兵庫の絶滅危惧植物達 1
2018/10/07 Sun. 01:21 [edit]
日々の仕事、家事に加えて今年は様々な調査が重なってブログもHPもなかなか更新ができていません。
今回は更新ブランク時期に見たもの含め、特に絶滅危惧種を中心に2回に分けてまとめてみました。
兵庫県では溜池や湿地の遷移と水質変化に加え、近年ではシカ食害と、草原環境の減少により、絶滅を危惧される種が依然として増加傾向にあります。

Fig.1 カミカワスゲ (兵庫県 2018.5/6)
カミカワスゲは中部地方以北の高層湿原で谷内坊主を形成するスゲとして知られているが、近年西日本の瀬戸内沿岸の沿海の湿地に隔離分布することが広島、岡山、兵庫の標本の精査により確認されている。前回のRDBでは要調査種とされ、今回、兵庫県のRDBの見直し調査で標本の記録のある場所で確かにカミカワスゲと同定できるスゲが確認できた。

Fig.2 カミカワスゲの花序 (兵庫県 2018.5/6)
カミカワスゲはスゲ属ヌカスゲ節に分類され、花序の頂生する雄小穂や側生する雌小穂は同属のシバスゲに酷似している。

Fig.3 カミカワスゲの自生状況 (兵庫県 2018.5/6)
カミカワスゲは湛水する湿地中央部よりも、湿地周縁部から低木林内にかけて大きな株が点在していた。シバスゲは地下に匍匐茎を伸ばして草刈りされた棚田の土手にまばらな群落をつくることが多いが、カミカワスゲにはそのような性質は見られず、大きな株をつくって点在している。

Fig.4 トケンラン (兵庫県 2018.5/20)
兵庫県RDB Aランク種で、画像のものは毎年継続観察しているもので、県内では最も充実した集団。
スギ植林地下であるが林床の草本類は豊富で、ギンラン、カントウマムシグサ、タマツリスゲ、エナシヒゴクサ×シラズゲ推定雑種、ハコネシケチシダ、アカハナワラビ、アカネハナワラビなど、見るべきものが多い。
関連ページ 関西の花・トケンラン

Fig.5 トケンランの群生 (兵庫県 2018.5/20)

Fig.6 ヤマサギソウ (兵庫県 2018.5/17)
棚田の土手、溜池土堤などに見られる種だが、近年減少が著しく、現在はRDB Cランクとされているが、同じラン科のカキラン、キンラン、ギンラン、トキソウなどと比べると見かける機会は稀なものだ。画像のものは三田市内の溜池土堤に生育していたもので、多数の花をつけた立派な株が3個体ほど生育していた。近くの林縁には多数のキンランが見られた。
関連ページ 関西の花・ヤマサギソウ

Fig.7 ヤマジスゲ (兵庫県 2018.5/17)
兵庫県版RDBではCランクとなっているが、見かける機会はごく稀で、過去の記録地で再確認できる所もほとんどない。
本種は草刈りされる農道の踏み付けのあるような場所に見られるが、もともと局所的に分布し、同じような場所に見られるジュズスゲやカワラスゲのように繁殖力も旺盛ではないようだ。
耕作放棄によって農道が草に埋もれていくと姿を消してしまう。
関連ページ 関西の花・ヤマジスゲ

Fig.8 ヤマジスゲの花序 (兵庫県 2018.5/17)
花序は非常に地味で、カヤツリグサ科というよりもイネ科の草本のように見える。
葉もイネ科のように柔らかい。

Fig.8 ヤマジノタツナミソウ (兵庫県 2018.5/17)
兵庫県の集団は分布の西限と考えられ、摂津地域の狭い範囲に分布が限られ、RDB Aランク種とされている。画像のものは河川の上流域から導水した水路脇に群生しているもので、水路脇には水路から掬い上げられた土砂が盛られており、本来の河川上流周辺から人為的な力を借りて水路脇に分布を広げたものと考えられる。
関連ページ 関西の花・ヤマジノタツナミソウ

Fig.9ヤマシャクヤク シロバナノケナシベニバナヤマシャクヤク (兵庫県 2018.5/20)
ヤマシャクヤクは兵庫県版RDBに指定されておらず、近縁の花が淡紅色のベニバナヤマシャクヤクはAランクに指定されている。
ところが、ベニバナヤマシャクヤクには白花品が多く見出され、シロバナノケナシヤマシャクヤクとされるものもあり、これまでのヤマシャクヤクとベニバナヤマシャクヤクの分布を精査する必要がある。
雄蕊の形状によって区別されることがあるが、微妙なものも多く、地下部の形状を確認する必要がある。
*ベニバナヤマシャクヤクの白花品とのご指摘を頂き、訂正いたしました(2018.10/7)

Fig.10ヤマシャクヤク シロバナノケナシベニバナヤマシャクヤクの花 (兵庫県 2018.5/20)
雌蕊は捻れは不完全に見えヤマシャクヤクとの差は微妙である。

Fig.11 タジマタムラソウ (兵庫県 2018.5/21)
タジマタクラソウは兵庫県版RDBでCランクとされているが、但馬地方では薄く広く分布しているという印象がある。
ここでは適湿な林道脇で見事な群落を形成していた。開花期は県南部でふつうなアキノタムラソウよりも数ヶ月は早く、花の色も濃いため、見間違うことはない。

