京都の棚田で見られたスブタ属3種
2013/10/14 Mon. 23:24 [edit]
京都の棚田にセトヤナギスブタらしきものがあり、そこでの植物調査のお誘いがあったので行って来ました。そこはこれまで除草剤が全く使用されてこなかった棚田で、全面がサンショウモに覆われた水田もある素晴らしい場所でした。
今回はその棚田の水田の様子と、そこで見られたスブタ属3種の形態の比較をしてみました。
画像:ヒロハイヌノヒゲ、サンショウモ、マルバノサワトウガラシ、在来水田雑草群落、
セトヤナギスブタ、スブタ属3種比較、スブタ、ヤナギスブタ、溜池のスブタ、
セトヤナギスブタの葉、スブタ属3種の鋸歯、開花中のセトヤナギスブタ、
スブタ属3種の果実、スブタ属3種の種子、淡緑色のセトヤナギスブタ、ゲンゴロウ、
水田減反部のスブタとヤナギスブタなど。
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

Fig.1 密生するヒロハイヌノヒゲ (京都府 2013.10/11)
棚田には乾田と湿田が混在していて、下部の乾田ではヒロハイヌノヒゲが密生していました。
これまで見たことの無い生育密度でした。
この棚田ではいずれの水田でも水田雑草の生育密度が非常に高く、しかも外来雑草は全く見られませんでした。
関連ページ 湿生植物・ヒロハイヌノヒゲ

Fig.2 サンショウモ (京都府 2013.10/11)
山際から湧水が湧出するような場所では膝まで泥に沈む湿田となっていて、そのような水田ではサンショウモが密生しています。
周辺に見られる浮葉植物には沈水葉がありませんでしたが、おそらくヒルムシロでしょう。

Fig.3 マルバノサワトウガラシなど (京都府 2013.10/11)
画像が不鮮明ですが、ニッポンイヌノヒゲやマツバイとともにマルバノサワトウガラシが生育しています。他にゴマノハグサ科ではサワトウガラシ、アゼトウガラシ、エダウチスズメノトウガラシ、トキワハゼが生育していましたが、自然度の高い水田によく出現するシソクサとスズメハコベは見られませんでした。
関連ページ 湿生植物・マルバノサワトウガラシ

Fig.4 在来水田雑草群落 (京都府 2013.10/11)
密生するヤナギスブタ、サンショウモ、水田型イヌタヌキモ、ヒロハイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、コナギ、チゴザサ、ヤノネグサ、クログワイ・・・とても刈り取り後の水田とは思えない光景でした。

Fig.5 水路内に生育するセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
セトヤナギスブタは山側の湧水を温めるために掘られた水田の水路内に多く見られました。
棚田でも限られた水田にのみ生育しており、個体数は多くありません。おそらくヤナギスブタの数十分の一ほどでしょう。

Fig.6 スブタ属3種の生体標本 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
同一水田内から採集したもので、セトヤナギスブタはヤナギスブタの2倍ほどの大きさであるのが分かります。
茎の径はセトヤナギスブタが約3mm、ヤナギスブタが約2mmでした。

Fig.7 スブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
現地ではあまり良い画像が撮れなかったので兵庫県内で過去に撮影したものを持って来ました。
葉はセトヤナギスブタよりも幅広く、ほぼ根生し、明瞭な茎を持たないのが特徴です。

Fig.8 ヤナギスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
これも兵庫県内のもの。
明瞭な茎を持ちますが、セトヤナギスブタよりも葉は短く、葉幅も狭くなります。
以下、3種の葉の長さと葉幅です。
・セトヤナギスブタ・・・葉長:6~8cm 葉幅:2.5~4mm(3.5mm程度が多かった)
・スブタ・・・葉長:10~30cm以上 葉幅:3~9mm
・ヤナギスブタ・・・葉長:2.5~5cm 葉幅:1.5~2.3mm

Fig.9 溜池のスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
溜池などの水深のある場所に生育するスブタは、ときに葉が長く伸びて40cmほどになることがあります。

Fig.10 セトヤナギスブタの葉 (京都府 2013.10/11)
明瞭な鋸歯が見られます。

Fig.11 スブタ属3種の鋸歯 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。同じ縮尺で撮影しています。
セトヤナギスブタの鋸歯が最も明瞭であることが判ります。

