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Satoyama, Plants & Nature

7月の花など 

7月中はタツナミソウ類のまとめや、フトイ類のサンプル集めとデータ取りでブログの更新がなかなかできませんでした。調査の合間にいろいろと観察していたのですが、見直すと膨大な数の画像が溜まっていました。今回はその中から厳選(?)したものを載せました。
画像:トウカイコモウセンゴケ、コウヤザサ、カキラン、コヒロハハナヤスリ、ミズユキノシタ、
   ノギラン、ハリコウガイゼキショウ、チダケサシ、オオバギボウシ、ヌマトラノオ、
   タチカモメヅル、オモダカ、イヌタヌキモ、ヒメミクリ、タカトウダイ、クモラン、
   サイコクヒメコウホネ、オニユリ、ユウスゲ、キキョウ、ヤブレガサモドキ、クルマバナ、
   オオチャバネセセリ、ジャノメチョウ、ミドリシジミ、ヒバカリ
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。
トウカイコモウセンゴケ
Fig.1 トウカイコモウセンゴケの花 (兵庫県神戸市 2013.6/25)
6月後半の撮影ですが開花は長く、6月から9月頃まで、場所によっては11月まで開花している所もあります。
花はコモウセンゴケに似ていますが、兵庫県内ではコモウセンゴケよりも広範囲に生育しています。
関連ページ 湿生植物・トウカイコモウセンゴケ

コウヤザサ
Fig.2 コウヤザサ (兵庫県神戸市 2013.6/25)
なぜかweb上で情報量の少ないイネ科の草本です。岩屑の堆積した湿った林縁や林床に群生しており、兵庫県では自生地が多いですが、絶滅危惧種となっている地域もあるようです。
繊細な草体で群生する姿は涼しげで、好きなイネ科草本のひとつです。

カキラン
Fig.3 カキラン (兵庫県篠山市 2013.7/1)
山際の休耕田の畦でカキランが点在し、開花していました。
休耕田内にはオトコゼリの群生やサワシロギクなども生育し、なかなか二次的自然度の高そうな場所でした。
今頃はちょうどオトコゼリが満開になっているでしょう。
関連ページ 湿生植物・カキラン

コヒロハハナヤスリ
Fig.4 コヒロハハナヤスリ (兵庫県篠山市 2013.7/1)
社寺境内や墓地でよく見かけますが、里山では砂利を敷いた古い農道や溜池土堤で見かけます。
ここではカキラン、イシモチソウ、ウメバチソウ、スズサイコ、リンドウ、キキョウなどが生育する溜池土堤直下の砂利を敷いた農道上に生育していました。
関連ページ 湿生植物・コヒロハハナヤスリ

ミズユキノシタ
Fig.5 水中のミズユキノシタ (京都府福知山市 2013.7/8)
兵庫県ではありふれた水湿生草本ですが、京都府では標本数が少ないためか準絶滅危惧種となっています。
訪れた地域では山間の谷池や、谷戸の休耕田に群生が見られました。
この溜池では動画も撮影したので、よろしければご笑覧ください。
福知山市の山間谷池の水中動画 (Youtube)
関連ページ 湿生植物・ミズユキノシタ

ノギラン
Fig.6 ノギランの花 (兵庫県西宮市 2013.7/9)
里山の農道脇の粘土質の斜面でノギランが開花していました。
よく見ると左側の花序の中ほどあたりに花の色彩にそっくりなハナグモの仲間が潜んでいます。
撮影中には脇の藪からノウサギが飛び出してきて驚かされました。
関連ページ 湿生植物・ノギラン

ハリコウガイゼキショウ
Fig.7 ハリコウガイゼキショウ (兵庫県西宮市 2013.7/9)
溜池畔に抽水状態で生育している集団で、結実期を迎えていました。
同じ場所ではより深い場所ではシズイが開花中でした。
関連ページ 湿生植物・ハリコウガイゼキショウ

チダケサシ
Fig.8 チダケサシ (兵庫県篠山市 2013.7/11)
里山の谷津の農道脇で開花していました。
関連ページ 湿生植物・チダケサシ

オオバギボウシ
Fig.9 オオバギボウシ (兵庫県篠山市 2013.7/11)
前記のチダケサシやノアザミ、サトメシダなどとともに谷津の農道脇に群生していました。
花の少ないこの時期にもかかわらず、この谷津では沢山の花が見られました。
関連ページ 関西の花・オオバギボウシ