Fig.12 林道脇で群生するタジマタムラソウ (兵庫県 2018.5/21)
場所によっては高密度で群生していた。

Fig.13 フナバラソウ (兵庫県 2018.5/26)
毎年草刈りがされている場所で開花したフナバラソウ。
果実期前に草刈りされるので、開花期に周辺を草刈りして保護する活動に参加してきました。
誤って茎を草とともに刈ってしまいましたが、花の付いているものは標本として標本庫に収め、花の付いていない茎は挿し芽して増殖して頂いています。
保護活動のおかげで今年は少数ながらも結実が見られたとのことでした。
関連ページ 関西の花・フナバラソウ

Fig.14 ホソバシロスミレ (兵庫県 2018.6/1)
かつては県内の4ヶ所から記録があったが、現在では2ヶ所で個体数を数える程度しか残っていない。
種子を採取して生育維持する段階に入っている。

Fig.15 クロイチゴ (兵庫県 2018.6/1)
これまで県内での自生が疑問視されてきた種だが、近年になって但馬地方の各所で見つかるようになってきたもの。
当然これまではランク外だったが、今回の見直しでAランクとされるもの。
土壌の安定した場所で見られることは少なく、崩壊気味の河畔や崖地にパイオニア種のように一時的に生育し、確認翌年には見られないといった例が多く、生育条件には気難しい面があるようだ。

Fig.16 デワノタツナミソウ (兵庫県 2018.6/4)
本種とホクリクタツナミソウ、コバノタツナミは見分けが難しい。
ホクリク~は低地から低山の渓流近くの林床に生育し、デワノ~はより深山の渓流畔に生育する傾向がある。
コバノ~は海岸近い草地から、時に山間の日当たりよい渓流畔にまで生育していることがある。
デワノ~、ホクリク~とコバノ~は正確には果時の下萼片の大きさで区別され、デワノ~とホクリク~は茎に生える毛によって区別される。3種のうちデワノ~だけがCランク種として評価されている。
参考関連ページ 関西の花・ホクリクタツナミソウ
参考関連ページ 関西の花・コバノタツナミ

Fig.17 デワノタツナミソウの全草標本 (兵庫県 2018.6/4)
自生箇所に表土がある場合はデワノ~は花茎基部から多数の地中性の根茎を出し、その先に新たな茎を出芽する。この新芽は閉鎖花をつけるまで生育した後に常緑越冬することもあれば、閉鎖花を付けずに常緑越冬することもある。
ホクリク~もデワノ~と同様な地中性の匍匐根茎を出す。コバノ~の場合は地表かごく浅い地中に匍匐根茎が伸びる。
以上のような生態的差異があるが、渓流畔の岩上に生育するデワノ~の場合は、岩上の蘚苔類の下に匍匐根茎を伸ばしている場合が多く、区別点としては使いにくい。

Fig.18 イガタツナミ (兵庫県 2018.6/4)
兵庫県版RDBではCランクと評価され、摂津から播磨地方の兵庫県南部の棚田周辺の用水路脇や、湧水の滲みだす土手や溜池土堤で見かける機会が多いが、河畔の日陰の林床でも節間の間延びしたものが生育していることがある。
先のデワノ~、ホクリク~、コバノ~と異なり、匍匐茎は出さず、基部から分枝して株立ちする。
生育条件が日照よりも水分条件に左右されるようで、HPでは湿生植物として扱っている。
画像のものはユウスゲ、タムラソウ、タカトウダイ、オニスゲ、ノハナショウブなどが見られる、二次的自然度の高い溜池土堤下部にゴウソやタムラソウなどと生育しているもの。
関連ページ 湿生植物・イガタツナミ

Fig.19 ヒロハヤブソテツ (兵庫県 2018.6/10)
兵庫県内では比較的見かけるものだが、生育環境が深山の多湿な岩場や河畔に限られBランクと評価されている。
画像のものは側羽片が少なく羽片の大きな典型的なものだが、羽片が多く上部羽片に弱い耳朶を生じるヤマヤブソテツやツクシヤブソテツとの中間的なものも見られる。
関連ページ 関西の花・ヒロハヤブソテツ

Fig.20 Fig.19のソーラス (兵庫県 2018.6/10)
ヒロハヤブソテツの包膜はふつう灰色一色であるが、この個体では中心にわずかに黒褐色部が見える。

Fig.21 アカモノ (兵庫県 2018.6/16)
本種は亜高山帯以上に生育する匍匐性の小低木で、半裸地的で適湿な草原環境に生育し、県内ではそのような環境は少なくAランクと評価され自生地も少ない。
現在兵庫県内で生育を確認できている場所は3ヶ所で、うち2ヶ所は定期的な草刈りにより残存している。
今回は更新ブランク時期に見たもの含め、特に絶滅危惧種を中心に2回に分けてまとめてみました。
兵庫県では溜池や湿地の遷移と水質変化に加え、近年ではシカ食害と、草原環境の減少により、絶滅を危惧される種が依然として増加傾向にあります。

Fig.1 カミカワスゲ (兵庫県 2018.5/6)
カミカワスゲは中部地方以北の高層湿原で谷内坊主を形成するスゲとして知られているが、近年西日本の瀬戸内沿岸の沿海の湿地に隔離分布することが広島、岡山、兵庫の標本の精査により確認されている。前回のRDBでは要調査種とされ、今回、兵庫県のRDBの見直し調査で標本の記録のある場所で確かにカミカワスゲと同定できるスゲが確認できた。