Fig.12 開花中のセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
花弁の長さは13mmとスブタと同程度の大きさです。
ヤナギスブタの花弁の長さは3~8mmと小型です。

Fig.13 スブタ属3種の果実 (京都府 2013.10/11)
上からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
スブタの果実は長く、セトヤナギスブタの果実の長さはヤナギスブタとあまり差はないようでした。果実内の種子数はセトヤナギスブタが圧倒的に少なく、このため自生地での個体数も少なくなるのでしょう。

Fig.14 スブタ属3種の種子 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
セトヤナギスブタの種子は大きく、1.8~2.5mmの範囲に納まりました。
表面の突起数は『日本水草図鑑』では2~10個と記されていますが、この個体は20個以上突起があるものも見られました。
しかし、種子の突起数は変異の範疇で、草体の様子からセトヤナギスブタであると思います。
結実も正常なのでスブタとヤナギスブタの雑種は考えにくいと思います。

Fig.15 淡緑色のセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
セトヤナギスブタは赤紫色を帯びる傾向がありますが、日陰では他の水草と同様、あまり色づかないようです。このような草体の色の変化は生育条件によって変化があるため、あまり同定の区別点としては使えません。
ただ、この場所にあったヤナギスブタとスブタは全く色づくものがなく、日当たりよい場所のものは区別が容易でした。
以下の2点の画像は色づいたスブタとヤナギスブタです。

Fig.16 一部の葉が色づいたスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
溜池に生育しているもので一部の葉が赤紫色を帯びています。

Fig.17 赤紫色に色づいたヤナギスブタ (兵庫県宝塚市 2012.10/8)
溜池に生育していたものです。

Fig.18 セトヤナギスブタとヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
水田内に生育しているもので、左がセトヤナギスブタ、右がヤナギスブタです。
同一環境下では色に差が出ていることが解ります。

Fig.19 クロゲンゴロウとヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
棚田ではクロゲンゴロウやタイコウチが沢山見られました。
以下は兵庫県で見られたスブタとヤナギスブタの混生地です。
兵庫県では最近セトヤナギスブタの自生のニュースを聞いたことがなく、現状不明です。
京都府のようにどこかの谷津に残っているといいのですが。

Fig.20 水田の減反部に生育するスブタとヤナギスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
シソクサ、アブノメ、キクモ、イヌミゾハコベ、アゼナ、アメリカアゼナ、アゼトウガラシなどとともに生育していました。
関連ページ 沈水植物・セトヤナギスブタ
関連ページ 沈水植物・スブタ
関連ページ 沈水植物・ヤナギスブタ
今回はその棚田の水田の様子と、そこで見られたスブタ属3種の形態の比較をしてみました。
画像:ヒロハイヌノヒゲ、サンショウモ、マルバノサワトウガラシ、在来水田雑草群落、
セトヤナギスブタ、スブタ属3種比較、スブタ、ヤナギスブタ、溜池のスブタ、
セトヤナギスブタの葉、スブタ属3種の鋸歯、開花中のセトヤナギスブタ、
スブタ属3種の果実、スブタ属3種の種子、淡緑色のセトヤナギスブタ、ゲンゴロウ、
水田減反部のスブタとヤナギスブタなど。
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

Fig.1 密生するヒロハイヌノヒゲ (京都府 2013.10/11)
棚田には乾田と湿田が混在していて、下部の乾田ではヒロハイヌノヒゲが密生していました。
これまで見たことの無い生育密度でした。
この棚田ではいずれの水田でも水田雑草の生育密度が非常に高く、しかも外来雑草は全く見られませんでした。
関連ページ 湿生植物・ヒロハイヌノヒゲ

Fig.2 サンショウモ (京都府 2013.10/11)
山際から湧水が湧出するような場所では膝まで泥に沈む湿田となっていて、そのような水田ではサンショウモが密生しています。
周辺に見られる浮葉植物には沈水葉がありませんでしたが、おそらくヒルムシロでしょう。

