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Satoyama, Plants & Nature

イグサ科イグサ属コウガイゼキショウ亜属の比較① 単管質の仲間3種 

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里山では意外と普通に見られる種が含まれるが、web上ではなかなかまとまった情報が得られないのが、このイグサ科の仲間。植物体のつくりは簡単であり、かつ地味な草体なので研究者がほとんどいないのが災いしているのでしょう。
単管質のコウガイゼキショウ亜属のうち、関西地方の里山周辺で見られるのはアオコウガイゼキショウ、ハリコウガイゼキショウ、タチコウガイゼキショウの3種です。
コウガイゼキショウ亜属のものは、葉が単管質になるものと多管質になるものとがあり、図鑑では検索表の上位の分岐点となっています。
単管質と多管質
Fig.1 単管質の葉と多管質の葉。
単管質・多管質という難しい分類用語があてはめられていますが、簡単に感覚的に理解可能です。
単管質は円柱形で中空な管状の葉を持ち、単純な隔壁で葉身内の気室を仕切っているもので、竹の幹(正しくは稈)のようになっています。
多管質のものは、ふつう剣状の葉(アヤメのような葉)を持っています。この葉は多数の細い気室が集まって並んでいるもので、1~数個の管に仕切りをつくるので、光に透かすとアミダくじ状の濃淡が現れます。
多管質の葉
Fig.2 光に透かした多管質の葉(例:ヒロハノコウガイゼキショウ)
上が葉で、下は茎です。ヒロハノコウガイゼキショウの場合は茎の両側に狭い多管質の翼がついています。これに対して、単管質の葉は枯れると仕切りの部分が痩せずに膨らむため、まるで竹のように見えて解りやすい。
単管質の枯れた葉
Fig.3 枯れた単管質の葉(例:タチコウガイゼキショウ)
以上の基本を押さえた上で、今回は単管質の葉を持つコウガイゼキショウ亜属の3種の詳細を見ていきます。先ずは3種の特徴の概要から。
なお、タチコウガイゼキショウは雄蕊6個、アオコウガイゼキショウとハリコウガイゼキショウは雄蕊3個とされていますが、この仲間は雄蕊の数は不安定で、固定された形質ではないため省きました。

アオコウガイゼキショウ
Fig.4 アオコウガイゼキショウ
 Juncus papillosus Franch. et Sav.(西宮市・休耕田 2014.8/19)
密に叢生せず、茎の径約1mm、ふつう斜上し上部は直立、高さ20~30cm。伸張した花茎は倒伏し、節から根や新芽を出す。葉耳は小さいが明瞭。開花前の下方の葉の径約1mm。
花序は分枝が少なく、花序枝上部の頭花はふつう2~3花からなるが、花序の基部近くでは6花以上つくこともある。
蒴果は3稜状長楕円形で、熟すと褐色を帯び、花披片よりも長く、しばしば2倍の長さになり、先はくちばし状に尖る。
倒伏した花茎につく頭花からは盛んにクローンを芽生する。秋に地下茎を出して、先にミョウガ状の越冬芽をつくり、冬になると地上部は枯死する。
関西地方では河川敷や低地の湿地、休耕田、用水路、貧栄養な溜池畔の湿地など、適応範囲は広く、3種のうちでは最もふつうに見られる。
関連ページ 湿生植物・アオコウガイゼキショウ

ハリコウガイゼキショウ
Fig.5 ハリコウガイゼキショウ
 Juncus wallichianus Laharpe(兵庫県篠山市・貧栄養湿地 2014.6/24)
密に叢生し、茎の径2~3mm、ふつう直立し、高さ20~50cm。まれに伸張した花茎が倒伏し、節から根や新芽を出す。葉耳は大きく明瞭。開花前の下方の葉の径約3mm。
花序は大きく頭花が多数つき、頭花はふつう3~6花からなるが、稀に球状に多数集まるものがあり、その場合は花序の分枝が極端に少なくなる。
蒴果は3稜状楕円形~3稜状柱形、熟すと赤色~褐色を帯び、花披片より長く1.5倍以下となり、先はしだいに狭くなって鋭頭。まれに倒伏した花茎の頭花からクローンを芽生する。関西ではふつう秋に上がった葉が枯れずに常緑越冬する。
関西地方では古い溜池畔、貧栄養な溜池畔の湿地、棚田の用水路など比較的自然度の高い湿地に生育する。
関連ページ 湿生植物・ハリコウガイゼキショウ