Fig.2 カミカワスゲの花序 (兵庫県 2018.5/6)
カミカワスゲはスゲ属ヌカスゲ節に分類され、花序の頂生する雄小穂や側生する雌小穂は同属のシバスゲに酷似している。

Fig.3 カミカワスゲの自生状況 (兵庫県 2018.5/6)
カミカワスゲは湛水する湿地中央部よりも、湿地周縁部から低木林内にかけて大きな株が点在していた。シバスゲは地下に匍匐茎を伸ばして草刈りされた棚田の土手にまばらな群落をつくることが多いが、カミカワスゲにはそのような性質は見られず、大きな株をつくって点在している。

Fig.4 トケンラン (兵庫県 2018.5/20)
兵庫県RDB Aランク種で、画像のものは毎年継続観察しているもので、県内では最も充実した集団。
スギ植林地下であるが林床の草本類は豊富で、ギンラン、カントウマムシグサ、タマツリスゲ、エナシヒゴクサ×シラズゲ推定雑種、ハコネシケチシダ、アカハナワラビ、アカネハナワラビなど、見るべきものが多い。
関連ページ 関西の花・トケンラン

Fig.5 トケンランの群生 (兵庫県 2018.5/20)

Fig.6 ヤマサギソウ (兵庫県 2018.5/17)
棚田の土手、溜池土堤などに見られる種だが、近年減少が著しく、現在はRDB Cランクとされているが、同じラン科のカキラン、キンラン、ギンラン、トキソウなどと比べると見かける機会は稀なものだ。画像のものは三田市内の溜池土堤に生育していたもので、多数の花をつけた立派な株が3個体ほど生育していた。近くの林縁には多数のキンランが見られた。
関連ページ 関西の花・ヤマサギソウ

Fig.7 ヤマジスゲ (兵庫県 2018.5/17)
兵庫県版RDBではCランクとなっているが、見かける機会はごく稀で、過去の記録地で再確認できる所もほとんどない。
本種は草刈りされる農道の踏み付けのあるような場所に見られるが、もともと局所的に分布し、同じような場所に見られるジュズスゲやカワラスゲのように繁殖力も旺盛ではないようだ。
耕作放棄によって農道が草に埋もれていくと姿を消してしまう。
関連ページ 関西の花・ヤマジスゲ

Fig.8 ヤマジスゲの花序 (兵庫県 2018.5/17)
花序は非常に地味で、カヤツリグサ科というよりもイネ科の草本のように見える。
葉もイネ科のように柔らかい。

Fig.8 ヤマジノタツナミソウ (兵庫県 2018.5/17)
兵庫県の集団は分布の西限と考えられ、摂津地域の狭い範囲に分布が限られ、RDB Aランク種とされている。画像のものは河川の上流域から導水した水路脇に群生しているもので、水路脇には水路から掬い上げられた土砂が盛られており、本来の河川上流周辺から人為的な力を借りて水路脇に分布を広げたものと考えられる。
関連ページ 関西の花・ヤマジノタツナミソウ

Fig.9
ヤマシャクヤクは兵庫県版RDBに指定されておらず、近縁の花が淡紅色のベニバナヤマシャクヤクはAランクに指定されている。
ところが、ベニバナヤマシャクヤクには白花品が多く見出され、シロバナノケナシヤマシャクヤクとされるものもあり、これまでのヤマシャクヤクとベニバナヤマシャクヤクの分布を精査する必要がある。
雄蕊の形状によって区別されることがあるが、微妙なものも多く、地下部の形状を確認する必要がある。
*ベニバナヤマシャクヤクの白花品とのご指摘を頂き、訂正いたしました(2018.10/7)

Fig.10
雌蕊は捻れは不完全に見えヤマシャクヤクとの差は微妙である。

Fig.11 タジマタムラソウ (兵庫県 2018.5/21)
タジマタクラソウは兵庫県版RDBでCランクとされているが、但馬地方では薄く広く分布しているという印象がある。
ここでは適湿な林道脇で見事な群落を形成していた。開花期は県南部でふつうなアキノタムラソウよりも数ヶ月は早く、花の色も濃いため、見間違うことはない。

Fig.12 林道脇で群生するタジマタムラソウ (兵庫県 2018.5/21)
場所によっては高密度で群生していた。

Fig.13 フナバラソウ (兵庫県 2018.5/26)
毎年草刈りがされている場所で開花したフナバラソウ。
果実期前に草刈りされるので、開花期に周辺を草刈りして保護する活動に参加してきました。
誤って茎を草とともに刈ってしまいましたが、花の付いているものは標本として標本庫に収め、花の付いていない茎は挿し芽して増殖して頂いています。
保護活動のおかげで今年は少数ながらも結実が見られたとのことでした。
関連ページ 関西の花・フナバラソウ

Fig.14 ホソバシロスミレ (兵庫県 2018.6/1)
かつては県内の4ヶ所から記録があったが、現在では2ヶ所で個体数を数える程度しか残っていない。
種子を採取して生育維持する段階に入っている。

Fig.15 クロイチゴ (兵庫県 2018.6/1)
これまで県内での自生が疑問視されてきた種だが、近年になって但馬地方の各所で見つかるようになってきたもの。
当然これまではランク外だったが、今回の見直しでAランクとされるもの。
土壌の安定した場所で見られることは少なく、崩壊気味の河畔や崖地にパイオニア種のように一時的に生育し、確認翌年には見られないといった例が多く、生育条件には気難しい面があるようだ。