Fig.3 マルバノサワトウガラシなど (京都府 2013.10/11)
画像が不鮮明ですが、ニッポンイヌノヒゲやマツバイとともにマルバノサワトウガラシが生育しています。他にゴマノハグサ科ではサワトウガラシ、アゼトウガラシ、エダウチスズメノトウガラシ、トキワハゼが生育していましたが、自然度の高い水田によく出現するシソクサとスズメハコベは見られませんでした。
関連ページ 湿生植物・マルバノサワトウガラシ

Fig.4 在来水田雑草群落 (京都府 2013.10/11)
密生するヤナギスブタ、サンショウモ、水田型イヌタヌキモ、ヒロハイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、コナギ、チゴザサ、ヤノネグサ、クログワイ・・・とても刈り取り後の水田とは思えない光景でした。

Fig.5 水路内に生育するセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
セトヤナギスブタは山側の湧水を温めるために掘られた水田の水路内に多く見られました。
棚田でも限られた水田にのみ生育しており、個体数は多くありません。おそらくヤナギスブタの数十分の一ほどでしょう。

Fig.6 スブタ属3種の生体標本 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
同一水田内から採集したもので、セトヤナギスブタはヤナギスブタの2倍ほどの大きさであるのが分かります。
茎の径はセトヤナギスブタが約3mm、ヤナギスブタが約2mmでした。

Fig.7 スブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
現地ではあまり良い画像が撮れなかったので兵庫県内で過去に撮影したものを持って来ました。
葉はセトヤナギスブタよりも幅広く、ほぼ根生し、明瞭な茎を持たないのが特徴です。

Fig.8 ヤナギスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
これも兵庫県内のもの。
明瞭な茎を持ちますが、セトヤナギスブタよりも葉は短く、葉幅も狭くなります。
以下、3種の葉の長さと葉幅です。
・セトヤナギスブタ・・・葉長:6~8cm 葉幅:2.5~4mm(3.5mm程度が多かった)
・スブタ・・・葉長:10~30cm以上 葉幅:3~9mm
・ヤナギスブタ・・・葉長:2.5~5cm 葉幅:1.5~2.3mm

Fig.9 溜池のスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
溜池などの水深のある場所に生育するスブタは、ときに葉が長く伸びて40cmほどになることがあります。

Fig.10 セトヤナギスブタの葉 (京都府 2013.10/11)
明瞭な鋸歯が見られます。

Fig.11 スブタ属3種の鋸歯 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。同じ縮尺で撮影しています。
セトヤナギスブタの鋸歯が最も明瞭であることが判ります。

Fig.12 開花中のセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
花弁の長さは13mmとスブタと同程度の大きさです。
ヤナギスブタの花弁の長さは3~8mmと小型です。

Fig.13 スブタ属3種の果実 (京都府 2013.10/11)
上からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
スブタの果実は長く、セトヤナギスブタの果実の長さはヤナギスブタとあまり差はないようでした。果実内の種子数はセトヤナギスブタが圧倒的に少なく、このため自生地での個体数も少なくなるのでしょう。

Fig.14 スブタ属3種の種子 (京都府 2013.10/11)
左からセトヤナギスブタ、スブタ、ヤナギスブタです。
セトヤナギスブタの種子は大きく、1.8~2.5mmの範囲に納まりました。
表面の突起数は『日本水草図鑑』では2~10個と記されていますが、この個体は20個以上突起があるものも見られました。
しかし、種子の突起数は変異の範疇で、草体の様子からセトヤナギスブタであると思います。
結実も正常なのでスブタとヤナギスブタの雑種は考えにくいと思います。

Fig.15 淡緑色のセトヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
セトヤナギスブタは赤紫色を帯びる傾向がありますが、日陰では他の水草と同様、あまり色づかないようです。このような草体の色の変化は生育条件によって変化があるため、あまり同定の区別点としては使えません。
ただ、この場所にあったヤナギスブタとスブタは全く色づくものがなく、日当たりよい場所のものは区別が容易でした。
以下の2点の画像は色づいたスブタとヤナギスブタです。

Fig.16 一部の葉が色づいたスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
溜池に生育しているもので一部の葉が赤紫色を帯びています。

Fig.17 赤紫色に色づいたヤナギスブタ (兵庫県宝塚市 2012.10/8)
溜池に生育していたものです。

Fig.18 セトヤナギスブタとヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
水田内に生育しているもので、左がセトヤナギスブタ、右がヤナギスブタです。
同一環境下では色に差が出ていることが解ります。