ミズトラノオ
Fig.10 ヌマトラノオ (兵庫県篠山市 2013.7/11)
谷津の休耕田のヨシの株元で群生するヌマトラノオが開花していました。
関連ページ 湿生植物・ヌマトラノオ

タチカモメヅル
Fig.11 タチカモメヅル (兵庫県篠山市 2013.7/11)
休耕田の畦ではおびただしい数のタチカモメヅルが生育し、開花しはじめたものもありました。
関連ページ 湿生植物・タチカモメヅル

開花したオモダカ
Fig.12 開花したオモダカ (兵庫県福崎町 2013.7/15)
今年はじめて見た開花個体です。水田の減反地に生育していました。
開花しているのは雄花部で、花茎下方にある雌花は開花後で、実際に開花し始めたのは1週間ほど前でしょう。
近くのアギナシ自生地ではまだアギナシの開花は見られませんでした。
関連ページ 抽水植物・オモダカ

イヌタヌキモ
Fig.13 水路に生育するイヌタヌキモ (兵庫県福崎町 2013.7/15)
オモダカの生育する水田の脇には素掘りの湛水状態の水路があり、そこにイヌタヌキモ、ミズオオバコ、ミズニラsp.、ミズユキノシタ、ウキゴケsp.などが生育しています。
画像ではイヌタヌキモのほか、右中央部でウキゴケsp.の塊が浮いています。
訪れたのが早朝であったため、ミズオオバコのツボミはありましたが、開花は見れませんでした。
すぐ近くの溜池や水路にはヒメミクリらしきものもあり、一度しっかり調査するべき地域です。
関連ページ 浮遊植物・イヌタヌキモ  湿生~浮遊植物・ウキゴケ複合種

ヒメミクリ
Fig.14 ヒメミクリ (兵庫県播磨地方 2013.7/15)
某農専高の自生地調査に便乗してヒメミクリ自生地を観察してきました。
始終降雨があり、高湿度と高温でレンズが曇り、クリアな画像が撮影できませんでした。
自生地は土砂の流入と植生の遷移の勢いが強く、裸地部分はかなり後退しているとのこと。
私にはイヌシカクイの繁茂が土砂と腐植質を蓄積する主要な要因に見えました。
しかし湿原全体に蔓延っているイヌシカクイを駆除するには大変な努力が必要に思えます。
湿原にはムラサキミミカキグサ、サギソウ、トキソウなどの貧栄養湿地に生育する稀少種が生育していますが、自生箇所の傾斜面の角度は非常に緩く、イヌシカクイの繁茂が栄養塩類の蓄積に寄与して、現状であれば数年で半裸地状湿地に生育する種はイヌシカクイ群落の拡張と、そこに定着するハンノキやヤナギ類の種子の定着・発芽により消滅してしまうように思えます。
地域によっては稀少種となっているイヌシカクイですが、ここでは駆除の対象となります。
関連ページ 湿生植物・イヌシカクイ

タカトウダイ
Fig.15 タカトウダイ (兵庫県播磨地方 2013.7/15)
ヒメミクリ自生地を後にした私と兵庫水辺ネットのS氏は降雨にめげず山麓の田園を彷徨。
降雨と遠雷が響くなか、山麓の休耕田や水路を彷徨しカンガレイ、陸生状態のサイコクヒメコウホネ、ミズスギ、開花後のノハナショウブ群落、アイナエ生育地など確認。ノハナショウブが群生する棚田の休耕田では雨の中、タカトウダイが開花していました。
関連ページ 関西の花・タカトウダイ

クモラン
Fig.16 クモラン (兵庫県丹波地方 2013.7/16)
継続観察していたクモランがようやく開花。
花は微小だけれども、ちゃんとラン科の花の形態をしている。

サイコクヒメコウホネの花
Fig.17 サイコクヒメコウホネの花 (兵庫県三木市 2013.7/20)
サイコクヒメコウホネは兵庫県では比較的普通に見られるものです。
種としてはコウホネ、ヒメコウホネ、オグラコウホネが様々な段階で交雑したものが、長年の間孤立、交雑を繰り返し、交雑起源の種として独立したものと考えられています。
コウホネの花糸が平伏するのに対して、外側に返曲するのが顕著な特徴となります。
オグラコウホネの場合、花糸はより強く外曲し、抽水葉が生じないことにより区別できます。
関連ページ 抽水植物・サイコクヒメコウホネ
オニユリ
Fig.18 オニユリ (兵庫県三木市 2013.7/20)
ヤブカンゾウなどとともに史前帰化植物と目されおり、人臭い草地に多く見られます。
特に里山の墓地周辺に多く見られるのは、死者の魂を慰めるために植栽されたものではないかと考えています。
オニユリに対して在来種と考えられているコオニユリは、競合種の少ない岩場や禿山が本来の自生地であり、茅場などの草地環境の減少により、里山ではまったく見られないようになりました。
関連ページ 関西の花・オニユリ  関西の花・コオニユリ

