6月の湿地・溜池
2013/06/25 Tue. 02:37 [edit]
6月中に湿地や溜池で見かけた植物の紹介です。
毎年のことなので気付いたことをメモする程度で、説明は少なめに行きます。
TwitterやFacebookでフォローされている方はほとんどが既出の画像になります。あしからず。
画像:トキソウ、ヤマトキソウ、イシモチソウ、ノテンツキ、ホソバノヨツバムグラ、
タカネマスクサ、マツバイ、ヒツジグサの花、ガガブタネクイハムシ、ヤマトミクリ、
ソクシンラン、オオフトイ、ガマ、フトイ、ウキヤガラ、コウヤワラビ、
オオミズゴケ、コバノイシカグマ、カキツバタ、ノハナショウブ、スズサイコ、
メダカ、ハッチョウトンボ
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

Fig.1 トキソウ (兵庫県三田市 2013.6/2)
関連ページ 湿生植物・トキソウ

Fig.2 ヤマトキソウ (兵庫県三田市 2013.6/4)
トキソウよりもはるかに見かける機会が多いですが、標本数は少ないとのこと。
小さくて目立たないからでしょうか。
関連ページ 湿生植物・ヤマトキソウ

Fig.3 イシモチソウ (兵庫県三田市 2013.6/4)
ヤマトキソウとともに溜池土堤下部に生育していました。
関連ページ 湿生植物・イシモチソウ

Fig.4 ノテンツキ (兵庫県三田市 2013.6/4)
テンツキの仲間では最も早く開花・結実します。自然度の高い場所に生育しています。
画像左の草本はホソバリンドウ。
関連ページ 湿生植物・ノテンツキ

Fig.5 ホソバノヨツバムグラ (兵庫県三田市 2013.6/2)
比較的栄養状態の良い湿地に見られます。
関連ページ 湿生植物・ホソバノヨツバムグラ

Fig.6 タカネマスクサ (兵庫県丹波市 2013.6/7)
溜池畔の湿地でヤマアゼスゲやアゼスゲと生育していました。
関連ページ 湿生植物・タカネマスクサ

Fig.7 ミズユキノシタ、マツバイなど (兵庫県丹波市 2013.6/7)
タカネマスクサがあった溜池に生育しているもの。
関連ページ 湿生植物・ミズユキノシタ 湿生植物・マツバイ

Fig.8 ヒツジグサの花 (兵庫県篠山市 2013.6/4)
柱頭は雄蕊群と偽柱頭によって塞がれており、雄性期だと分かります。
関連ページ 浮葉植物・ヒツジグサ

Fig.9 ガガブタネクイハムシ (兵庫県篠山市 2013.6/4)
Fig.8の浮葉を摂食していました。人の気配に敏感で、今にも飛び立とうという雰囲気。

Fig.9 ヤマトミクリの雄花 (兵庫県篠山市 2013.6/4)
関連ページ 抽水植物・ヤマトミクリ

Fig.10 ソクシンラン (兵庫県西宮市 2013.6/10)
小さな湧水湿地の斜面で。背後のシダはコモチシダ。
関連ページ 湿生植物・ソクシンラン

Fig.11 オオフトイ (兵庫県篠山市 2013.6/4)
兵庫県ではオオフトイとフトイ両種が生育しています。
オオフトイは柱頭が2岐するものと3岐するものがおよそ半々の割合で混じります。
対してフトイは柱頭が全て2岐します。
オオフトイとフトイについては現在調査中で、後日ブログでとり上げる予定です。

Fig.12 オオフトイとガマ (兵庫県篠山市 2013.6/17)
ここのオオフトイは地上高10cm地点の茎の太さが2.5mcと、大変太いものがありました。
関連ページ 抽水植物・ガマ

Fig.13 フトイ (兵庫県三田市 2013.6/4)
ここのものは柱頭が全て2岐し、雄性期の鱗片が淡色でフトイと判断しました。

Fig.14 ウキヤガラ (兵庫県三田市 2013.6/9)
おそらく三田市新産です。西宮市では開発により絶滅しました。
関連ページ 湿生~抽水植物・ウキヤガラ

Fig.15 コウヤワラビ (兵庫県篠山市 2013.6/7)
山間の休耕田で一面に新葉をあげていました。
サトメシダのフィドルヘッドもあちこちに見られ、夏にはシダっ原になりそうです。
関連ページ 湿生植物・コウヤワラビ

Fig.16 オオミズゴケ群落とコバノイシカグマ (兵庫県丹波市 2013.6/7)
山際の谷池の流れ込み部の湿地にオオミズゴケ群落が発達し、サワオグルマとともにコバノイシカグマが見られました。どの種もシカの忌避植物で、シカの食害がなければもっといろいろとあったはずです。
関連ページ 湿生植物・オオミズゴケ 関西の花・コバノイシカグマ

Fig.17 カキツバタ (兵庫県丹波市 2013.6/7)
溜池直下の湿地で生育しているものです。自生なのか逸出なのか判断できません。
丹波地方ではこういった例が多くて困ります。
関連ページ 抽水植物・カキツバタ

Fig.18 ノハナショウブ (兵庫県篠山市 2013.6/18)
こちらは溜池土堤下部に群生しているものです。これは間違いなく自生でしょう。
関連ページ 湿生植物・ノハナショウブ

Fig.19 スズサイコ (兵庫県篠山市 2013.6/18)
溜池土堤の上ではスズサイコも開花しはじめていました。いよいよ夏ですね。
関連ページ 関西の花・スズサイコ

Fig.20 メダカ (兵庫県三田市 2013.6/4)
メダカの多い溜池がありました。ここのものは場所的に南日本集団なんでしょうね。
但馬地方では北日本集団との自然雑種がいるようです。

Fig.21 ハッチョウトンボ 左♂・右♀ (兵庫県三田市 2013.5/27)
5月の画像ですが、今頃が最盛期でしょうか。
曇天で暗く、風のある日でどうやってもブレてしまいます。
毎年のことなので気付いたことをメモする程度で、説明は少なめに行きます。
TwitterやFacebookでフォローされている方はほとんどが既出の画像になります。あしからず。
画像:トキソウ、ヤマトキソウ、イシモチソウ、ノテンツキ、ホソバノヨツバムグラ、
タカネマスクサ、マツバイ、ヒツジグサの花、ガガブタネクイハムシ、ヤマトミクリ、
ソクシンラン、オオフトイ、ガマ、フトイ、ウキヤガラ、コウヤワラビ、
オオミズゴケ、コバノイシカグマ、カキツバタ、ノハナショウブ、スズサイコ、
メダカ、ハッチョウトンボ
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Fig.1 トキソウ (兵庫県三田市 2013.6/2)
関連ページ 湿生植物・トキソウ

Fig.2 ヤマトキソウ (兵庫県三田市 2013.6/4)
トキソウよりもはるかに見かける機会が多いですが、標本数は少ないとのこと。
小さくて目立たないからでしょうか。
関連ページ 湿生植物・ヤマトキソウ

Fig.3 イシモチソウ (兵庫県三田市 2013.6/4)
ヤマトキソウとともに溜池土堤下部に生育していました。
関連ページ 湿生植物・イシモチソウ

Fig.4 ノテンツキ (兵庫県三田市 2013.6/4)
テンツキの仲間では最も早く開花・結実します。自然度の高い場所に生育しています。
画像左の草本はホソバリンドウ。
関連ページ 湿生植物・ノテンツキ

Fig.5 ホソバノヨツバムグラ (兵庫県三田市 2013.6/2)
比較的栄養状態の良い湿地に見られます。
関連ページ 湿生植物・ホソバノヨツバムグラ

Fig.6 タカネマスクサ (兵庫県丹波市 2013.6/7)
溜池畔の湿地でヤマアゼスゲやアゼスゲと生育していました。
関連ページ 湿生植物・タカネマスクサ

Fig.7 ミズユキノシタ、マツバイなど (兵庫県丹波市 2013.6/7)
タカネマスクサがあった溜池に生育しているもの。
関連ページ 湿生植物・ミズユキノシタ 湿生植物・マツバイ

Fig.8 ヒツジグサの花 (兵庫県篠山市 2013.6/4)
柱頭は雄蕊群と偽柱頭によって塞がれており、雄性期だと分かります。
関連ページ 浮葉植物・ヒツジグサ