Fig.19 クロゲンゴロウとヤナギスブタ (京都府 2013.10/11)
棚田ではクロゲンゴロウやタイコウチが沢山見られました。
以下は兵庫県で見られたスブタとヤナギスブタの混生地です。
兵庫県では最近セトヤナギスブタの自生のニュースを聞いたことがなく、現状不明です。
京都府のようにどこかの谷津に残っているといいのですが。

Fig.20 水田の減反部に生育するスブタとヤナギスブタ (兵庫県小野市 2011.9/19)
シソクサ、アブノメ、キクモ、イヌミゾハコベ、アゼナ、アメリカアゼナ、アゼトウガラシなどとともに生育していました。
関連ページ 沈水植物・セトヤナギスブタ
関連ページ 沈水植物・スブタ
関連ページ 沈水植物・ヤナギスブタ
京都府中丹地方にて
2013/07/01 Mon. 03:21 [edit]
およそ2ヶ月ぶりに京都の中丹地方(福知山市・綾部市・舞鶴市からなる)の村落を歩いてみました。春の季節はモトマチハナワラビやオオマルバコンロンソウを探し歩きましたが、今回はそろそろ水辺の植物が出始めている頃なので、湿生・水生植物が目当てです。今回訪れた村落は周囲をシカ除けのフェンスで囲っていて、その内側にかなりいろいろな植物が残っていました。
画像:ヤマジノタツナミソウ、オオケマイマイ、休耕田、ハナビゼキショウ、小川の河畔、
オナガサナエ、タカネマスクサ、イヌシカクイ、モリアオガエルの卵塊、イトモ、
ヒロハノエビモ、ミヤコカナワラビ
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

Fig.1 ヤマジノタツナミソウ(果実期)
村落内に手入れの行き届いた雑木林と植林地が入り混じった林があり、その沢沿いの山道をあるいていると、沢沿いにクラマゴケやシダ類に混じって沢山のヤマジノタツナミソウが生育していました。ホクリクタツナミソウやデワノタツナミソウがありそうに思って入ったのですが、嬉しい誤算でした。京都では2例目の記録とのことです。

Fig.2 閉鎖花をつけたヤマジノタツナミソウ
少し離れた別の樹林に囲まれた河原にもヤマジノタツナミソウが見つかりました。もちろん花期は終わっており、閉鎖花をつけた個体が多く見られました。今年は兵庫県の摂津地方でも自生地を見つけましたが、生育規模はこちらのほうが大きく、全てあわせると200個体近くが生育しています。

Fig.3 オオケマイマイ
ヤマジノタツナミソウの生育している河原の落ち葉の間に居ました。梅雨時の谷間でよく見かける、直径3センチたらずのユニークなカタツムリです。

Fig.4 村落内の休耕田
シカ除けフェンスのおかげで、村落内にある休耕田は野生動物によるひどい撹乱や食害をまぬがれて、水田雑草の楽園となっていました。画像には馴染みのイグサ、ハナビゼキショウ、チゴザサ、サヤヌカグサsp.、ミゾソバ、キツネノボタン、アメリカセンダングサなどが見えます。手前の土手の草地で咲いている白い花はカワラマツバで、土手では草原性植物のクララも多数生育しています。さらに季節が進めばいろいろな草本が見られそうです。

Fig.5 ハナビゼキショウ
イグサ科の草本で、兵庫県南部では休耕田で雑草のごとく生えているのを見かけますが、京都府では減少傾向が著しいようで準絶滅危惧種とされています。ここでは同じく準絶滅危惧種となっているムツオレグサ(イネ科)とともに、かなりの個体数が生育していました。他に休耕田ではサンカクイの群落、花序を出し始めたイヌホタルイなどが見られました。秋にもう一度訪ねたい場所です。
関連ページ 湿生植物・ハナビゼキショウ

Fig.6 村落内の小川
いかにも里山という感じの小川では河畔にキンキカサスゲとタニガワスゲが群落をつくっていました。タニガワスゲは京都府の準絶滅危惧種となっていますが、すでに果胞は落果しており、標本に適したものはありませんでした。
関連ページ 湿生植物・キンキカサスゲ タニガワスゲ