Fig.16 デワノタツナミソウ (兵庫県 2018.6/4)
本種とホクリクタツナミソウ、コバノタツナミは見分けが難しい。
ホクリク~は低地から低山の渓流近くの林床に生育し、デワノ~はより深山の渓流畔に生育する傾向がある。
コバノ~は海岸近い草地から、時に山間の日当たりよい渓流畔にまで生育していることがある。
デワノ~、ホクリク~とコバノ~は正確には果時の下萼片の大きさで区別され、デワノ~とホクリク~は茎に生える毛によって区別される。3種のうちデワノ~だけがCランク種として評価されている。
参考関連ページ 関西の花・ホクリクタツナミソウ
参考関連ページ 関西の花・コバノタツナミ

Fig.17 デワノタツナミソウの全草標本 (兵庫県 2018.6/4)
自生箇所に表土がある場合はデワノ~は花茎基部から多数の地中性の根茎を出し、その先に新たな茎を出芽する。この新芽は閉鎖花をつけるまで生育した後に常緑越冬することもあれば、閉鎖花を付けずに常緑越冬することもある。
ホクリク~もデワノ~と同様な地中性の匍匐根茎を出す。コバノ~の場合は地表かごく浅い地中に匍匐根茎が伸びる。
以上のような生態的差異があるが、渓流畔の岩上に生育するデワノ~の場合は、岩上の蘚苔類の下に匍匐根茎を伸ばしている場合が多く、区別点としては使いにくい。

Fig.18 イガタツナミ (兵庫県 2018.6/4)
兵庫県版RDBではCランクと評価され、摂津から播磨地方の兵庫県南部の棚田周辺の用水路脇や、湧水の滲みだす土手や溜池土堤で見かける機会が多いが、河畔の日陰の林床でも節間の間延びしたものが生育していることがある。
先のデワノ~、ホクリク~、コバノ~と異なり、匍匐茎は出さず、基部から分枝して株立ちする。
生育条件が日照よりも水分条件に左右されるようで、HPでは湿生植物として扱っている。
画像のものはユウスゲ、タムラソウ、タカトウダイ、オニスゲ、ノハナショウブなどが見られる、二次的自然度の高い溜池土堤下部にゴウソやタムラソウなどと生育しているもの。
関連ページ 湿生植物・イガタツナミ

Fig.19 ヒロハヤブソテツ (兵庫県 2018.6/10)
兵庫県内では比較的見かけるものだが、生育環境が深山の多湿な岩場や河畔に限られBランクと評価されている。
画像のものは側羽片が少なく羽片の大きな典型的なものだが、羽片が多く上部羽片に弱い耳朶を生じるヤマヤブソテツやツクシヤブソテツとの中間的なものも見られる。
関連ページ 関西の花・ヒロハヤブソテツ

Fig.20 Fig.19のソーラス (兵庫県 2018.6/10)
ヒロハヤブソテツの包膜はふつう灰色一色であるが、この個体では中心にわずかに黒褐色部が見える。

Fig.21 アカモノ (兵庫県 2018.6/16)
本種は亜高山帯以上に生育する匍匐性の小低木で、半裸地的で適湿な草原環境に生育し、県内ではそのような環境は少なくAランクと評価され自生地も少ない。
現在兵庫県内で生育を確認できている場所は3ヶ所で、うち2ヶ所は定期的な草刈りにより残存している。
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category: 絶滅危惧種
2018年度の春植物
2018/04/24 Tue. 01:42 [edit]
今年は環境省のRDBと兵庫県のRDBの見直しが重なり、少し忙しくなりそうです。
今回は春先のコバイモ類とヒロハノアマナなどの3月の個体数調査の際に見た春植物を中心にまとめました。4月に入るとスミレのシーズンに突入します。
*画像クリックで、別ウィンドで表示されます。
FC2ブログの仕様が変わったのか、リンク先で大きな画像が表示されなくなってしまいました。
大きな画像(1024×768)を見る時は、リンク先の画像を別のウインドかタブで表示してください。

Fig.1 セツブンソウ (兵庫県丹波市 2018.3/12)
春一番に咲くのはやはりセツブンソウ。
草刈り管理される果樹園の林床に群生して、毎年楽しませてくれます。
関連ページ 関西の花・セツブンソウ

Fig.2 素心花のセツブンソウ (兵庫県篠山市 2018.3/12)
赤紫色の色素を欠いた個体で、篠山市の集団でふつうのセツブンソウに混じって見られます。
関連ページ 関西の花・セツブンソウ

Fig.3 春植物の自生地 (兵庫県丹波市 2018.3/12)
クリの木の植えられた草刈りされる緩やかな斜面に、様々な春植物が自生しています。
ここではアズマイチゲの集団をメインにして、セツブンソウ、キクザキイチゲ、イチリンソウ、ニリンソウ、アマナなどが生育しています。
アズマイチゲの開花期ですが午前中の観察だったため、まだ花は全開していませんでした。

Fig.4 開花したアズマイチゲ (兵庫県篠山市 2018.3/12)
午後になって篠山市の自生地に行くと、日当たり良い場所のものは花が平開していました。
関連ページ 関西の花・アズマイチゲ

Fig.5 ユキワリイチゲ (兵庫県篠山市 2018.3/12)
社寺裏手の草刈りされた日当たり良い斜面ではユキワリイチゲも開花しはじめていました。。
関連ページ 関西の花・ユキワリイチゲ