Fig.9 ガガブタネクイハムシ (兵庫県篠山市 2013.6/4)
Fig.8の浮葉を摂食していました。人の気配に敏感で、今にも飛び立とうという雰囲気。

Fig.9 ヤマトミクリの雄花 (兵庫県篠山市 2013.6/4)
関連ページ 抽水植物・ヤマトミクリ

Fig.10 ソクシンラン (兵庫県西宮市 2013.6/10)
小さな湧水湿地の斜面で。背後のシダはコモチシダ。
関連ページ 湿生植物・ソクシンラン

Fig.11 オオフトイ (兵庫県篠山市 2013.6/4)
兵庫県ではオオフトイとフトイ両種が生育しています。
オオフトイは柱頭が2岐するものと3岐するものがおよそ半々の割合で混じります。
対してフトイは柱頭が全て2岐します。
オオフトイとフトイについては現在調査中で、後日ブログでとり上げる予定です。

Fig.12 オオフトイとガマ (兵庫県篠山市 2013.6/17)
ここのオオフトイは地上高10cm地点の茎の太さが2.5mcと、大変太いものがありました。
関連ページ 抽水植物・ガマ

Fig.13 フトイ (兵庫県三田市 2013.6/4)
ここのものは柱頭が全て2岐し、雄性期の鱗片が淡色でフトイと判断しました。

Fig.14 ウキヤガラ (兵庫県三田市 2013.6/9)
おそらく三田市新産です。西宮市では開発により絶滅しました。
関連ページ 湿生~抽水植物・ウキヤガラ

Fig.15 コウヤワラビ (兵庫県篠山市 2013.6/7)
山間の休耕田で一面に新葉をあげていました。
サトメシダのフィドルヘッドもあちこちに見られ、夏にはシダっ原になりそうです。
関連ページ 湿生植物・コウヤワラビ

Fig.16 オオミズゴケ群落とコバノイシカグマ (兵庫県丹波市 2013.6/7)
山際の谷池の流れ込み部の湿地にオオミズゴケ群落が発達し、サワオグルマとともにコバノイシカグマが見られました。どの種もシカの忌避植物で、シカの食害がなければもっといろいろとあったはずです。
関連ページ 湿生植物・オオミズゴケ 関西の花・コバノイシカグマ

Fig.17 カキツバタ (兵庫県丹波市 2013.6/7)
溜池直下の湿地で生育しているものです。自生なのか逸出なのか判断できません。
丹波地方ではこういった例が多くて困ります。
関連ページ 抽水植物・カキツバタ

Fig.18 ノハナショウブ (兵庫県篠山市 2013.6/18)
こちらは溜池土堤下部に群生しているものです。これは間違いなく自生でしょう。
関連ページ 湿生植物・ノハナショウブ

Fig.19 スズサイコ (兵庫県篠山市 2013.6/18)
溜池土堤の上ではスズサイコも開花しはじめていました。いよいよ夏ですね。
関連ページ 関西の花・スズサイコ

Fig.20 メダカ (兵庫県三田市 2013.6/4)
メダカの多い溜池がありました。ここのものは場所的に南日本集団なんでしょうね。
但馬地方では北日本集団との自然雑種がいるようです。

Fig.21 ハッチョウトンボ 左♂・右♀ (兵庫県三田市 2013.5/27)
5月の画像ですが、今頃が最盛期でしょうか。
曇天で暗く、風のある日でどうやってもブレてしまいます。
タツナミソウの迷宮
2013/06/20 Thu. 02:20 [edit]
タツナミソウの仲間は同定の厄介なものとしてよく知られています。私のフィールド内でも、実際に自生している現物を見てすぐにどの種であるか判断できないものもあります。せめて自分がフィールドとしている場所にあるものを、確実に同定できないかと思い、今季はかなり突っ込んでこの仲間を調べてみました。また、近年記載され兵庫県にも分布するとされているホクリクタツナミソウについても、その特徴を確認しておく必要があります。時期的にはそろそろこの仲間の開花期は終わりつつありますが、まだ果実(分果)の精査が残っており、まだこれからも調査は続きますが、一応の問題点を整理してみました。なお、私のフィールド内ではデワタツナミソウも分布していますが、今回は出会えなかったので掲載していません。また、ヒメナミキやコナミキなどのナミキソウの仲間も省いています。
以下のタツナミソウ類はほとんどの種が個体によっては多かれ少なかれ葉裏が紫色となるため、葉裏の色は識別点には使えません。また、葉裏が強く紫色を帯びるものについては、かろうじて腺点があるものは肉眼やルーペで腺点を確認することは困難なので、注意が必要です。多くのタツナミソウの仲間がこれまで茎の毛の状態と葉裏の腺点により区別されてきましたが、コバノタツナミとホクリクタツナミソウではこれが当てはまらず、同定のキーポイントは果期の萼の上唇と分果の大きさになります。このキーポイントは標本にしても明瞭に判る点なので重要だと考えられます。
画像:タツナミソウ、コバノタツナミ、ホクリクタツナミソウ、オカタツナミソウ、
ヤマタツナミソウ、ヤマジノタツナミソウ、イガタツナミ、シソバタツナミ、
トウゴクシソバタツナミ、シソバ・トウゴクシソバの茎の毛の変異、不明種
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。
タツナミソウ Scutellaria indica

Fig.1 (兵庫県西宮市 2013.5/27)
付近の里山では普通に見られる種で、棚田の土手などの草地の向陽~半日陰地に生育しています。花は他の種よりも紫色が強く、花序についた多くの花を一度に開花させる傾向があるように思います。葉裏には黄色透明な腺点が見られ、茎には開出~上に跳ね上がったようなやや長い毛が生えています。
関連ページ 関西の花・タツナミソウ

Fig.2 タツナミソウの葉裏と茎の毛
葉裏の腺点は明瞭で黄色透明なものが多い。
茎には開出~上に跳ね上がったようなやや長い毛が多い。
コバノタツナミ S. indica var. parvifolia

Fig.3 (兵庫県丹波市 2009.5/10)
タツナミソウの変種で小型のもので、葉は1cm前後。
園芸品として市場にタツナミソウとして出回っているのは本種で、タツナミソウではなく、紅花品や白花品も見られます。
西宮市内で唯一生育を確認していた広田神社にあった集団は消滅してしまいました。
海岸に近い林縁、土手、岩場に生育する傾向にあるようですが、内陸部でも生育しています。
兵庫県の内陸部には、最近記載された同じタツナミソウの変種であるホクリクタツナミソウがあり、これまでコバノタツナミとされてきました。コバノタツナミとホクリクタツナミソウはよく似ており、慣れないうちは区別が難しいものですが、次のホクリクタツナミソウの項で詳述します。
関連ページ 関西の花・コバノタツナミ

Fig.4 コバノタツナミの葉と花 (兵庫県丹波市 2013.5/31)
葉は広卵形で、脈間は表側にふくらむ傾向が見られます。
花は海岸近くのものは下唇全体に紫斑が広がりますが、内陸部のものは紫斑は広がらず、紫斑の色の薄いものも見られ、ときにホクリクタツナミソウと見誤ることがあります。

Fig.5 コバノタツナミの葉裏と茎の毛 (兵庫県丹波市 2013.5/31)
葉裏の腺点は明瞭で、乳白色または黄色透明。茎には多くの開出毛が生え、時に上向きのものが混じる。葉裏の腺点や茎の毛は、次種のホクリクタツナミソウとあまり変わらず、ほとんど区別できない。
ホクリクタツナミソウ S. indica var. satokoae

Fig.6 (兵庫県丹波市 2010.6/3)
2004年に記載されたタツナミソウの新変種。
コバノタツナミに酷似し、丘陵~山地の主に半日陰~日陰の細流脇の砂地に生育し、林縁の用水路脇、林床の沢沿い、山間溜池の流れ込み部分よく見られます。コバノタツナミに比べると草体はやわらかく、葉は少し大きく、果期の萼や分果もコバノタツナミよりも大きくなります。日本海側の渓流畔などに生育するデワノタツナミソウとも似ていますが、デワノタツナミソウの葉には毛が少なく、茎には下に曲がったごく短い毛が生えることにより区別できます。
【参考文献】Naruhashi, N., T. Sawanomukai, T. Wakasugi and Y. Iwatsubo, 2004. A new variety of Scutellaria(Lamiaceae)from Japan. J. Phytogeogr. Taxon. 52: 127–135.
関連ページ 関西の花・ホクリクタツナミソウ

Fig.7 ホクリクタツナミソウの花 (兵庫県丹波市 2010.6/3)
花序は短く、花は少数が詰まってつく傾向が強い。
下唇の紫斑はまったくないか、中央付近に薄く出るものが多い。紫斑が下唇中央付近に薄く出るものは、内陸のコバノタツナミにも見られるので、注意が必要なようだ。

Fig.8 ホクリクタツナミソウの葉裏と茎の毛 (兵庫県篠山市 2013.6/18)
葉裏の腺点はやや不明瞭で、黄色透明。
茎の毛は花序や花序近くではほぼ開出、下方ではやや下向きとなるものが見られる。
また、茎の節間の下方は稜が丸味を帯びる傾向がみられる。