Fig.7 オナガサナエ(♀)
シカ除けフェンスをくぐって溜池に向かうと、オナガサナエがお出迎えしてくれました。

Fig.8 タカネマスクサ
フェンスの外側の溜池なので、あまり期待はしていなかったのですが、徹底的に食害されるところまではやられておらず、シカがあまり好きではないカヤツリグサ科やイグサ科の草本はまだ残っていました。画像のタカネマスクサはその中でも飛びきり元気だったもの。
関連ページ 湿生植物・タカネマスクサ

Fig.9 イヌシカクイ
溜池の奥にはハンノキ林を伴った湿地があり、野生動物による撹乱が激しかったですが、イヌシカクイが数株生育していました。地域的にここらで出てくるのはマシカクイか狭義シカクイあたりだろうと思っていたら、意に反してイヌシカクイが出てきました。兵庫県では南部を中心に広く分布する種です。「所変われば・・・」ということですね。これも京都府では減少しているようで準絶滅危惧種となっています。この湿地では京都府RDBでは絶滅危惧種となっているシラコスゲもありましたが、ほとんどの果胞は落果しており、標本に適したものはありませんでした。
関連ページ 湿生植物・イヌシカクイ

Fig.10 モリアオガエルの卵塊
いったん村落内に戻り、最奥の溜池へ向かうと、池畔の全ての樹木にモリアオガエルの卵塊が鈴なりにぶら下がっていました。この時期ならではの溜池の風物詩ですね。水中にはすでに孵化した小さなオタマジャクシが無数に泳いでいました。天敵のイモリは少ないようで2,3匹くらいしか見当たりませんでした。

Fig.11 ヒロハノエビモとイトモ
この溜池にはヒロハノエビモとイトモが生育していました。イトモは京都府の絶滅寸前種となっていますが、ヒロハノエビモは淀川水系で見られるためか京都府RDBには記載されていません。しかし、溜池でヒロハノエビモが生育する例は、西日本ではかなり少ないと記憶しています。溜池の多い兵庫県内でも、確か自生地は1ヶ所だけではなかったかと思います。このような稀有な例が見られるこの溜池は、埋め立てたり放棄したりせずに、いつまでも残して欲しいものだと思います。池畔には夥しい数のイヌノヒゲsp.の若い個体も見られ、年内にもう一度調査すべきと思われる場所でした。

Fig.12 ヒロハノエビモの葉
この溜池のヒロハノエビモは、よく見慣れた琵琶湖-淀川水系のものに比べて草体や葉が大きく、最初はオオササエビモあたりかと思いましたが、葉身基部は3/4ほどが茎を抱き、葉先が円頭なのでやはり間違いなくヒロハノエビモです。成熟した葉の長さは5~6cmでした。
関連ページ 沈水植物・ヒロハノエビモ

Fig.13 ヒロハノエビモの花序
見た目花は3心皮のように見えますが、全て4心皮でした。しかし少し気になるので、花粉を調べたいところでしたが、もともと花序は数日前から続いた降雨による増水で水没しており、花粉は全て放出された後でした。花序直下の葉腋から花芽を持った側枝が出ていましたが、とりあえず証拠標本のために押し葉としました。

Fig.14 イトモの花序
こちらはヒロハノエビモとちがってほとんど花序を上げておらず、水際に打ち寄せられていた大量の切れ藻を一部持ち帰って、花序が着いたものを見つけることができました。花は高倍率のルーペか顕微鏡で観察しなければ解らないような小さなものですが、4心皮でした。夏の果実をつけたもの、秋の殖芽をつけたものを揃えれば生態標本の完成です。私のフィールドである西宮市から丹波市にかけては山間の谷池などによく見られ、稀少種でありながら、とても馴染み深い水草です。
関連ページ 沈水植物・イトモ

Fig.15 ミヤコカナワラビ
溜池に流入する沢をタツナミソウ類でもないかと遡っていったところ、山道の脇に巨岩が現れ、その周囲にカナワラビの仲間が小さな群落をつくっていた。「これはもしや、ミヤコか・・・」と思い、M先生にお尋ねすると、やはり「典型的ではないが、ミヤコカナワラビでよい」とのご返答。京都府北部では初の記録とのこと。