Fig.6 バイカオウレン (兵庫県篠山市 2018.3/12)
里山周辺では近縁のセリバオウレンは開花終盤でしたが、奥山ではバイカオウレンが開花全盛期を向かえていました。
関連ページ 関西の花・バイカオウレン

Fig.7 ホソバナコバイモ (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
兵庫県にはホソバナコバイモとコバイモ(ミノコバイモ)が自生していますが、自生地は極限されています。こちらはホソバナコバイモのほうで、花披片の幅が狭く、葉幅が広いのが特徴。
ここは放棄クリ園ですが保護管理されているようで、開花個体周辺で目印が付けられており、100個体弱が開花していました。

Fig.8 コバイモ (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
別名ミノコバイモ。花披片の幅は広く、葉はホソバナコバイモより細身です。
こちらは現役のクリ園で持ち主の方が保護管理されておられ、ヒメニラやオオマルバコンロンソウも見られます。

Fig.9 コバイモの自生状況 (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
開花個体数計測すると1600個体強でしたが、コバイモに日陰を作っていたクリの木が倒れて雑草の勢いが旺盛になったと心配されていました。
群生するコバイモの中には赤紫色の色素を欠いた白花品も混じっていました。

Fig.10 ホソバナコバイモとコバイモの花披 (兵庫県播磨地方 2018.3/24・26)
ホソバナコバイモの花披片は脈が赤紫色を帯びるあっさりとした清楚な感じ。
コバイモの花披片は脈間に赤紫色の斑紋が散りばめられ渋い美しさがあります。

Fig.11 満開のユキワリイチゲ (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
播磨地方にもユキワリイチゲの自生地はあちこちにあって群生地も見られ、ぽかぽかの陽気の中で最盛期を向かえていました。
関連ページ 関西の花・ユキワリイチゲ

Fig.12 アマナ (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
ホソバナコバイモと同時に、日当たりよい場所ではアマナも開花していました。
関連ページ 関西の花・アマナ

Fig.13 ジロボウエンゴサク (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
兵庫県では播磨地方東部を境として、西にはジロボウエンゴサクが多く見られ、東にはキンキエンゴサクが多く見られます。
本種は春植物のなかでも開花期が長く、3月中旬から4月下旬まで見かけます。
関連ページ 関西の花・ジロボウエンゴサク

Fig.14 果実期のセツブンソウ (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
ホソバナコバイモ自生地ではセツブンソウ、ユキワリイチゲ、オオマルバコンロンソウが微妙に環境を分けながら生育しています。わずかにセツブンソウが生育している箇所ではホソバナコバイモは見られませんでした。
セツブンソウの多くは3個の袋果をつけていましたが、周辺には幼個体はほとんど見られませんでした。刈り込まれたネザサの中に少数が点在しており、セツブンソウが増殖するにはもう少し裸地環境が必要なように思われます。
関連ページ 関西の花・セツブンソウ

Fig.15 オオマルバコンロンソウ (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
ホソバナコバイモ、コバイモ自生地ともにオオマルバコンロンソウが随伴種として見られましたが、新たに2ヶ所の自生地を発見しました。
社寺境内の比較的人臭い場所と、小河川に面した山麓の畑作地跡と見られる場所です。
播磨地方では西部にオオマルバコンロンソウの記録が点在していますが、シカの食害が激しくなる以前には各所に自生していたのではないかと思います。
画像は社寺境内で新たに見つかった50個体強の集団です。
関連ページ 関西の花・オオマルバコンロンソウ

Fig.16 オオマルバコンロンソウの花 (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
花はオオバタネツケバナより少し大きく、ニシノオオタネツケバナよりは少し小さいです。
過去に調査の入った地域である山麓の畑作地跡では、オオバタネツケバナ、コンロンソウ、ユリワサビと混生しており、発見が難しかったのだろうと思います。

Fig.17 イヌナズナ (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
イヌナズナは兵庫県東部ではかなり稀な草本ですが、播磨地方西部では道端によく見かける雑草です。
特に社寺の駐車場や農地の未舗装の農道脇などで頻繁に見かけます。
関連ページ 関西の花・イヌナズナ

Fig.18 ヒナスミレ (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
スミレ類の中ではアオイスミレ、コスミレとともに早期に開花する種で、今年は兵庫県東部では4月中旬には開花が終わっていました。
林床に見られるスミレで、播磨地方での記録は比較的多いですが、兵庫県東部では比較的稀な種です。
ここでは社寺林のスギ林下でオオマルバコンロンソウ、ヒメウズ、セントウソウ、ミタマカタバミなどとともに点在していました。

Fig.19 アオイスミレ (兵庫県丹波地方 2018.3/31)
先のヒナスミレよりも1週間後ですが、丹波地方はヒナスミレのあった地域よりも標高が高く、アオイスミレは開花全盛で観察適期でした。
草体には毛が多く、花弁の縁は波打ち、側弁が前側にせり出すのが特徴です。
関連ページ 関西の花・アオイスミレ

Fig.20 ヒロハノアマナ (兵庫県丹波地方 2018.3/31)
この日はヒロハノアマナの個体数調査が主な目的で、ここでは狭い草地斜面に500個体強の開花個体が生育していました。兵庫県内では丹波地方の2ヶ所で見られ、もう1ヶ所では未開花個体を含めて20個体がかろうじて残存しています。人為的な系統保存が必要な段階だと考えられ、種子を採取して信頼できる機関に維持して頂く予定です。
関連ページ 関西の花・ヒロハノアマナ