ユウスゲ
Fig.19 ユウスゲ (兵庫県三木市 2013.7/20)
ユウスゲは海岸近くの草地に生育するものだとする傾向がありますが、そうではなくて湿った草地が長期にわたって維持されている場所に生育する種であると考えています。海岸近くの風衡地に成立した草原は、競合種が少ないため長く草原環境が維持されてユウスゲの群落が見られるのだろうと思います。瀬戸内側では海岸の断崖では稀で、草刈り管理の行き届いた溜池土堤や禿山の草地斜面に生育しています。
関連ページ 湿生植物・ユウスゲ

キキョウ
Fig.20 キキョウ (兵庫県三木市 2013.7/20)
キキョウは草地環境の減少とともに全国的に減少傾向にある草本ですが、兵庫県では播磨地方を中心として自生地が多く見られます。その多くは山間棚田の土手や谷池の溜池土堤で、本来はユウスゲやコオニユリのように禿山や岩場に生育していたものではないかと考えられます。丹波地方のチャートの安定した岩場にはほとんど見られないので、あるていど侵食を受けるやや不安定な流紋岩質などの禿山が故郷なのでしょう。
関連ページ 関西の花・キキョウ

ヤブレガサモドキ
Fig.21 ヤブレガサモドキ (兵庫県阪神地方 2013.7/28)
兵庫県や四国の一部で残存しているヤブレガサモドキの自生地の調査・観察会に行ってきました。
数ヶ所あるヤブレガサモドキの自生地には、これまで調査のため何度も訪れていますが、開花中のものを観察したのは今回が初めてで、開花中の花を穴が空くほど観察しました。
山地で見かけるヤブレガサとは花序が散房状となること、葉の切れ込みが深く、裂片の幅が狭いことにより容易に区別できます。

ヤブレガサモドキの花
Fig.22 ヤブレガサモドキの花 (兵庫県阪神地方 2013.7/28)
花は同一集団内でも変異が見られました。画像の個体は総苞があまり紫色を帯びず、花粉や柱頭は黄色を帯びています。これに対して、総苞が紫色を帯びる個体では、花粉や柱頭が黄色を帯びないものが多く見られました。

クルマバナ
Fig.23 クルマバナ (兵庫県阪神地方 2013.7/28)
ヤブレガサモドキの生育する棚田土手の下部ではクルマバナが満開となっている場所がありました。
棚田土手はススキを優占種としてチガヤ、ヨモギ、セイタカアワダチソウ、ノアザミ、ヨシノアザミ、ヒヨドリバナ、オミナエシ、サワヒヨドリ、ヒメドコロ、ヘクソカズラ、ツルニンジン、クズ、コマツナギ、オトギリソウ、コケオトギリ、ワレモコウ、キジムシロ、ミツバツチグリ、コシオガマ、ヤマハッカ、アキノタムラソウ、ヒキオコシ、ツリガネニンジン、リンドウ、ソクシンラン、ノギラン、ショウジョウバカマ、ヒメヤブラン、ワラビ、ヒメワラビ、シケシダ、ゲジゲジシダ、ヒメシダなどが生育していました。

オオチャバネセセリ
Fig.24 ノアザミで吸蜜するオオチャバネセセリ (兵庫県篠山市 2013.7/1)
数日のうちに断続的に続いた豪雨によるものでしょうか、鱗片の多くが剥げていました。

ジャノメチョウ
Fig.25 ジャノメチョウ (兵庫県三田市 2013.7/15)
7月になって出現し、ススキ主体の草原に依存するチョウ類です。
ここではススキを主体とする溜池土堤に、ユウスゲ、タカトウダイ、タムラソウ、イガタツナミをはじめとした豊富な草原性草本が生育していました。

ミドリシジミ
Fig.26 ミドリシジミ♀ (兵庫県三木市 2013.7/20)
溜池畔にハンノキ群落のある谷津の上部の溜池土堤で多数の個体が飛び交っていました。
ほとんどがメスで、開翅すると前翅の青班がよく目立っていました。