Fig.9 果期の花序比較
左:ホクリクタツナミソウ 右:コバノタツナミ
果期になるとホクリクタツナミソウの萼の上唇はコバノタツナミよりも大きくなる。

Fig.10 果期の萼上唇の比較
左:ホクリクタツナミソウ 右:コバノタツナミ
複数の集団の上唇の長さを調べたところ以下のような結果が出た。
・ホクリクタツナミソウ・・・5.5~6.5mm
・コバノタツナミ・・・5.0~5.5mm
下唇については両種ともに3.0~3.5mmで有意差はなかった。

Fig.11 分果の比較
分果はホクリクタツナミソウのほうがわずかに長く、コバノタツナミは丸味が強い傾向が見られた。以下は両種のそれぞれ50個の分果の計測の結果。
・ホクリクタツナミソウ・・・1.4~1.7mm(うち46個が1.5~1.6mmに納まる)
・コバノタツナミ・・・1.0~1.4mm(うち42個が1.2~1.4mmに納まる)

Fig.12 ホクリクタツナミソウの生育環境 (兵庫県篠山市 2013.6/4)
兵庫県の丹波地方では半日陰~日陰の適湿な林床に比較的ふつうに見られる。
よく見られるのは山際の沢沿いの土砂が溜まって平坦になった部分で、林床にパッチ状の群落をつくっているところが多い。土壌に適度な湿り気のある場所を好むため、周辺にはシダ類が多く生育している。

Fig.13 日向に生育するホクリクタツナミソウ (兵庫県丹波市 2010.6/3)
ホクリクタツナミソウは稀に日向で見られることがあります。ここでは溜池畔の細流が流れ込む砂礫地に生育しており、大雨による流水と土砂にかなり痛めつけられていました。花の下唇には紫斑がなくホクリクタツナミソウであることはほぼ明確ですが、葉は小さく、しかも脈間がふくれてコバノタツナミのように見えます。下唇の紫斑の有無は標本にすると解らなくなってしまうので、開花期のこの段階のものを採集しても、後にコバノタツナミと同定されてしまう可能性が多分にあります。標本として記録を残すのであれば、果期のものを採集するべきでしょう。
オカタツナミソウ S. brachyspica

Fig.14 (兵庫県篠山市 2013.6/7)
丘陵~山地の半日陰の林下や林縁でよく見かける種です。
茎の節間が長く、上方の葉は大きく、花序の節間は詰まり、葉裏には透明な腺点を密布し、茎の毛は下向きで区別の容易な種です。草丈は草刈りが行われるような林縁では20cm程度ですが、競合するような草本の多い場所では30cmを越すものが多くなるようです。
関連ページ 関西の花・オカタツナミソウ

Fig.15 オカタツナミソウの葉裏と茎の毛 (兵庫県篠山市 2013.6/7)
葉裏の腺点は明瞭。茎の毛は下向き。
ヤマタツナミソウ S. pekinensis var. transitra

Fig.16 (兵庫県宝塚市 2010.6/11)
丘陵~山地の日陰の林下に生育し、私のフィールド内ではあまり見かけない種です。
他のタツナミソウの仲間が花筒を基部から直角に立ち上げるのに対して、ヤマタツナミソウは60度の角度で斜上すること、葉縁の鋸歯が丸味を帯びないことより区別は容易です。画像の右側は茎の毛の様子で、縮れた感じの上向きの毛が生えています。
今回はシソバタツナミとトウゴクシソバタツナミ、ホクリクタツナミソウに眼が向いていたため、ヤマタツナミソウの自生地には足が向きませんでした。したがって、画像はHPに掲載しているものと同じものを再掲しています。当時の標本はすでに手元になく、葉裏に腺点があるかどうか調べられません。図鑑やweb上でも腺点については触れられていません。
関連ページ 関西の花・ヤマタツナミソウ
ヤマジノタツナミソウ S. amabilis

Fig.17 (兵庫県摂津地方 2013.6/2)
丘陵~低山の半日陰の林縁~明るい林床に稀に生育する種で、兵庫県でも一部の地域にしか生育していません。今回はシソバタツナミとトウゴクシソバタツナミを探していたところ偶然にも出会うことができましたが、開花期はタツナミソウ類の中ではかなり早いようで、小さな残り花が2花見られたのみでした。
草体は一見するとほとんど無毛に見え、茎は地下茎からややまばらに数本立ち上がり、節間はやや間延びしています。葉には裏面ばかりではなく表面にも腺点があり、茎をルーペで見ると、上向きに曲がった微毛が稜上に生えているのが特徴です。(6/26追記:「茎は基部から分枝」→「茎は地下茎からややまばらに数本立ち上がり」に修正しました。)

Fig.18 草体の様子 (兵庫県摂津地方 2013.6/2)
茎は地下茎からややまばらに数本立ち上がり、茎の節間はやや間延びし、毛が少なく、葉は薄いという印象。

Fig.19 ヤマジノタツナミソウの葉と茎の毛 (兵庫県摂津地方 2013.6/2)
左側の上段は葉表、下段は葉裏で、両面ともにまばらに腺点がある。
茎の稜上には肉眼では判りにくい、上に曲がった微毛があり、拡大すると認識できる。
イガタツナミ S. kurokawae

Fig.20 (兵庫県三田市 2013.6/4)
丘陵~低山の日向~日陰の多湿地に生育し、用水路脇、渓流畔、棚田土手の下部、湿地の周縁部などに見られます。日陰~半日陰のものは節間が間延びしますが、草刈りされる日当たり良い湿った土手や用水路脇に生育するものは節間がやや縮むようです。花茎の節間も間延びする傾向が強く、花数は少なく、多くは2~4段(4~8花)の間に納まるようです。葉は普通広卵形、日当たり良い場所では卵形となり、葉裏には毛が多くて腺点はありません。棚田周辺ではタツナミソウと、渓流畔ではホクリクタツナミソウと生育環境が一部重複しますが、葉裏に腺点がなく、当地では開花も両種より少し遅い傾向があります。
関連ページ 関西の花・イガタツナミ

Fig.21 イガタツナミの葉裏と茎の毛 (兵庫県三田市 2013.6/4)
葉裏には長毛が多く、腺点はない。茎は細く、長い開出毛が生える。

Fig.22 棚田の土手に生育する集団 (兵庫県三田市 2013.6/9)
草刈りが行われ、日がよく当たる棚田の土手に生育するものは節間が短くなり、茎も少し太くなり、外見上タツナミソウに似てくるが、葉裏に腺点がない点により区別できる。

Fig.23 湿地に生育する集団 (兵庫県三田市 2013.6/9)
湿地の周縁部でゴウソやイグサ、ハンノキ幼木などと生育している。このような例はイガタツナミでしか見られず、湿生植物という側面を持っている。
シソバタツナミとトウゴクシソバタツナミ
シソバタツナミは丘陵~山地の適湿の林床に生育し、谷筋や山際疎水の傍の林床に見られることが多く、トウゴクシソバタツナミはシソバタツナミの変種でときに両種の中間的な集団も見らます。トウゴクシソバタツナミは独立種とされたり、ホナガタツナミソウの変種とされることもありますが、今回兵庫県の南東部の両種の複数の自生地を調べてみたところ、シソバタツナミの変種とするのが妥当だとの結論に至りました。しかし、これはあくまで兵庫県の例であるので、今回の結果を他の地域にそのまま当てはめるには慎重さが必要だと思います。
ネットや図鑑で中部~東北地方のトウゴクシソバタツナミは、葉面の脈に沿って白斑が現れているものがよく見られ、葉面に毛が少ないように見えます。関西ではこのような脈に白色の斑が入るものは生育しておらず、赤紫色の斑を持ったものしか現れません。また、葉の両面に短毛が生え、触るとビロードのような質感があります。したがって、中部~東北地方に生育するトウゴクシソバタツナミと、西日本のトウゴクシソバタツナミとされるものが全く同じものかどうか解りません。以上の点を踏まえた上で以下の記事をご覧ください。
シソバタツナミ S. laeteviolacea

Fig.24 (兵庫県西宮市 2013.5/31)
丘陵~山地の半日陰の雑木林の林縁、やや湿った細流脇などに生育し、兵庫県では西宮市のみに記録がありますが、神戸市の道場町や有野町、宝塚市南部、芦屋市などで見つかる可能性が高いと思います。次種のトウゴクシソバタツナミは、今のところ西宮市内では分布しないことになっています。
多くは節間が詰まり、下方に葉が集まる傾向が強くみられます。葉裏には腺点があり、紫色を帯びないものもよく見られます。茎には上に曲がった短毛が密生しています。
関連ページ 関西の花・シソバタツナミ