タチコウガイゼキショウ
Fig.6 タチコウガイゼキショウ
 Juncus krameri Franch. et Sav.(兵庫県豊岡市・氾濫原 2011.7/22)
やや密に叢生し、茎の径1~2mm、直立し、高さ30~60cm。葉耳は突出せず、ごく小さく不明瞭。
花序は頭花が多数つき、頭花は3~10花からなる。蒴果は3稜状楕円形、熟すと褐色を帯び、花披片よりやや長く、先は急に狭くなって微凸端。まれに頭花からクローンを芽生する。
関西地方では大河川の氾濫原、平地や洪積台地上の古い溜池の湿地などに見られ、3種のうちでは稀。
関連ページ 湿生植物・タチコウガイゼキショウ


以下に3種の地上部の標本を並べますが、ハリコウガイゼキショウは時期的にすでに蒴果が開いたものばかりで、ようやく1本だけ蒴果のあるものを見つけましたが、時期遅れなためか花序が小さなもので、典型品ではありません。花序の大きさ以外の茎や葉、花披、蒴果といった部分は通常のものと変わりありません。
単管質3種の地上部標本
Fig.7 単管質3種の地上部標本
上から順にアオコウガイゼキショウ、ハリコウガイゼキショウ、タチコウガイゼキショウ。
アオコウガイゼキショウは頭花から多くのクローンを芽生していますが、これは湿地で倒伏していたものです。
アオコウガイゼキショウは他の2種に較べて草体は小さく、葉や茎も細いことが解ります。

単管質3種の葉耳
Fig.8 単管質3種の葉耳
上から順にアオコウガイゼキショウ、ハリコウガイゼキショウ、タチコウガイゼキショウ。
タチコウガイゼキショウの葉耳は突出せず、小さくて不明瞭です。

単管質3種の花序と頭花
Fig.9 単管質3種の花序と頭花
左から順にアオコウガイゼキショウ、ハリコウガイゼキショウ、タチコウガイゼキショウ。上段は花序、下段は頭花。
ハリコウガイゼキショウの花序は、7月初旬の開花期の典型的な花序画像をスペースの都合上少し縮小したものを持ってきています。アオコウガイゼキショウの花序分枝は少なく、ハリコウガイゼキショウの花序が最も大きく、頭花も多いことがわかります。
頭花画像からは、タチコウガイゼキショウは他の2種に較べて蒴果が花披片から少ししか出ない点が解ります。

単管質3種の蒴果
Fig.10 単管質3種の蒴果
左から順にアオコウガイゼキショウ、ハリコウガイゼキショウ、タチコウガイゼキショウ。
蒴果はハリコウガイゼキショウが相対的にスマートに見え、タチコウガイゼキショウは蒴果先端の微凸端が目立ちます。

単管質3種の痩果
Fig.11 単管質3種の痩果(全て同倍率)
左から順にアオコウガイゼキショウ、ハリコウガイゼキショウ、タチコウガイゼキショウ。
どの種の痩果にも1稜ありますが、タチコウガイゼキショウでは稜がよく目立ちます。アオコウガイゼキショウの痩果は楕円形、ハリコウガイゼキショウとタチコウガイゼキショウでは長楕円状紡錘形となります。
表面の格子状の隆条はアオコウガイゼキショウ、ハリコウガイゼキショウでは明瞭ですが、タチコウガイゼキショウでは縦の隆条のみが目立ちます。

以上のことから同定のキーとなるポイントを挙げていきます。
1.草体の大きさ・・・アオコウガイゼキショウは他2種よりも明らかに小型。
2.葉耳の大きさ・・・タチコウガイゼキショウの葉耳は小さく不明瞭。
3.花序の大きさ・・・アオコウガイゼキショウの花序分枝は少なく、花序は小さくなる。
4.花披片に対する蒴果の大きさ・・・タチコウガイゼキショウの蒴果は花披片から少ししか出ない。
5.蒴果の先端・・・タチコウガイゼキショウは微凸端となる。
6.痩果表面の格子状の隆条・・・タチコウガイゼキショウでは縦の隆条のみが目立つ。

他に関西地方ではハリコウガイゼキショウは2次的自然度の高い場所に見られ、タチコウガイゼキショウは氾濫原由来の湿地に見られまが、アオコウガイゼキショウはどちらの環境にも現れます。
また開花期は関西地方ではハリコウガイゼキショウが最も早く6月半ば頃から開花しはじめ、つづいてタチコウガイゼキショウが開花し、アオコウガイゼキショウは7月の中下旬あたりから開花しはじめます。
上記のものは全て関西地方の集団なので、他地域ではこれが該当しないものもあるかもしれません。

今回はコウガイゼキショウ亜属の単管質のものをまとめました。
引き続いて多管質のものを、と行きたいところですが、この仲間ではハナビゼキショウの開花がかけ離れて早いので、どうするか検討中です。多分、来年の初夏まで持ち越しになりそうです。

『西宮の湿生・水生植物』 関連ページ
湿生植物・アオコウガイゼキショウ
湿生植物・ハリコウガイゼキショウ
湿生植物・タチコウガイゼキショウ

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category: イグサ科

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