ヒバカリ
Fig.27 ヒバカリ (兵庫県西宮市 2013.7/9)
減少傾向にあるとされる爬虫類ですが、6月半ば~7月にかけて、谷津の水田や休耕田でよく見かけるヘビです。
オタマジャクシを好んで食し、あまり大きくならず、おとなしいヘビです。
首の周りに八の字型の黄白班があるのが特徴です。
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category: 7月の花

thread: 博物学・自然・生き物 - janre: 学問・文化・芸術

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京都府中丹地方にて 

およそ2ヶ月ぶりに京都の中丹地方(福知山市・綾部市・舞鶴市からなる)の村落を歩いてみました。春の季節はモトマチハナワラビやオオマルバコンロンソウを探し歩きましたが、今回はそろそろ水辺の植物が出始めている頃なので、湿生・水生植物が目当てです。今回訪れた村落は周囲をシカ除けのフェンスで囲っていて、その内側にかなりいろいろな植物が残っていました。
画像:ヤマジノタツナミソウ、オオケマイマイ、休耕田、ハナビゼキショウ、小川の河畔、
   オナガサナエ、タカネマスクサ、イヌシカクイ、モリアオガエルの卵塊、イトモ、
   ヒロハノエビモ、ミヤコカナワラビ
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

ヤマジノタツナミソウ果実期
Fig.1 ヤマジノタツナミソウ(果実期)
村落内に手入れの行き届いた雑木林と植林地が入り混じった林があり、その沢沿いの山道をあるいていると、沢沿いにクラマゴケやシダ類に混じって沢山のヤマジノタツナミソウが生育していました。ホクリクタツナミソウやデワノタツナミソウがありそうに思って入ったのですが、嬉しい誤算でした。京都では2例目の記録とのことです。

ヤマジノタツナミソウ閉鎖花
Fig.2 閉鎖花をつけたヤマジノタツナミソウ
少し離れた別の樹林に囲まれた河原にもヤマジノタツナミソウが見つかりました。もちろん花期は終わっており、閉鎖花をつけた個体が多く見られました。今年は兵庫県の摂津地方でも自生地を見つけましたが、生育規模はこちらのほうが大きく、全てあわせると200個体近くが生育しています。

オオケマイマイ
Fig.3 オオケマイマイ
ヤマジノタツナミソウの生育している河原の落ち葉の間に居ました。梅雨時の谷間でよく見かける、直径3センチたらずのユニークなカタツムリです。

休耕田
Fig.4 村落内の休耕田
シカ除けフェンスのおかげで、村落内にある休耕田は野生動物によるひどい撹乱や食害をまぬがれて、水田雑草の楽園となっていました。画像には馴染みのイグサ、ハナビゼキショウ、チゴザサ、サヤヌカグサsp.、ミゾソバ、キツネノボタン、アメリカセンダングサなどが見えます。手前の土手の草地で咲いている白い花はカワラマツバで、土手では草原性植物のクララも多数生育しています。さらに季節が進めばいろいろな草本が見られそうです。

ハナビゼキショウ
Fig.5 ハナビゼキショウ
イグサ科の草本で、兵庫県南部では休耕田で雑草のごとく生えているのを見かけますが、京都府では減少傾向が著しいようで準絶滅危惧種とされています。ここでは同じく準絶滅危惧種となっているムツオレグサ(イネ科)とともに、かなりの個体数が生育していました。他に休耕田ではサンカクイの群落、花序を出し始めたイヌホタルイなどが見られました。秋にもう一度訪ねたい場所です。
関連ページ 湿生植物・ハナビゼキショウ

村落内の小川
Fig.6 村落内の小川
いかにも里山という感じの小川では河畔にキンキカサスゲとタニガワスゲが群落をつくっていました。タニガワスゲは京都府の準絶滅危惧種となっていますが、すでに果胞は落果しており、標本に適したものはありませんでした。
関連ページ 湿生植物・キンキカサスゲ  タニガワスゲ

オナガサナエ
Fig.7 オナガサナエ(♀)
シカ除けフェンスをくぐって溜池に向かうと、オナガサナエがお出迎えしてくれました。

タカネマスクサ
Fig.8 タカネマスクサ
フェンスの外側の溜池なので、あまり期待はしていなかったのですが、徹底的に食害されるところまではやられておらず、シカがあまり好きではないカヤツリグサ科やイグサ科の草本はまだ残っていました。画像のタカネマスクサはその中でも飛びきり元気だったもの。
関連ページ 湿生植物・タカネマスクサ