Fig.25 シソバタツナミの花 (兵庫県西宮市 2013.5/31)
花は花序にやや詰まってつく。花数は6~10花程度が多いが、生育状態によって多少がある。

Fig.26 典型的なタイプの葉裏と茎の毛 (兵庫県西宮市 2013.6/5)
葉裏にはやや不明瞭な腺点がある。茎には上に曲がった短毛が密生する。
トウゴクシソバタツナミ S. laeteviolacea var. abbreviata

Fig.27 (兵庫県三田市 2013.6/2)
生育場所はシソバタツナミと変わりません。葉裏にはほとんど腺点が見られず、茎には開出毛があります。画像のものは山際の疎水の脇に生育していたもので、生育状態が大変よく、多数の花をつけていました。
関連ページ 関西の花・トウゴクシソバタツナミ

Fig.28 トウゴクシソバタツナミの花 (兵庫県三田市 2013.6/2)
シソバタツナミの花と変わらない。下唇の紫斑ははっきりしている。

Fig.29 典型的なタイプの葉裏と茎の毛 (兵庫県三田市 2013.6/2)
葉裏には腺点が認められない。茎には長毛がほぼ開出して密生する。

Fig.30 トウゴクシソバタツナミの葉 (兵庫県三田市 2013.6/2)
表面ばかりでなく、裏面にも毛が多くビロード様の感触がある。
当然のことながら、シソバタツナミにもこの特徴が当てはまる。
シソバタツナミとトウゴクシソバタツナミの茎の毛の変異

Fig.31 シソバタツナミからトウゴクシソバタツナミへの移行
最も左の「西宮A」は市内最南の自生地のもの。右に向かうにつれて北の自生地となり、「西宮E」は市内最北のもの。「三田A」は三田市のトウゴクシソバタツナミです。北に向かうにつれて毛がしだいに長くなっているのが解ります。「西宮D」や「西宮E」では「三田A」との差はわずかなものと言っていいでしょう。葉裏の腺点は「西宮A」~「西宮C」までは確認できましたが、「西宮D」や「西宮E」は腺点が確認できず、両種の中間的な集団と見なせるようなものでした。これらの例を見ると、両種を分けるのにどこで線引きすればよいのか非常に微妙で、見る者の恣意的な解釈により、境界はいくらでも変わり得ると感じざるおえません。今後の調査で葉裏に腺点のあるトウゴクシソバタツナミの集団が出てくる可能性も大いに考えられ、そうすると線引きはますます難しくなりそうで、兵庫県のシソバタツナミとトウゴクシソバタツナミは変種関係にあるとするのが妥当な線だと考えられます。
なお、シソバタツナミとトウゴクシソバタツナミとの中間的な集団は、今回の調査ではトウゴクシソバタツナミの分布域内にも点々と見られました。
不明なタツナミソウ

Fig.32 (兵庫県三田市 2013.6/9)
日陰の乾いた溜池土堤に生育しているもので、草体は5cm程度、葉は1cm前後でコバノタツナミやホクリクタツナミソウを思わせましたが、葉裏に腺点はありませんでした。周辺の棚田にはイガタツナミが多く、茎の毛も開出しているところから、イガタツナミの可能性もありますが、日陰+乾燥地という生育条件でこのように小型化したのでしょうか? イガタツナミを一度いろいろな条件下で育てて観察してみる必要があるかもしれません。(6/21追記:茎の毛が分かる画像に差し替えました。 6/22追記:イガタツナミではないかというコメントを頂きました。)
以下のタツナミソウ類はほとんどの種が個体によっては多かれ少なかれ葉裏が紫色となるため、葉裏の色は識別点には使えません。また、葉裏が強く紫色を帯びるものについては、かろうじて腺点があるものは肉眼やルーペで腺点を確認することは困難なので、注意が必要です。多くのタツナミソウの仲間がこれまで茎の毛の状態と葉裏の腺点により区別されてきましたが、コバノタツナミとホクリクタツナミソウではこれが当てはまらず、同定のキーポイントは果期の萼の上唇と分果の大きさになります。このキーポイントは標本にしても明瞭に判る点なので重要だと考えられます。
画像:タツナミソウ、コバノタツナミ、ホクリクタツナミソウ、オカタツナミソウ、
ヤマタツナミソウ、ヤマジノタツナミソウ、イガタツナミ、シソバタツナミ、
トウゴクシソバタツナミ、シソバ・トウゴクシソバの茎の毛の変異、不明種
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。
タツナミソウ Scutellaria indica

Fig.1 (兵庫県西宮市 2013.5/27)
付近の里山では普通に見られる種で、棚田の土手などの草地の向陽~半日陰地に生育しています。花は他の種よりも紫色が強く、花序についた多くの花を一度に開花させる傾向があるように思います。葉裏には黄色透明な腺点が見られ、茎には開出~上に跳ね上がったようなやや長い毛が生えています。
関連ページ 関西の花・タツナミソウ

Fig.2 タツナミソウの葉裏と茎の毛
葉裏の腺点は明瞭で黄色透明なものが多い。
茎には開出~上に跳ね上がったようなやや長い毛が多い。
コバノタツナミ S. indica var. parvifolia

Fig.3 (兵庫県丹波市 2009.5/10)
タツナミソウの変種で小型のもので、葉は1cm前後。
園芸品として市場にタツナミソウとして出回っているのは本種で、タツナミソウではなく、紅花品や白花品も見られます。
西宮市内で唯一生育を確認していた広田神社にあった集団は消滅してしまいました。
海岸に近い林縁、土手、岩場に生育する傾向にあるようですが、内陸部でも生育しています。
兵庫県の内陸部には、最近記載された同じタツナミソウの変種であるホクリクタツナミソウがあり、これまでコバノタツナミとされてきました。コバノタツナミとホクリクタツナミソウはよく似ており、慣れないうちは区別が難しいものですが、次のホクリクタツナミソウの項で詳述します。
関連ページ 関西の花・コバノタツナミ

Fig.4 コバノタツナミの葉と花 (兵庫県丹波市 2013.5/31)
葉は広卵形で、脈間は表側にふくらむ傾向が見られます。
花は海岸近くのものは下唇全体に紫斑が広がりますが、内陸部のものは紫斑は広がらず、紫斑の色の薄いものも見られ、ときにホクリクタツナミソウと見誤ることがあります。

Fig.5 コバノタツナミの葉裏と茎の毛 (兵庫県丹波市 2013.5/31)
葉裏の腺点は明瞭で、乳白色または黄色透明。茎には多くの開出毛が生え、時に上向きのものが混じる。葉裏の腺点や茎の毛は、次種のホクリクタツナミソウとあまり変わらず、ほとんど区別できない。
ホクリクタツナミソウ S. indica var. satokoae

Fig.6 (兵庫県丹波市 2010.6/3)
2004年に記載されたタツナミソウの新変種。
コバノタツナミに酷似し、丘陵~山地の主に半日陰~日陰の細流脇の砂地に生育し、林縁の用水路脇、林床の沢沿い、山間溜池の流れ込み部分よく見られます。コバノタツナミに比べると草体はやわらかく、葉は少し大きく、果期の萼や分果もコバノタツナミよりも大きくなります。日本海側の渓流畔などに生育するデワノタツナミソウとも似ていますが、デワノタツナミソウの葉には毛が少なく、茎には下に曲がったごく短い毛が生えることにより区別できます。
【参考文献】Naruhashi, N., T. Sawanomukai, T. Wakasugi and Y. Iwatsubo, 2004. A new variety of Scutellaria(Lamiaceae)from Japan. J. Phytogeogr. Taxon. 52: 127–135.
関連ページ 関西の花・ホクリクタツナミソウ

Fig.7 ホクリクタツナミソウの花 (兵庫県丹波市 2010.6/3)
花序は短く、花は少数が詰まってつく傾向が強い。
下唇の紫斑はまったくないか、中央付近に薄く出るものが多い。紫斑が下唇中央付近に薄く出るものは、内陸のコバノタツナミにも見られるので、注意が必要なようだ。

Fig.8 ホクリクタツナミソウの葉裏と茎の毛 (兵庫県篠山市 2013.6/18)
葉裏の腺点はやや不明瞭で、黄色透明。
茎の毛は花序や花序近くではほぼ開出、下方ではやや下向きとなるものが見られる。
また、茎の節間の下方は稜が丸味を帯びる傾向がみられる。

Fig.9 果期の花序比較
左:ホクリクタツナミソウ 右:コバノタツナミ
果期になるとホクリクタツナミソウの萼の上唇はコバノタツナミよりも大きくなる。

Fig.10 果期の萼上唇の比較
左:ホクリクタツナミソウ 右:コバノタツナミ
複数の集団の上唇の長さを調べたところ以下のような結果が出た。
・ホクリクタツナミソウ・・・5.5~6.5mm
・コバノタツナミ・・・5.0~5.5mm
下唇については両種ともに3.0~3.5mmで有意差はなかった。

