水のある裸地から、細流周辺、日当たりよいオオミズゴケのマット上に多数の個体が見られます。コモウセンゴケやトウカイコモウセンゴケは丘陵地などのより低地に見られますが、ここは標高500mを超えるため近縁2種は生育していません。西宮市内ではトウカイコモウセンゴケは限られた場所にわずかに見られますが、開発が盛んな丘陵地では生育適地が失われコモウセンゴケは確認できていません。
関連ページ 湿生植物・モウセンゴケ

イヌノヒゲ
Fig.11 イヌノヒゲ (西宮市 2016.10/14)
湿地内に広く生育している1年生草本で、貧栄養湿地によく見られる種です。
似たものにニッポンイヌノヒゲがありますが、こちらは溜池畔によく見られます。
両種が混生する場所もありますが、小花の苞が有毛かどうかルーペで観察して区別します。
無毛の場合はニッポンイヌノヒゲで、有毛の場合はイヌノヒゲとなります。
関連ページ 湿生植物・イヌノヒゲ

シロイヌノヒゲ
Fig.11 シロイヌノヒゲ (西宮市 2016.10/14)
シロイヌノヒゲは完全に結実して、頭花と花茎がドライフラワーのようになっていました。
シロイヌノヒゲは最新の「Flora of Japan」ではイヌノヒゲと区別されなくなり、同種とされました。
遺伝子解析に基づくものなのですが、開花結実期はイヌノヒゲよりも少し早くて生態的な違いが見られ、生態的変異の範疇が同一DNA内に仕込まれているのでしょうか?
このほか、この湿地ではイトイヌノヒゲが生育しています。
関連ページ 湿生植物・シロイヌノヒゲ

フトヒルムシロ
Fig.12 フトヒルムシロ (西宮市 2016.10/14)
フトヒルムシロは腐植質の溜池や貧栄養な溜池や水路などで生育しています。
画像の上部に見られる褐色の泥は水酸化鉄(酸化第二鉄、酸化鉄( Ⅲ)、Fe2 O3)が沈殿したもので、酸性の貧栄養な湿地ではよく見られるもので、また鉄バクテリアによっても生産されます。これが長年にわたって堆積し凝固したものが褐鉄鉱となり、植物の根の周りで大量に発生した鉄バクテリアにより生成されたチューブ状のものは、土中で長い年月をかけて「高師小僧」となります。
関連ページ 浮葉植物・フトヒルムシロ

ヒナザサ
Fig.13 ヒナザサ (西宮市 2016.10/14)
貧栄養な湿地や、秋季に減水した溜池の縁などに見られる1年草です。西宮市内では5ヶ所で生育しており、ここでは常に表水があり、かつ中~大型の草本の生えない場所に見られます。
関連ページ 湿生植物・ヒナザサ

ミカヅキグサ
Fig.14 ミカヅキグサ (西宮市 2016.10/14)
本州の中部以北では高層湿原に見られる北方系の種で、西日本では貧栄養湿地に遺存的に分布しています。本種もやはり氷期の生き残りだと考えられており、湿地内では湧水が常ににじみ出している場所に見られます。すでに結実し、開花中は白色だった小穂も褐色になって、イヌノハナヒゲと紛らわしくなっています。
関連ページ 湿生植物・ミカヅキグサ

イヌノハナヒゲ
Fig.15 イヌノハナヒゲ (西宮市 2016.10/14)
貧栄養湿地に見られる湿生植物群落の主要構成種の一つで、貧栄養な溜池畔や経年した湿田休耕田などにもよく見られます。西宮市内の主要な貧栄養湿地では必ず出現するカヤツリグサ科の草本です。
関連ページ 湿生植物・イヌノハナヒゲ

イトイヌノハナヒゲ
Fig.16 イトイヌノハナヒゲ (西宮市 2016.10/14)
貧栄養な湿地から、貧栄養で粘土質の半裸地にまで生育する多年草で、本種が出現する場所では他にも面白い草本が見られることが多いように思います。
関連ページ 湿生植物・イトイヌノハナヒゲ

イヌシカクイ
Fig.17 イヌシカクイ (西宮市 2016.10/14)
貧栄養湿地の主要構成種の一つで、狭義シカクイやマシカクイよりも貧栄養な湿地を好みます。
貧栄養傾向のある湿地では、先ずヤマイが現れ、次に本種やコアゼガヤツリ、自然度が高くなってくるとイヌノハナヒゲやイトイヌノヒゲ、コシンジュガヤが出現します。
この湿地はやや標高の高い場所にあるため、南方系のコシンジュガヤやマネキシンジュガヤの定着は見られません。標高の低い甲山湿原などではシンジュガヤの仲間も定着しています。
関連ページ 湿生植物・イヌシカクイ

コマツカサススキ
Fig.18 コマツカサススキ (西宮市 2016.10/14)
西宮市内ではよく見かけるものですが、本種も貧栄養な湿地を好みます。
すでに結実期で、小穂は散り始めていました。
関連ページ 湿生植物・コマツカサススキ