イヌシカクイ
Fig.9 イヌシカクイ
溜池の奥にはハンノキ林を伴った湿地があり、野生動物による撹乱が激しかったですが、イヌシカクイが数株生育していました。地域的にここらで出てくるのはマシカクイか狭義シカクイあたりだろうと思っていたら、意に反してイヌシカクイが出てきました。兵庫県では南部を中心に広く分布する種です。「所変われば・・・」ということですね。これも京都府では減少しているようで準絶滅危惧種となっています。この湿地では京都府RDBでは絶滅危惧種となっているシラコスゲもありましたが、ほとんどの果胞は落果しており、標本に適したものはありませんでした。
関連ページ 湿生植物・イヌシカクイ

モリアオガエルの卵塊
Fig.10 モリアオガエルの卵塊
いったん村落内に戻り、最奥の溜池へ向かうと、池畔の全ての樹木にモリアオガエルの卵塊が鈴なりにぶら下がっていました。この時期ならではの溜池の風物詩ですね。水中にはすでに孵化した小さなオタマジャクシが無数に泳いでいました。天敵のイモリは少ないようで2,3匹くらいしか見当たりませんでした。

ヒロハノエビモとイトモ
Fig.11 ヒロハノエビモとイトモ
この溜池にはヒロハノエビモとイトモが生育していました。イトモは京都府の絶滅寸前種となっていますが、ヒロハノエビモは淀川水系で見られるためか京都府RDBには記載されていません。しかし、溜池でヒロハノエビモが生育する例は、西日本ではかなり少ないと記憶しています。溜池の多い兵庫県内でも、確か自生地は1ヶ所だけではなかったかと思います。このような稀有な例が見られるこの溜池は、埋め立てたり放棄したりせずに、いつまでも残して欲しいものだと思います。池畔には夥しい数のイヌノヒゲsp.の若い個体も見られ、年内にもう一度調査すべきと思われる場所でした。

ヒロハノエビモの葉
Fig.12 ヒロハノエビモの葉
この溜池のヒロハノエビモは、よく見慣れた琵琶湖-淀川水系のものに比べて草体や葉が大きく、最初はオオササエビモあたりかと思いましたが、葉身基部は3/4ほどが茎を抱き、葉先が円頭なのでやはり間違いなくヒロハノエビモです。成熟した葉の長さは5~6cmでした。
関連ページ 沈水植物・ヒロハノエビモ

ヒロハノエビモの花序
Fig.13 ヒロハノエビモの花序
見た目花は3心皮のように見えますが、全て4心皮でした。しかし少し気になるので、花粉を調べたいところでしたが、もともと花序は数日前から続いた降雨による増水で水没しており、花粉は全て放出された後でした。花序直下の葉腋から花芽を持った側枝が出ていましたが、とりあえず証拠標本のために押し葉としました。

イトモ
Fig.14 イトモの花序
こちらはヒロハノエビモとちがってほとんど花序を上げておらず、水際に打ち寄せられていた大量の切れ藻を一部持ち帰って、花序が着いたものを見つけることができました。花は高倍率のルーペか顕微鏡で観察しなければ解らないような小さなものですが、4心皮でした。夏の果実をつけたもの、秋の殖芽をつけたものを揃えれば生態標本の完成です。私のフィールドである西宮市から丹波市にかけては山間の谷池などによく見られ、稀少種でありながら、とても馴染み深い水草です。
関連ページ 沈水植物・イトモ

ミヤコカナワラビ
Fig.15 ミヤコカナワラビ
溜池に流入する沢をタツナミソウ類でもないかと遡っていったところ、山道の脇に巨岩が現れ、その周囲にカナワラビの仲間が小さな群落をつくっていた。「これはもしや、ミヤコか・・・」と思い、M先生にお尋ねすると、やはり「典型的ではないが、ミヤコカナワラビでよい」とのご返答。京都府北部では初の記録とのこと。

ミヤコカナワラビの小群落
Fig.16 ミヤコカナワラビの小群落
巨岩の周囲に生えている群落の様子です。ミヤコイヌワラビは内陸部の湿った日陰の林下に現れるようで、根茎を横走して群生し、葉面に特有の金属光沢があります。葉先はホソバカナワラビのように明瞭な頂羽片とはならないのが特徴とのこと。

それにしても、午後3時から7時という4時間の間にヤマジノタツナミソウ、シラコスゲ、イトモ、ヒロハノエビモ、ミヤコカナワラビと立て続けに稀少種が現れて、非常に自然度のポテンシャルの高い地区でした。じっくりと腰を据えて調査する価値のある場所のように思われます。年内に少なくとももう一度は訪ねてみたいと思うような所でした。

category: 京都・稀少種

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