Fig.11 分果の比較
分果はホクリクタツナミソウのほうがわずかに長く、コバノタツナミは丸味が強い傾向が見られた。以下は両種のそれぞれ50個の分果の計測の結果。
・ホクリクタツナミソウ・・・1.4~1.7mm(うち46個が1.5~1.6mmに納まる)
・コバノタツナミ・・・1.0~1.4mm(うち42個が1.2~1.4mmに納まる)

Fig.12 ホクリクタツナミソウの生育環境 (兵庫県篠山市 2013.6/4)
兵庫県の丹波地方では半日陰~日陰の適湿な林床に比較的ふつうに見られる。
よく見られるのは山際の沢沿いの土砂が溜まって平坦になった部分で、林床にパッチ状の群落をつくっているところが多い。土壌に適度な湿り気のある場所を好むため、周辺にはシダ類が多く生育している。

Fig.13 日向に生育するホクリクタツナミソウ (兵庫県丹波市 2010.6/3)
ホクリクタツナミソウは稀に日向で見られることがあります。ここでは溜池畔の細流が流れ込む砂礫地に生育しており、大雨による流水と土砂にかなり痛めつけられていました。花の下唇には紫斑がなくホクリクタツナミソウであることはほぼ明確ですが、葉は小さく、しかも脈間がふくれてコバノタツナミのように見えます。下唇の紫斑の有無は標本にすると解らなくなってしまうので、開花期のこの段階のものを採集しても、後にコバノタツナミと同定されてしまう可能性が多分にあります。標本として記録を残すのであれば、果期のものを採集するべきでしょう。
オカタツナミソウ S. brachyspica

Fig.14 (兵庫県篠山市 2013.6/7)
丘陵~山地の半日陰の林下や林縁でよく見かける種です。
茎の節間が長く、上方の葉は大きく、花序の節間は詰まり、葉裏には透明な腺点を密布し、茎の毛は下向きで区別の容易な種です。草丈は草刈りが行われるような林縁では20cm程度ですが、競合するような草本の多い場所では30cmを越すものが多くなるようです。
関連ページ 関西の花・オカタツナミソウ

Fig.15 オカタツナミソウの葉裏と茎の毛 (兵庫県篠山市 2013.6/7)
葉裏の腺点は明瞭。茎の毛は下向き。
ヤマタツナミソウ S. pekinensis var. transitra

Fig.16 (兵庫県宝塚市 2010.6/11)
丘陵~山地の日陰の林下に生育し、私のフィールド内ではあまり見かけない種です。
他のタツナミソウの仲間が花筒を基部から直角に立ち上げるのに対して、ヤマタツナミソウは60度の角度で斜上すること、葉縁の鋸歯が丸味を帯びないことより区別は容易です。画像の右側は茎の毛の様子で、縮れた感じの上向きの毛が生えています。
今回はシソバタツナミとトウゴクシソバタツナミ、ホクリクタツナミソウに眼が向いていたため、ヤマタツナミソウの自生地には足が向きませんでした。したがって、画像はHPに掲載しているものと同じものを再掲しています。当時の標本はすでに手元になく、葉裏に腺点があるかどうか調べられません。図鑑やweb上でも腺点については触れられていません。
関連ページ 関西の花・ヤマタツナミソウ
ヤマジノタツナミソウ S. amabilis

Fig.17 (兵庫県摂津地方 2013.6/2)
丘陵~低山の半日陰の林縁~明るい林床に稀に生育する種で、兵庫県でも一部の地域にしか生育していません。今回はシソバタツナミとトウゴクシソバタツナミを探していたところ偶然にも出会うことができましたが、開花期はタツナミソウ類の中ではかなり早いようで、小さな残り花が2花見られたのみでした。
草体は一見するとほとんど無毛に見え、茎は地下茎からややまばらに数本立ち上がり、節間はやや間延びしています。葉には裏面ばかりではなく表面にも腺点があり、茎をルーペで見ると、上向きに曲がった微毛が稜上に生えているのが特徴です。(6/26追記:「茎は基部から分枝」→「茎は地下茎からややまばらに数本立ち上がり」に修正しました。)

Fig.18 草体の様子 (兵庫県摂津地方 2013.6/2)
茎は地下茎からややまばらに数本立ち上がり、茎の節間はやや間延びし、毛が少なく、葉は薄いという印象。

Fig.19 ヤマジノタツナミソウの葉と茎の毛 (兵庫県摂津地方 2013.6/2)
左側の上段は葉表、下段は葉裏で、両面ともにまばらに腺点がある。
茎の稜上には肉眼では判りにくい、上に曲がった微毛があり、拡大すると認識できる。
イガタツナミ S. kurokawae

Fig.20 (兵庫県三田市 2013.6/4)
丘陵~低山の日向~日陰の多湿地に生育し、用水路脇、渓流畔、棚田土手の下部、湿地の周縁部などに見られます。日陰~半日陰のものは節間が間延びしますが、草刈りされる日当たり良い湿った土手や用水路脇に生育するものは節間がやや縮むようです。花茎の節間も間延びする傾向が強く、花数は少なく、多くは2~4段(4~8花)の間に納まるようです。葉は普通広卵形、日当たり良い場所では卵形となり、葉裏には毛が多くて腺点はありません。棚田周辺ではタツナミソウと、渓流畔ではホクリクタツナミソウと生育環境が一部重複しますが、葉裏に腺点がなく、当地では開花も両種より少し遅い傾向があります。
関連ページ 関西の花・イガタツナミ

Fig.21 イガタツナミの葉裏と茎の毛 (兵庫県三田市 2013.6/4)
葉裏には長毛が多く、腺点はない。茎は細く、長い開出毛が生える。

Fig.22 棚田の土手に生育する集団 (兵庫県三田市 2013.6/9)
草刈りが行われ、日がよく当たる棚田の土手に生育するものは節間が短くなり、茎も少し太くなり、外見上タツナミソウに似てくるが、葉裏に腺点がない点により区別できる。

Fig.23 湿地に生育する集団 (兵庫県三田市 2013.6/9)
湿地の周縁部でゴウソやイグサ、ハンノキ幼木などと生育している。このような例はイガタツナミでしか見られず、湿生植物という側面を持っている。
シソバタツナミとトウゴクシソバタツナミ
シソバタツナミは丘陵~山地の適湿の林床に生育し、谷筋や山際疎水の傍の林床に見られることが多く、トウゴクシソバタツナミはシソバタツナミの変種でときに両種の中間的な集団も見らます。トウゴクシソバタツナミは独立種とされたり、ホナガタツナミソウの変種とされることもありますが、今回兵庫県の南東部の両種の複数の自生地を調べてみたところ、シソバタツナミの変種とするのが妥当だとの結論に至りました。しかし、これはあくまで兵庫県の例であるので、今回の結果を他の地域にそのまま当てはめるには慎重さが必要だと思います。
ネットや図鑑で中部~東北地方のトウゴクシソバタツナミは、葉面の脈に沿って白斑が現れているものがよく見られ、葉面に毛が少ないように見えます。関西ではこのような脈に白色の斑が入るものは生育しておらず、赤紫色の斑を持ったものしか現れません。また、葉の両面に短毛が生え、触るとビロードのような質感があります。したがって、中部~東北地方に生育するトウゴクシソバタツナミと、西日本のトウゴクシソバタツナミとされるものが全く同じものかどうか解りません。以上の点を踏まえた上で以下の記事をご覧ください。
シソバタツナミ S. laeteviolacea

Fig.24 (兵庫県西宮市 2013.5/31)
丘陵~山地の半日陰の雑木林の林縁、やや湿った細流脇などに生育し、兵庫県では西宮市のみに記録がありますが、神戸市の道場町や有野町、宝塚市南部、芦屋市などで見つかる可能性が高いと思います。次種のトウゴクシソバタツナミは、今のところ西宮市内では分布しないことになっています。
多くは節間が詰まり、下方に葉が集まる傾向が強くみられます。葉裏には腺点があり、紫色を帯びないものもよく見られます。茎には上に曲がった短毛が密生しています。
関連ページ 関西の花・シソバタツナミ

Fig.25 シソバタツナミの花 (兵庫県西宮市 2013.5/31)
花は花序にやや詰まってつく。花数は6~10花程度が多いが、生育状態によって多少がある。

Fig.26 典型的なタイプの葉裏と茎の毛 (兵庫県西宮市 2013.6/5)
葉裏にはやや不明瞭な腺点がある。茎には上に曲がった短毛が密生する。
トウゴクシソバタツナミ S. laeteviolacea var. abbreviata