Fig.16 ミヤコカナワラビの小群落
巨岩の周囲に生えている群落の様子です。ミヤコイヌワラビは内陸部の湿った日陰の林下に現れるようで、根茎を横走して群生し、葉面に特有の金属光沢があります。葉先はホソバカナワラビのように明瞭な頂羽片とはならないのが特徴とのこと。
それにしても、午後3時から7時という4時間の間にヤマジノタツナミソウ、シラコスゲ、イトモ、ヒロハノエビモ、ミヤコカナワラビと立て続けに稀少種が現れて、非常に自然度のポテンシャルの高い地区でした。じっくりと腰を据えて調査する価値のある場所のように思われます。年内に少なくとももう一度は訪ねてみたいと思うような所でした。
画像:ヤマジノタツナミソウ、オオケマイマイ、休耕田、ハナビゼキショウ、小川の河畔、
オナガサナエ、タカネマスクサ、イヌシカクイ、モリアオガエルの卵塊、イトモ、
ヒロハノエビモ、ミヤコカナワラビ
*画像クリックで、別ウィンドで拡大表示されます。

Fig.1 ヤマジノタツナミソウ(果実期)
村落内に手入れの行き届いた雑木林と植林地が入り混じった林があり、その沢沿いの山道をあるいていると、沢沿いにクラマゴケやシダ類に混じって沢山のヤマジノタツナミソウが生育していました。ホクリクタツナミソウやデワノタツナミソウがありそうに思って入ったのですが、嬉しい誤算でした。京都では2例目の記録とのことです。

Fig.2 閉鎖花をつけたヤマジノタツナミソウ
少し離れた別の樹林に囲まれた河原にもヤマジノタツナミソウが見つかりました。もちろん花期は終わっており、閉鎖花をつけた個体が多く見られました。今年は兵庫県の摂津地方でも自生地を見つけましたが、生育規模はこちらのほうが大きく、全てあわせると200個体近くが生育しています。

Fig.3 オオケマイマイ
ヤマジノタツナミソウの生育している河原の落ち葉の間に居ました。梅雨時の谷間でよく見かける、直径3センチたらずのユニークなカタツムリです。

Fig.4 村落内の休耕田
シカ除けフェンスのおかげで、村落内にある休耕田は野生動物によるひどい撹乱や食害をまぬがれて、水田雑草の楽園となっていました。画像には馴染みのイグサ、ハナビゼキショウ、チゴザサ、サヤヌカグサsp.、ミゾソバ、キツネノボタン、アメリカセンダングサなどが見えます。手前の土手の草地で咲いている白い花はカワラマツバで、土手では草原性植物のクララも多数生育しています。さらに季節が進めばいろいろな草本が見られそうです。

Fig.5 ハナビゼキショウ
イグサ科の草本で、兵庫県南部では休耕田で雑草のごとく生えているのを見かけますが、京都府では減少傾向が著しいようで準絶滅危惧種とされています。ここでは同じく準絶滅危惧種となっているムツオレグサ(イネ科)とともに、かなりの個体数が生育していました。他に休耕田ではサンカクイの群落、花序を出し始めたイヌホタルイなどが見られました。秋にもう一度訪ねたい場所です。
関連ページ 湿生植物・ハナビゼキショウ

Fig.6 村落内の小川
いかにも里山という感じの小川では河畔にキンキカサスゲとタニガワスゲが群落をつくっていました。タニガワスゲは京都府の準絶滅危惧種となっていますが、すでに果胞は落果しており、標本に適したものはありませんでした。
関連ページ 湿生植物・キンキカサスゲ タニガワスゲ

Fig.7 オナガサナエ(♀)
シカ除けフェンスをくぐって溜池に向かうと、オナガサナエがお出迎えしてくれました。

Fig.8 タカネマスクサ
フェンスの外側の溜池なので、あまり期待はしていなかったのですが、徹底的に食害されるところまではやられておらず、シカがあまり好きではないカヤツリグサ科やイグサ科の草本はまだ残っていました。画像のタカネマスクサはその中でも飛びきり元気だったもの。
関連ページ 湿生植物・タカネマスクサ