ヌマガヤ
Fig.19 ヌマガヤ (西宮市 2016.10/14)
北方系の種で、西日本では貧栄養湿地に遺存的に分布し、カミスキスダレグサという風雅な別名を持っています。兵庫県南部では用水路の脇などでもふつうに生育していますが、兵庫県中部では稀で、但馬には分布せず、花崗岩地や流紋岩地の少ない隣県の京都府では、絶滅寸前種という扱いになっています。本種は本州中部以北では高層湿原に生育して草丈が低くなりますが、西日本の貧栄養湿地では草体が大型化し、貧栄養湿地の主要構成種の一つとなります。
湿地内とその周辺では他にイネ科草本のトダシバが生育していますが、これは貧栄養湿地に限らず、林縁から草地にいたるまで広く見られます。
関連ページ 湿生植物・ヌマガヤ

サワシロギク
Fig.20 サワシロギク (西宮市 2016.10/14)
サワシロギクはウメバチソウが咲く頃にはほぼ開花は終わっており、ぽつぽつと紅変した花が残っている程度でした。湿地では、ヌマガヤやトダシバの株元を足場にして生育しているのをよく見かけます。
関連ページ 湿生植物・サワシロギク

結実したカキラン
Fig.21 結実したカキラン (西宮市 2016.10/14)
カキランもサワシロギクと同様、ヌマガヤやトダシバの生育するような湿地の周縁部に見られます。
この湿地ではカキランの他にコバノトンボソウ、トキソウが生育しています。
関連ページ 湿生植物・カキラン

ヒメカリマタガヤ
Fig.22 ヒメカリマタガヤ (西宮市 2016.10/14)
本種は湿地周辺部の「まさ土」が露出し、やや乾いた裸地に生育しています。
ごく近縁のカリマタガヤは栄養分の多い溜池畔の湿地などに見られ大型化するのに対して、本種はごく小さく貧栄養地の裸地に見られます。
リンドウが貧栄養湿地に適応しホソバリンドウとなったのと同様な適応型と見るべきものでしょう。
関連ページ 湿生植物・ヒメカリマタガヤ

センブリ
Fig.23 センブリ (西宮市 2016.10/14)
湿地周辺部の半裸地にヒメカリマタガヤやアリノトウグサとともに点在しています。
本種は貧栄養地特有のものではありませんが、貧栄養地では本種が好む粘土質の裸地~半裸地が形成されやすく、そのため西宮市内の山野ではよく見かけます。
関連ページ 関西の花・センブリ

果実期のウメモドキ
Fig.24 果実期のウメモドキ (西宮市 2016.10/14)
湿地を中心部(湧水の溜まりや細流があるかにじみ出して表水がある)・周縁部(中~大型の湿生草本があり表土は湿っているかオオミズゴケ群落がある)・周辺部(オオミズゴケ群落はあるが裸地部の表土は乾き気味で丈の低いネザサの侵入がある)・外周部(オオミズゴケ群落はあるがネザサと低木が優占する)と分けるとするなら、本種は周辺部・外周部にイヌツゲやノリウツギ、ノイバラなどの低木とともに出現することが多いです。貧栄養湿地に限らず湿地や溜池周辺に見られ、栄養状態がよければ多数の結実が見らますが、貧栄養湿地では画像程度の結実であることが多いようです。
関連ページ 湿生植物・ウメモドキ

ミヤマアカネ
Fig.25 ミヤマアカネ (西宮市 2016.10/14)
ミヤマアカネは各地で減少傾向にあって、兵庫県版RDBでもCランクとされ、保護策を検討している地域も多いようですが、西宮市内ではまだ見かける機会も多く、自宅の庭にも時々飛来しています。
翅にある褐色の斑紋が特徴的で近縁の他種とはひと目見るだけで区別可能なため、市民を交えた分布調査が進んでいる種でもあります。

ヒメアカネ
Fig.26 ヒメアカネ (西宮市 2016.10/14)
赤トンボの中では最も遅くまで活動する種のうちの一つで、湿地や水生植物の多い溜池でよく見かけます。この湿地では夏場にはハッチョウトンボが見られ、春先にはカスミサンショウウオが産卵に訪れます。残念ながらヒメタイコウチやヒメヒカゲは標高が高いため生息しておらず、記録もありません。

ネキトンボ
Fig.27 ネキトンボ (西宮市 2016.10/14)
市内のやや高所の溜池で見られましたが丘陵地の溜池で見かけるアカネです。ショウジョウトンボに似ていますが、脚は黒く、胸部側面に太く明瞭な黒色条があって区別されますが、見慣れると大きさと腹部の細さですぐにショウジョウトンボとは違うことが解ります。

タイリクアカネ
Fig.28 タイリクアカネ (西宮市 2016.10/14)
本種は平地の学校のプールや都市のビオトープでも生育できる逞しいアカネですが、ここでは澄んだ溜池の縁でネキトンボと縄張り争いをしていました。翅が透明で、翅脈が濃紅色に色付くことで近似種と区別できます。

ナメラダイモンジソウ
Fig.29 ナメラダイモンジソウ (西宮市 2016.10/14)
帰途に立ち寄った渓谷ではナメラダイモンジソウが開花真っ盛りでした。
裏六甲の谷筋では近縁のダイモンジソウやジンジソウも最盛期を迎えていることでしょう。
関連ページ 関西の花・ナメラダイモンジソウ

アキチョウジ
Fig.30 アキチョウジ (西宮市 2016.10/14)
ナメラダイモンジソウの生育する渓流畔では、アキチョウジが開花終盤となって長い花茎を伸ばしていました。これらの花が終わると田園地帯ではヤマラッキョウやリンドウの花が咲き始め、花の季節の最後を飾ります。
関連ページ 関西の花・アキチョウジ
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