Fig.27 (兵庫県三田市 2013.6/2)
生育場所はシソバタツナミと変わりません。葉裏にはほとんど腺点が見られず、茎には開出毛があります。画像のものは山際の疎水の脇に生育していたもので、生育状態が大変よく、多数の花をつけていました。
関連ページ 関西の花・トウゴクシソバタツナミ

Fig.28 トウゴクシソバタツナミの花 (兵庫県三田市 2013.6/2)
シソバタツナミの花と変わらない。下唇の紫斑ははっきりしている。

Fig.29 典型的なタイプの葉裏と茎の毛 (兵庫県三田市 2013.6/2)
葉裏には腺点が認められない。茎には長毛がほぼ開出して密生する。

Fig.30 トウゴクシソバタツナミの葉 (兵庫県三田市 2013.6/2)
表面ばかりでなく、裏面にも毛が多くビロード様の感触がある。
当然のことながら、シソバタツナミにもこの特徴が当てはまる。
シソバタツナミとトウゴクシソバタツナミの茎の毛の変異

Fig.31 シソバタツナミからトウゴクシソバタツナミへの移行
最も左の「西宮A」は市内最南の自生地のもの。右に向かうにつれて北の自生地となり、「西宮E」は市内最北のもの。「三田A」は三田市のトウゴクシソバタツナミです。北に向かうにつれて毛がしだいに長くなっているのが解ります。「西宮D」や「西宮E」では「三田A」との差はわずかなものと言っていいでしょう。葉裏の腺点は「西宮A」~「西宮C」までは確認できましたが、「西宮D」や「西宮E」は腺点が確認できず、両種の中間的な集団と見なせるようなものでした。これらの例を見ると、両種を分けるのにどこで線引きすればよいのか非常に微妙で、見る者の恣意的な解釈により、境界はいくらでも変わり得ると感じざるおえません。今後の調査で葉裏に腺点のあるトウゴクシソバタツナミの集団が出てくる可能性も大いに考えられ、そうすると線引きはますます難しくなりそうで、兵庫県のシソバタツナミとトウゴクシソバタツナミは変種関係にあるとするのが妥当な線だと考えられます。
なお、シソバタツナミとトウゴクシソバタツナミとの中間的な集団は、今回の調査ではトウゴクシソバタツナミの分布域内にも点々と見られました。
不明なタツナミソウ

Fig.32 (兵庫県三田市 2013.6/9)
日陰の乾いた溜池土堤に生育しているもので、草体は5cm程度、葉は1cm前後でコバノタツナミやホクリクタツナミソウを思わせましたが、葉裏に腺点はありませんでした。周辺の棚田にはイガタツナミが多く、茎の毛も開出しているところから、イガタツナミの可能性もありますが、日陰+乾燥地という生育条件でこのように小型化したのでしょうか? イガタツナミを一度いろいろな条件下で育てて観察してみる必要があるかもしれません。(6/21追記:茎の毛が分かる画像に差し替えました。 6/22追記:イガタツナミではないかというコメントを頂きました。)
category: シソ科タツナミソウ属
thread: 博物学・自然・生き物 - janre: 学問・文化・芸術
スゲの季節 (後編)
2013/06/04 Tue. 01:03 [edit]
前回に続いて「スゲの季節」です。後編ではアゼスゲ節を中心に、最近見たスゲ類をご紹介します。
画像:ヤマアゼスゲ、タニガワスゲ、アゼナルコ、アズマナルコ、アズマナルコの雌小穂、
ゴウソ、ヒメゴウソ、ホナガヒメゴウソ、ヤマテキリスゲ、カワラスゲ、ナルコスゲ、
ジュズスゲ、シラスゲ、ヒゴクサ、エナシヒゴクサ、オニスゲ、タガネソウ、
ケタガネソウ、タガネソウ節2種の葉裏、ササノハスゲ、ヤマジスゲ、
ヤマジスゲの小穂
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

Fig.1 ヤマアゼスゲ (京都府綾部市 2013.5/2) アゼスゲ節
アゼスゲは既に開花期のものを掲載済みなので、ヤマアゼスゲから。
アゼスゲほどどこにでもあるというものではなく、少し山地や内陸寄りの溜池畔や河原などで見かけることが多いスゲです。アゼスゲとは草体が大きめで硬く、全体的にざらつくこと、基部に糸網を生じることにより区別できます。京都府では準絶滅危惧種となっていますが、この日は由良川河畔と山間の溜池畔の2ヶ所で群生が見られ、採集する人があまりいなかっただけで、各所に生育しているものだと思います。
関連ページ 湿生植物・ヤマアゼスゲ

Fig.2 タニガワスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/22) アゼスゲ節
山間の渓流畔で大きな株となって生育しているものをよく見かけます。
画像のものも直径1m以上広がっている巨大な株となっていました。
ヤマアゼスゲよりも果胞の嘴が長く、嘴の両側に刺状の突起があることで区別できます。
関連ページ 湿生植物・タニガワスゲ

Fig.3 アゼナルコ (兵庫県西宮市 2013.5/23) アゼスゲ節
河川敷の常在種で、休耕田にもよく現れるふつうなスゲ。
次に紹介するアズマナルコとは、雄鱗片に長い芒があり、基部が円柱状に肥厚しないことによって区別できます。
関連ページ 湿生植物・アゼナルコ

Fig.4 アズマナルコ (兵庫県西宮市 2013.5/27) アゼスゲ節
山間の溜池畔や湿った林道脇などで見かけるやややわらかいスゲで、アゼナルコほどふつうではありません。兵庫県では北部に多いスゲですが、西宮市でも2ヶ所で生育を確認しています。
関連ページ 湿生植物・アズマナルコ

Fig.5 アズマナルコの雌小穂の拡大 (兵庫県西宮市 2013.5/27) アゼスゲ節
雌小穂に並んだ果胞と鱗片の様子です。鱗片の芒はアゼナルコよりも短いです。
柱頭が2岐するのは、アゼスゲ節に共通する特徴です。

Fig.6 ゴウソ (兵庫県丹波市 2013.5/31) アゼスゲ節
兵庫県では湿地、用水路脇、休耕田、溜池畔などで栄養条件にも左右されず最もふつうに見られるスゲです。「タイツリスゲ」の別名があり、草体の特徴がよく現れている名称だと思います。
特徴的で解りやすいスゲですが、変種に果胞に乳頭状突起のない「ホシナシゴウソ」があります。
関連ページ 湿生植物・ゴウソ

Fig.7 ヒメゴウソ (兵庫県三田市 2013.5/23) アゼスゲ節
ゴウソよりもかなり稀なスゲで、兵庫県では貧栄養な湿地や溜池畔に現れます。
貧栄養な湿地を好む種とともに生育していることが多く、この場所では溜池土堤直下の排水路脇でしたが、イヌノハナヒゲ、コシンジュガヤ、ミカワシンジュガヤ、ノグサ、ホソバリンドウ、スイラン、サワシロギクなどとともに生育していました。次種のホナガヒメゴウソと比較すると草体は青白く、葉や花茎は強くざらつくのが特徴です。
関連ページ 湿生植物・ヒメゴウソ(ホナガヒメゴウソ含む)

Fig.8 ホナガヒメゴウソ (神戸市 2013.5/19) アゼスゲ節
ホナガヒメゴウソはヒメゴウソよりも稀なスゲで、兵庫県では限られた地域にしか見られず、前種が貧栄養な湿地を好むのに対して、本種は栄養状態のよい湿地に現れ、群生する傾向が見られます。ここではミヤマシラスゲ、ショウブ、ヤノネグサ、ミゾソバ、ホソバノヨツバムグラなど栄養条件のよい場所を好む湿生植物とともに生育していました。ヒメゴウソのように青みを帯びず、より大型で、有花茎の下部は平滑で、雌小穂は長く下垂し、雌鱗片の芒が果胞より長く突き出すことにより区別できます。
関連ページ 湿生植物・ヒメゴウソ(ホナガヒメゴウソ含む)

Fig.9 ヤマテキリスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/24) アゼスゲ節
六甲山地ではテキリスゲはよく見られますが、このヤマテキリスゲは見られません。
兵庫県では内陸部から北部にかけて見られ、北部の沢の源頭湿地では群生して優占種となっている場所も見られます。テキリスゲと違って草体はざらつかず、ほとんど平滑である点で容易に区別できます。
関連ページ 湿生植物・ヤマテキリスゲ

Fig.10 カワラスゲ (兵庫県三田市 2013.5/24) アゼスゲ節
マスクサ、ジュズスゲなどとともに湿った農道や林道、踏み跡などによく見られるスゲです。
草体はやわらかく、細長い小穂が下垂することにより、他種との区別は容易です。
関連ページ 湿生植物・カワラスゲ