Fig.21 ヒロハノアマナを訪花した双翅目昆虫 (兵庫県丹波地方 2018.3/31)
個体数計測中に訪花昆虫がいたので、同行したNさんに訪花昆虫を撮影して頂きました。
蝶のような目立つ昆虫類の少ない早春の時期は、双翅目やハチ目(膜翅目)の仲間が主な送粉者になっているように思います。

Fig.22 カタクリ (兵庫県篠山市 2018.3/31)
篠山市でわずかに残るカタクリの様子を見に行くと、早くも開花している個体を見ることができました。丹波地方では丹波市の保護されている集団が規模も大きくよく知られていますが、篠山市では開花が10個体以下の集団がわずかに残る程度です。
篠山市での採集記録はここ80年ほどなく、ここが篠山市でのカタクリの最後の自生地でしょう。
時折盗掘された跡も見られ、自生地に近づくにも周囲に人がいないか神経を使います。
この場所のカタクリの種子も採取して、人為的に系統保存する必要があります。
関連ページ 関西の花・カタクリ

Fig.23 とある丹波市の春植物保護地 (兵庫県丹波市 2018.3/31)
画像の場所は知人であり同じ草刈隊有志であるNさんがほぼ独力で伐採、草刈り管理されているヒメニラ、レンプクソウ、アズマイチゲの自生地です。
数年前訪れた時はネザサが茂り、ダニに取り付かれながらヤブ漕ぎしてたどりついた場所でしたが、周辺の藪は刈り払われ、落葉広葉樹の大木が選択的に残して低木は伐木され、
地表に陽光がかなり当たるように手入れされていました。手入れされた範囲はシカの被害が及ばないように電柵が張られています。
Nさん自身は趣味と仰っていますが、そこに払われた労力は並大抵のものではありません。
そこには危機的状況を見逃せずに行動を起こしても、自ら趣味とか変人とかしか言わざるをえないような社会的な貢献度の許容範囲の狭さを感じます。
このような状況を民間レベルで打開する方策が、クラウドファインディングなどの資金調達で切り開くことができないか思案しているところです。

Fig.24 ヒメニラ (兵庫県丹波市 2018.3/31)
ヒメニラの兵庫県での自生地は限られ、丹波地方ではここで見られるのみです。
例年では4月半ば頃に開花しますが、連日の陽気で早くも開花しているのが見られました。
葉はアマナに似ていますが粉白は帯びずに黄緑色、踏みつけるとニラ様の臭いがします。
この場所の集団は雌性集団で、花には雄蕊は見られません。
関連ページ 関西の花・ヒメニラ

Fig.25 レンプクソウ (兵庫県丹波市 2018.3/31)
レンプクソウも通常なら4月に入ってから開花がみられますが、今年は1~2週間早目に開花していました。兵庫県内では稀な種で、丹波地方ではここだけで見られ、他に播磨西部で数ヶ所自生地があります。
恐らくは兵庫県内ではジロボウエンゴサクのように分布の優勢な地域は播磨西部であり、丹波地方ではここで局所的に残存しているのだと思います。
関連ページ 関西の花・レンプクソウ

Fig.26 キンキエンゴサク (兵庫県丹波市 2018.3/31)
丹波地方ではキンキエンゴサクはニリンソウやイチリンソウの開花が本格化する4月に入ってから開花するのですが、Nさんの保全区では日照時間の長い斜面で多くの個体が新鮮な花を開いていました。
変種関係にある酷似するヒメエンゴサクとの区別は難しいのですが、これまで見たところヒメエンゴサクは県内では未見です。
関連ページ 関西の花・ヤマエンゴサク(広義)

Fig.27 キバナノアマナ (兵庫県丹波市 2018.3/31)
Nさんの保全区ではキバナノアマナの充実した個体も見頃に開花していました。
丹波地方ではキバナノアマナはあまり群生することなく、古くからの草地的な環境が残されている場所にぽつぽつと点在しているという印象です。
アマナやヒロハノアマナのように狭い範囲に群生することは少なく、分球によって殖えるのではなく、種子によって広範囲に薄く広がる生存戦略を取っている可能性があります。
関連ページ 関西の花・キバナノアマナ

Fig.28 キクザキイチゲ (兵庫県丹波市 2018.3/31)
3月後半ならばキクザキイチゲの開花最盛期なのですが、自生地に着いたのが夕暮れ近くで陽は差しておらず、すでに花はすぼみかけていました。
キクザキイチゲは兵庫県内では兵庫県南部を除いた広い地域に自生地が点在しており、かつ青花品でないとなれば他の花についでの観察とならざるをえんません。
関連ページ 関西の花・キクザキイチゲ
今回は春先のコバイモ類とヒロハノアマナなどの3月の個体数調査の際に見た春植物を中心にまとめました。4月に入るとスミレのシーズンに突入します。
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Fig.1 セツブンソウ (兵庫県丹波市 2018.3/12)
春一番に咲くのはやはりセツブンソウ。
草刈り管理される果樹園の林床に群生して、毎年楽しませてくれます。
関連ページ 関西の花・セツブンソウ

Fig.2 素心花のセツブンソウ (兵庫県篠山市 2018.3/12)
赤紫色の色素を欠いた個体で、篠山市の集団でふつうのセツブンソウに混じって見られます。
関連ページ 関西の花・セツブンソウ