Fig.9 イヌシカクイ
溜池の奥にはハンノキ林を伴った湿地があり、野生動物による撹乱が激しかったですが、イヌシカクイが数株生育していました。地域的にここらで出てくるのはマシカクイか狭義シカクイあたりだろうと思っていたら、意に反してイヌシカクイが出てきました。兵庫県では南部を中心に広く分布する種です。「所変われば・・・」ということですね。これも京都府では減少しているようで準絶滅危惧種となっています。この湿地では京都府RDBでは絶滅危惧種となっているシラコスゲもありましたが、ほとんどの果胞は落果しており、標本に適したものはありませんでした。
関連ページ 湿生植物・イヌシカクイ

Fig.10 モリアオガエルの卵塊
いったん村落内に戻り、最奥の溜池へ向かうと、池畔の全ての樹木にモリアオガエルの卵塊が鈴なりにぶら下がっていました。この時期ならではの溜池の風物詩ですね。水中にはすでに孵化した小さなオタマジャクシが無数に泳いでいました。天敵のイモリは少ないようで2,3匹くらいしか見当たりませんでした。

Fig.11 ヒロハノエビモとイトモ
この溜池にはヒロハノエビモとイトモが生育していました。イトモは京都府の絶滅寸前種となっていますが、ヒロハノエビモは淀川水系で見られるためか京都府RDBには記載されていません。しかし、溜池でヒロハノエビモが生育する例は、西日本ではかなり少ないと記憶しています。溜池の多い兵庫県内でも、確か自生地は1ヶ所だけではなかったかと思います。このような稀有な例が見られるこの溜池は、埋め立てたり放棄したりせずに、いつまでも残して欲しいものだと思います。池畔には夥しい数のイヌノヒゲsp.の若い個体も見られ、年内にもう一度調査すべきと思われる場所でした。

Fig.12 ヒロハノエビモの葉
この溜池のヒロハノエビモは、よく見慣れた琵琶湖-淀川水系のものに比べて草体や葉が大きく、最初はオオササエビモあたりかと思いましたが、葉身基部は3/4ほどが茎を抱き、葉先が円頭なのでやはり間違いなくヒロハノエビモです。成熟した葉の長さは5~6cmでした。
関連ページ 沈水植物・ヒロハノエビモ

Fig.13 ヒロハノエビモの花序
見た目花は3心皮のように見えますが、全て4心皮でした。しかし少し気になるので、花粉を調べたいところでしたが、もともと花序は数日前から続いた降雨による増水で水没しており、花粉は全て放出された後でした。花序直下の葉腋から花芽を持った側枝が出ていましたが、とりあえず証拠標本のために押し葉としました。

Fig.14 イトモの花序
こちらはヒロハノエビモとちがってほとんど花序を上げておらず、水際に打ち寄せられていた大量の切れ藻を一部持ち帰って、花序が着いたものを見つけることができました。花は高倍率のルーペか顕微鏡で観察しなければ解らないような小さなものですが、4心皮でした。夏の果実をつけたもの、秋の殖芽をつけたものを揃えれば生態標本の完成です。私のフィールドである西宮市から丹波市にかけては山間の谷池などによく見られ、稀少種でありながら、とても馴染み深い水草です。
関連ページ 沈水植物・イトモ

Fig.15 ミヤコカナワラビ
溜池に流入する沢をタツナミソウ類でもないかと遡っていったところ、山道の脇に巨岩が現れ、その周囲にカナワラビの仲間が小さな群落をつくっていた。「これはもしや、ミヤコか・・・」と思い、M先生にお尋ねすると、やはり「典型的ではないが、ミヤコカナワラビでよい」とのご返答。京都府北部では初の記録とのこと。

Fig.16 ミヤコカナワラビの小群落
巨岩の周囲に生えている群落の様子です。ミヤコイヌワラビは内陸部の湿った日陰の林下に現れるようで、根茎を横走して群生し、葉面に特有の金属光沢があります。葉先はホソバカナワラビのように明瞭な頂羽片とはならないのが特徴とのこと。
それにしても、午後3時から7時という4時間の間にヤマジノタツナミソウ、シラコスゲ、イトモ、ヒロハノエビモ、ミヤコカナワラビと立て続けに稀少種が現れて、非常に自然度のポテンシャルの高い地区でした。じっくりと腰を据えて調査する価値のある場所のように思われます。年内に少なくとももう一度は訪ねてみたいと思うような所でした。
category: 京都・稀少種
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