Fig.11 ナルコスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/22) クロボスゲ節
Fig.2のタニガワスゲの隣に生育していたもので、アゼスゲ節のスゲ類よりも果期がはやく、雄小穂はすっかり脱落し、雌小穂の果胞も熟して脱落しつつありました。ナルコスゲは降雨後に急流にさらされるような渓流畔の岩場でも、隙間にしっかり根を張ってびくともしません。こういった場所に生育するものを標本用に根から採集するのは至難の業です。
関連ページ 関西の花・ナルコスゲ

Fig.12 ジュズスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/22) ジュズスゲ節
Fig.10のカワラスゲやマスクサなどとともに農道や林道によく現れるスゲです。
変種にオキナワジュズスゲがあり、主に果胞の大きさで区別します。
・ジュズスゲ・・・果胞の大きさ 4~5mm。基部の鞘はわずかに糸網を生じる。
・オキナワジュズスゲ・・・果胞の大きさ 3~4mm。基部の鞘は光沢がある。
関連ページ 湿生植物・ジュズスゲ

Fig.13 シラスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/22) ヒメシラスゲ節
やや山地寄りの林縁や明るい林床にふつうに見られるスゲです。
ヒメシラスゲ節の果期は遅く、同じ場所のタマツリスゲの果胞が熟して脱落しつつありましたが、シラスゲのほうはまだ白い柱頭を出した開花期でした。
関連ページ 関西の花・シラスゲ

Fig.14 ヒゴクサ (兵庫県篠山市 2013.5/22) ヒメシラスゲ節
草地、林縁、林道脇などにふつうに見られるスゲです。
匍匐根茎を横走して広がるため、群生していることの多い種です。
関連ページ 湿生植物・ヒゴクサ

Fig.15 エナシヒゴクサ (兵庫県篠山市 2013.5/22) ヒメシラスゲ節
ヒゴクサよりもかなり稀で、あまり見かけないスゲです。
明るい河川堤防に群生していたり、薄日が差す林床に群生していたりと、生育環境がもう一つ絞り込めない種です。ヒゴクサと同様な環境に生育し、ただ単に稀なだけかもしれません。これまで私が見た限りでは、ヒゴクサと混生している場所はありませんでした。
関連ページ 湿生植物・エナシヒゴクサ

Fig.16 オニスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/24) オニナルコ節
比較的古くからある安定した湿地や溜池畔など、2次的自然環境の高い場所に見られる湿生スゲです。絶滅危惧種に指定している地域が多いですが、兵庫県では上記のような湿地や溜池が数多く残っているため、まだまだ見る機会の多いスゲです。オニスゲの生育する場所ではふつう様々な湿生植物が見られます。ここでは、ミヤマシラスゲ、オタルスゲ、エゾハリイ、イグサ、ホソイ、ハイチゴザサ、ヒナザサ、アギスミレ、タチモ、サワギキョウ、ヌマトラノオ、ホッスモ、ミズニラなどが見られました。
関連ページ 湿生植物・オニスゲ

Fig.17 タガネソウ (神戸市 2013.5/23) タガネソウ節
タガネソウ節のスゲ類は原始的なスゲと考えられており、スゲの中でも幅広い葉をもつ一風変わった仲間です(但し愛媛県でのみ知られるイワヤスゲを除く)。兵庫県東南部の低地で本種が生育する場所では、他にも面白い種が出現する傾向があります。西宮市内の当該地域ではアマナ、ノダケ、ミズユキノシタ、クサボケ、フタリシズカ、スズサイコ、シソバタツナミ、ツクバキンモンソウ、ミズタカモジ、ウシノシッペイ、ミヤマイタチシダ、ツヤナシイノデなどが見られ、都市近郊としては出現種数の多い地域となっています。
関連ページ 関西の花・タガネソウ

Fig.18 ケタガネソウ (兵庫県西宮市 2013.3/29) タガネソウ節
自宅の草地斜面に自生しているもので、今回は開花中のものを掲載してみました。
西宮市内では六甲東南部の丘陵~低山に、開発をまぬがれた集団が点々と残っています。
関連ページ 関西の花・ケタガネソウ

Fig.19 タガネソウ節2種の葉の比較 (兵庫県西宮市 2013.5/27) タガネソウ節
上はケタガネソウ、下はタガネソウの葉裏面。
ケタガネソウは葉縁と脈上の毛が長く顕著であるのがわかります。
他に頂小穂に違いが見られ、ケタガネソウは雄性、タガネソウは雄雌性となりますが、稀にタガネソウでも雄性となる有花茎もあるので、葉の毛によって判断するのが無難だと思います。

Fig.20 ササノハスゲ (兵庫県西宮市 2013.5/27) タガネソウ節
ササノハスゲは本州の近畿地方以西、四国といった特異な分布域を持つ日本固有種です。
兵庫県内では低地から高所(といっても高山はありませんが)にまで、比較的普通に見られるスゲです。冬期にも葉が残り、小穂が球状となるため、前2種との区別は容易です。
関連ページ 関西の花・ササノハスゲ

Fig.21 ヤマジスゲ (兵庫県三田市 2013.5/24) ヤマジスゲ節
スゲというより、一見するとイネ科草本ではないかと思えるようなやわらかいスゲです。
よほどスゲ類やイネ科に注意の向いている人でないと発見できない上、やや稀な部類に入るスゲです。長らく土壌自体が保存されている林道や農道上に雑草然と群生している例が多くみられます。
関連ページ 関西の花・ヤマジスゲ

Fig.22 ヤマジスゲの小穂 (兵庫県三田市 2013.5/24) ヤマジスゲ節
頂小穂(上)と側小穂(下)。
頂小穂は雄性で柄があります。側小穂は雌性で、長い果胞がまばらについています。
果胞は完熟しても、長い柱頭が枯れ落ちず、残っています。
よく似たものに山地の渓流畔や林床に生えるミヤマジュズスゲがありますが、ミヤマジュズスゲの小穂は雄雌性であることで区別できます。
画像:ヤマアゼスゲ、タニガワスゲ、アゼナルコ、アズマナルコ、アズマナルコの雌小穂、
ゴウソ、ヒメゴウソ、ホナガヒメゴウソ、ヤマテキリスゲ、カワラスゲ、ナルコスゲ、
ジュズスゲ、シラスゲ、ヒゴクサ、エナシヒゴクサ、オニスゲ、タガネソウ、
ケタガネソウ、タガネソウ節2種の葉裏、ササノハスゲ、ヤマジスゲ、
ヤマジスゲの小穂
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

Fig.1 ヤマアゼスゲ (京都府綾部市 2013.5/2) アゼスゲ節
アゼスゲは既に開花期のものを掲載済みなので、ヤマアゼスゲから。
アゼスゲほどどこにでもあるというものではなく、少し山地や内陸寄りの溜池畔や河原などで見かけることが多いスゲです。アゼスゲとは草体が大きめで硬く、全体的にざらつくこと、基部に糸網を生じることにより区別できます。京都府では準絶滅危惧種となっていますが、この日は由良川河畔と山間の溜池畔の2ヶ所で群生が見られ、採集する人があまりいなかっただけで、各所に生育しているものだと思います。
関連ページ 湿生植物・ヤマアゼスゲ

Fig.2 タニガワスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/22) アゼスゲ節
山間の渓流畔で大きな株となって生育しているものをよく見かけます。
画像のものも直径1m以上広がっている巨大な株となっていました。
ヤマアゼスゲよりも果胞の嘴が長く、嘴の両側に刺状の突起があることで区別できます。
関連ページ 湿生植物・タニガワスゲ

Fig.3 アゼナルコ (兵庫県西宮市 2013.5/23) アゼスゲ節
河川敷の常在種で、休耕田にもよく現れるふつうなスゲ。
次に紹介するアズマナルコとは、雄鱗片に長い芒があり、基部が円柱状に肥厚しないことによって区別できます。
関連ページ 湿生植物・アゼナルコ

Fig.4 アズマナルコ (兵庫県西宮市 2013.5/27) アゼスゲ節
山間の溜池畔や湿った林道脇などで見かけるやややわらかいスゲで、アゼナルコほどふつうではありません。兵庫県では北部に多いスゲですが、西宮市でも2ヶ所で生育を確認しています。
関連ページ 湿生植物・アズマナルコ

Fig.5 アズマナルコの雌小穂の拡大 (兵庫県西宮市 2013.5/27) アゼスゲ節
雌小穂に並んだ果胞と鱗片の様子です。鱗片の芒はアゼナルコよりも短いです。
柱頭が2岐するのは、アゼスゲ節に共通する特徴です。