Fig.3 春植物の自生地 (兵庫県丹波市 2018.3/12)
クリの木の植えられた草刈りされる緩やかな斜面に、様々な春植物が自生しています。
ここではアズマイチゲの集団をメインにして、セツブンソウ、キクザキイチゲ、イチリンソウ、ニリンソウ、アマナなどが生育しています。
アズマイチゲの開花期ですが午前中の観察だったため、まだ花は全開していませんでした。

Fig.4 開花したアズマイチゲ (兵庫県篠山市 2018.3/12)
午後になって篠山市の自生地に行くと、日当たり良い場所のものは花が平開していました。
関連ページ 関西の花・アズマイチゲ

Fig.5 ユキワリイチゲ (兵庫県篠山市 2018.3/12)
社寺裏手の草刈りされた日当たり良い斜面ではユキワリイチゲも開花しはじめていました。。
関連ページ 関西の花・ユキワリイチゲ

Fig.6 バイカオウレン (兵庫県篠山市 2018.3/12)
里山周辺では近縁のセリバオウレンは開花終盤でしたが、奥山ではバイカオウレンが開花全盛期を向かえていました。
関連ページ 関西の花・バイカオウレン

Fig.7 ホソバナコバイモ (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
兵庫県にはホソバナコバイモとコバイモ(ミノコバイモ)が自生していますが、自生地は極限されています。こちらはホソバナコバイモのほうで、花披片の幅が狭く、葉幅が広いのが特徴。
ここは放棄クリ園ですが保護管理されているようで、開花個体周辺で目印が付けられており、100個体弱が開花していました。

Fig.8 コバイモ (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
別名ミノコバイモ。花披片の幅は広く、葉はホソバナコバイモより細身です。
こちらは現役のクリ園で持ち主の方が保護管理されておられ、ヒメニラやオオマルバコンロンソウも見られます。

Fig.9 コバイモの自生状況 (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
開花個体数計測すると1600個体強でしたが、コバイモに日陰を作っていたクリの木が倒れて雑草の勢いが旺盛になったと心配されていました。
群生するコバイモの中には赤紫色の色素を欠いた白花品も混じっていました。

Fig.10 ホソバナコバイモとコバイモの花披 (兵庫県播磨地方 2018.3/24・26)
ホソバナコバイモの花披片は脈が赤紫色を帯びるあっさりとした清楚な感じ。
コバイモの花披片は脈間に赤紫色の斑紋が散りばめられ渋い美しさがあります。

Fig.11 満開のユキワリイチゲ (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
播磨地方にもユキワリイチゲの自生地はあちこちにあって群生地も見られ、ぽかぽかの陽気の中で最盛期を向かえていました。
関連ページ 関西の花・ユキワリイチゲ

Fig.12 アマナ (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
ホソバナコバイモと同時に、日当たりよい場所ではアマナも開花していました。
関連ページ 関西の花・アマナ

Fig.13 ジロボウエンゴサク (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
兵庫県では播磨地方東部を境として、西にはジロボウエンゴサクが多く見られ、東にはキンキエンゴサクが多く見られます。
本種は春植物のなかでも開花期が長く、3月中旬から4月下旬まで見かけます。
関連ページ 関西の花・ジロボウエンゴサク

Fig.14 果実期のセツブンソウ (兵庫県播磨地方 2018.3/24)
ホソバナコバイモ自生地ではセツブンソウ、ユキワリイチゲ、オオマルバコンロンソウが微妙に環境を分けながら生育しています。わずかにセツブンソウが生育している箇所ではホソバナコバイモは見られませんでした。
セツブンソウの多くは3個の袋果をつけていましたが、周辺には幼個体はほとんど見られませんでした。刈り込まれたネザサの中に少数が点在しており、セツブンソウが増殖するにはもう少し裸地環境が必要なように思われます。
関連ページ 関西の花・セツブンソウ

Fig.15 オオマルバコンロンソウ (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
ホソバナコバイモ、コバイモ自生地ともにオオマルバコンロンソウが随伴種として見られましたが、新たに2ヶ所の自生地を発見しました。
社寺境内の比較的人臭い場所と、小河川に面した山麓の畑作地跡と見られる場所です。
播磨地方では西部にオオマルバコンロンソウの記録が点在していますが、シカの食害が激しくなる以前には各所に自生していたのではないかと思います。
画像は社寺境内で新たに見つかった50個体強の集団です。
関連ページ 関西の花・オオマルバコンロンソウ

Fig.16 オオマルバコンロンソウの花 (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
花はオオバタネツケバナより少し大きく、ニシノオオタネツケバナよりは少し小さいです。
過去に調査の入った地域である山麓の畑作地跡では、オオバタネツケバナ、コンロンソウ、ユリワサビと混生しており、発見が難しかったのだろうと思います。

Fig.17 イヌナズナ (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
イヌナズナは兵庫県東部ではかなり稀な草本ですが、播磨地方西部では道端によく見かける雑草です。
特に社寺の駐車場や農地の未舗装の農道脇などで頻繁に見かけます。
関連ページ 関西の花・イヌナズナ

Fig.18 ヒナスミレ (兵庫県播磨地方 2018.3/26)
スミレ類の中ではアオイスミレ、コスミレとともに早期に開花する種で、今年は兵庫県東部では4月中旬には開花が終わっていました。
林床に見られるスミレで、播磨地方での記録は比較的多いですが、兵庫県東部では比較的稀な種です。
ここでは社寺林のスギ林下でオオマルバコンロンソウ、ヒメウズ、セントウソウ、ミタマカタバミなどとともに点在していました。