Fig.6 ゴウソ (兵庫県丹波市 2013.5/31) アゼスゲ節
兵庫県では湿地、用水路脇、休耕田、溜池畔などで栄養条件にも左右されず最もふつうに見られるスゲです。「タイツリスゲ」の別名があり、草体の特徴がよく現れている名称だと思います。
特徴的で解りやすいスゲですが、変種に果胞に乳頭状突起のない「ホシナシゴウソ」があります。
関連ページ 湿生植物・ゴウソ

Fig.7 ヒメゴウソ (兵庫県三田市 2013.5/23) アゼスゲ節
ゴウソよりもかなり稀なスゲで、兵庫県では貧栄養な湿地や溜池畔に現れます。
貧栄養な湿地を好む種とともに生育していることが多く、この場所では溜池土堤直下の排水路脇でしたが、イヌノハナヒゲ、コシンジュガヤ、ミカワシンジュガヤ、ノグサ、ホソバリンドウ、スイラン、サワシロギクなどとともに生育していました。次種のホナガヒメゴウソと比較すると草体は青白く、葉や花茎は強くざらつくのが特徴です。
関連ページ 湿生植物・ヒメゴウソ(ホナガヒメゴウソ含む)

Fig.8 ホナガヒメゴウソ (神戸市 2013.5/19) アゼスゲ節
ホナガヒメゴウソはヒメゴウソよりも稀なスゲで、兵庫県では限られた地域にしか見られず、前種が貧栄養な湿地を好むのに対して、本種は栄養状態のよい湿地に現れ、群生する傾向が見られます。ここではミヤマシラスゲ、ショウブ、ヤノネグサ、ミゾソバ、ホソバノヨツバムグラなど栄養条件のよい場所を好む湿生植物とともに生育していました。ヒメゴウソのように青みを帯びず、より大型で、有花茎の下部は平滑で、雌小穂は長く下垂し、雌鱗片の芒が果胞より長く突き出すことにより区別できます。
関連ページ 湿生植物・ヒメゴウソ(ホナガヒメゴウソ含む)

Fig.9 ヤマテキリスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/24) アゼスゲ節
六甲山地ではテキリスゲはよく見られますが、このヤマテキリスゲは見られません。
兵庫県では内陸部から北部にかけて見られ、北部の沢の源頭湿地では群生して優占種となっている場所も見られます。テキリスゲと違って草体はざらつかず、ほとんど平滑である点で容易に区別できます。
関連ページ 湿生植物・ヤマテキリスゲ

Fig.10 カワラスゲ (兵庫県三田市 2013.5/24) アゼスゲ節
マスクサ、ジュズスゲなどとともに湿った農道や林道、踏み跡などによく見られるスゲです。
草体はやわらかく、細長い小穂が下垂することにより、他種との区別は容易です。
関連ページ 湿生植物・カワラスゲ

Fig.11 ナルコスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/22) クロボスゲ節
Fig.2のタニガワスゲの隣に生育していたもので、アゼスゲ節のスゲ類よりも果期がはやく、雄小穂はすっかり脱落し、雌小穂の果胞も熟して脱落しつつありました。ナルコスゲは降雨後に急流にさらされるような渓流畔の岩場でも、隙間にしっかり根を張ってびくともしません。こういった場所に生育するものを標本用に根から採集するのは至難の業です。
関連ページ 関西の花・ナルコスゲ

Fig.12 ジュズスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/22) ジュズスゲ節
Fig.10のカワラスゲやマスクサなどとともに農道や林道によく現れるスゲです。
変種にオキナワジュズスゲがあり、主に果胞の大きさで区別します。
・ジュズスゲ・・・果胞の大きさ 4~5mm。基部の鞘はわずかに糸網を生じる。
・オキナワジュズスゲ・・・果胞の大きさ 3~4mm。基部の鞘は光沢がある。
関連ページ 湿生植物・ジュズスゲ

Fig.13 シラスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/22) ヒメシラスゲ節
やや山地寄りの林縁や明るい林床にふつうに見られるスゲです。
ヒメシラスゲ節の果期は遅く、同じ場所のタマツリスゲの果胞が熟して脱落しつつありましたが、シラスゲのほうはまだ白い柱頭を出した開花期でした。
関連ページ 関西の花・シラスゲ

Fig.14 ヒゴクサ (兵庫県篠山市 2013.5/22) ヒメシラスゲ節
草地、林縁、林道脇などにふつうに見られるスゲです。
匍匐根茎を横走して広がるため、群生していることの多い種です。
関連ページ 湿生植物・ヒゴクサ

Fig.15 エナシヒゴクサ (兵庫県篠山市 2013.5/22) ヒメシラスゲ節
ヒゴクサよりもかなり稀で、あまり見かけないスゲです。
明るい河川堤防に群生していたり、薄日が差す林床に群生していたりと、生育環境がもう一つ絞り込めない種です。ヒゴクサと同様な環境に生育し、ただ単に稀なだけかもしれません。これまで私が見た限りでは、ヒゴクサと混生している場所はありませんでした。
関連ページ 湿生植物・エナシヒゴクサ

Fig.16 オニスゲ (兵庫県篠山市 2013.5/24) オニナルコ節
比較的古くからある安定した湿地や溜池畔など、2次的自然環境の高い場所に見られる湿生スゲです。絶滅危惧種に指定している地域が多いですが、兵庫県では上記のような湿地や溜池が数多く残っているため、まだまだ見る機会の多いスゲです。オニスゲの生育する場所ではふつう様々な湿生植物が見られます。ここでは、ミヤマシラスゲ、オタルスゲ、エゾハリイ、イグサ、ホソイ、ハイチゴザサ、ヒナザサ、アギスミレ、タチモ、サワギキョウ、ヌマトラノオ、ホッスモ、ミズニラなどが見られました。
関連ページ 湿生植物・オニスゲ

Fig.17 タガネソウ (神戸市 2013.5/23) タガネソウ節
タガネソウ節のスゲ類は原始的なスゲと考えられており、スゲの中でも幅広い葉をもつ一風変わった仲間です(但し愛媛県でのみ知られるイワヤスゲを除く)。兵庫県東南部の低地で本種が生育する場所では、他にも面白い種が出現する傾向があります。西宮市内の当該地域ではアマナ、ノダケ、ミズユキノシタ、クサボケ、フタリシズカ、スズサイコ、シソバタツナミ、ツクバキンモンソウ、ミズタカモジ、ウシノシッペイ、ミヤマイタチシダ、ツヤナシイノデなどが見られ、都市近郊としては出現種数の多い地域となっています。
関連ページ 関西の花・タガネソウ

Fig.18 ケタガネソウ (兵庫県西宮市 2013.3/29) タガネソウ節
自宅の草地斜面に自生しているもので、今回は開花中のものを掲載してみました。
西宮市内では六甲東南部の丘陵~低山に、開発をまぬがれた集団が点々と残っています。
関連ページ 関西の花・ケタガネソウ

Fig.19 タガネソウ節2種の葉の比較 (兵庫県西宮市 2013.5/27) タガネソウ節
上はケタガネソウ、下はタガネソウの葉裏面。
ケタガネソウは葉縁と脈上の毛が長く顕著であるのがわかります。
他に頂小穂に違いが見られ、ケタガネソウは雄性、タガネソウは雄雌性となりますが、稀にタガネソウでも雄性となる有花茎もあるので、葉の毛によって判断するのが無難だと思います。

Fig.20 ササノハスゲ (兵庫県西宮市 2013.5/27) タガネソウ節
ササノハスゲは本州の近畿地方以西、四国といった特異な分布域を持つ日本固有種です。
兵庫県内では低地から高所(といっても高山はありませんが)にまで、比較的普通に見られるスゲです。冬期にも葉が残り、小穂が球状となるため、前2種との区別は容易です。
関連ページ 関西の花・ササノハスゲ

Fig.21 ヤマジスゲ (兵庫県三田市 2013.5/24) ヤマジスゲ節
スゲというより、一見するとイネ科草本ではないかと思えるようなやわらかいスゲです。
よほどスゲ類やイネ科に注意の向いている人でないと発見できない上、やや稀な部類に入るスゲです。長らく土壌自体が保存されている林道や農道上に雑草然と群生している例が多くみられます。
関連ページ 関西の花・ヤマジスゲ

Fig.22 ヤマジスゲの小穂 (兵庫県三田市 2013.5/24) ヤマジスゲ節
頂小穂(上)と側小穂(下)。
頂小穂は雄性で柄があります。側小穂は雌性で、長い果胞がまばらについています。
果胞は完熟しても、長い柱頭が枯れ落ちず、残っています。
よく似たものに山地の渓流畔や林床に生えるミヤマジュズスゲがありますが、ミヤマジュズスゲの小穂は雄雌性であることで区別できます。
category: カヤツリグサ科スゲ属
thread: 博物学・自然・生き物 - janre: 学問・文化・芸術
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