Fig.19 アオイスミレ (兵庫県丹波地方 2018.3/31)
先のヒナスミレよりも1週間後ですが、丹波地方はヒナスミレのあった地域よりも標高が高く、アオイスミレは開花全盛で観察適期でした。
草体には毛が多く、花弁の縁は波打ち、側弁が前側にせり出すのが特徴です。
関連ページ 関西の花・アオイスミレ

Fig.20 ヒロハノアマナ (兵庫県丹波地方 2018.3/31)
この日はヒロハノアマナの個体数調査が主な目的で、ここでは狭い草地斜面に500個体強の開花個体が生育していました。兵庫県内では丹波地方の2ヶ所で見られ、もう1ヶ所では未開花個体を含めて20個体がかろうじて残存しています。人為的な系統保存が必要な段階だと考えられ、種子を採取して信頼できる機関に維持して頂く予定です。
関連ページ 関西の花・ヒロハノアマナ

Fig.21 ヒロハノアマナを訪花した双翅目昆虫 (兵庫県丹波地方 2018.3/31)
個体数計測中に訪花昆虫がいたので、同行したNさんに訪花昆虫を撮影して頂きました。
蝶のような目立つ昆虫類の少ない早春の時期は、双翅目やハチ目(膜翅目)の仲間が主な送粉者になっているように思います。

Fig.22 カタクリ (兵庫県篠山市 2018.3/31)
篠山市でわずかに残るカタクリの様子を見に行くと、早くも開花している個体を見ることができました。丹波地方では丹波市の保護されている集団が規模も大きくよく知られていますが、篠山市では開花が10個体以下の集団がわずかに残る程度です。
篠山市での採集記録はここ80年ほどなく、ここが篠山市でのカタクリの最後の自生地でしょう。
時折盗掘された跡も見られ、自生地に近づくにも周囲に人がいないか神経を使います。
この場所のカタクリの種子も採取して、人為的に系統保存する必要があります。
関連ページ 関西の花・カタクリ

Fig.23 とある丹波市の春植物保護地 (兵庫県丹波市 2018.3/31)
画像の場所は知人であり同じ草刈隊有志であるNさんがほぼ独力で伐採、草刈り管理されているヒメニラ、レンプクソウ、アズマイチゲの自生地です。
数年前訪れた時はネザサが茂り、ダニに取り付かれながらヤブ漕ぎしてたどりついた場所でしたが、周辺の藪は刈り払われ、落葉広葉樹の大木が選択的に残して低木は伐木され、
地表に陽光がかなり当たるように手入れされていました。手入れされた範囲はシカの被害が及ばないように電柵が張られています。
Nさん自身は趣味と仰っていますが、そこに払われた労力は並大抵のものではありません。
そこには危機的状況を見逃せずに行動を起こしても、自ら趣味とか変人とかしか言わざるをえないような社会的な貢献度の許容範囲の狭さを感じます。
このような状況を民間レベルで打開する方策が、クラウドファインディングなどの資金調達で切り開くことができないか思案しているところです。

Fig.24 ヒメニラ (兵庫県丹波市 2018.3/31)
ヒメニラの兵庫県での自生地は限られ、丹波地方ではここで見られるのみです。
例年では4月半ば頃に開花しますが、連日の陽気で早くも開花しているのが見られました。
葉はアマナに似ていますが粉白は帯びずに黄緑色、踏みつけるとニラ様の臭いがします。
この場所の集団は雌性集団で、花には雄蕊は見られません。
関連ページ 関西の花・ヒメニラ

Fig.25 レンプクソウ (兵庫県丹波市 2018.3/31)
レンプクソウも通常なら4月に入ってから開花がみられますが、今年は1~2週間早目に開花していました。兵庫県内では稀な種で、丹波地方ではここだけで見られ、他に播磨西部で数ヶ所自生地があります。
恐らくは兵庫県内ではジロボウエンゴサクのように分布の優勢な地域は播磨西部であり、丹波地方ではここで局所的に残存しているのだと思います。
関連ページ 関西の花・レンプクソウ

Fig.26 キンキエンゴサク (兵庫県丹波市 2018.3/31)
丹波地方ではキンキエンゴサクはニリンソウやイチリンソウの開花が本格化する4月に入ってから開花するのですが、Nさんの保全区では日照時間の長い斜面で多くの個体が新鮮な花を開いていました。
変種関係にある酷似するヒメエンゴサクとの区別は難しいのですが、これまで見たところヒメエンゴサクは県内では未見です。
関連ページ 関西の花・ヤマエンゴサク(広義)

Fig.27 キバナノアマナ (兵庫県丹波市 2018.3/31)
Nさんの保全区ではキバナノアマナの充実した個体も見頃に開花していました。
丹波地方ではキバナノアマナはあまり群生することなく、古くからの草地的な環境が残されている場所にぽつぽつと点在しているという印象です。
アマナやヒロハノアマナのように狭い範囲に群生することは少なく、分球によって殖えるのではなく、種子によって広範囲に薄く広がる生存戦略を取っている可能性があります。
関連ページ 関西の花・キバナノアマナ

Fig.28 キクザキイチゲ (兵庫県丹波市 2018.3/31)
3月後半ならばキクザキイチゲの開花最盛期なのですが、自生地に着いたのが夕暮れ近くで陽は差しておらず、すでに花はすぼみかけていました。
キクザキイチゲは兵庫県内では兵庫県南部を除いた広い地域に自生地が点在しており、かつ青花品でないとなれば他の花についでの観察とならざるをえんません。
関連ページ 関西の花・キクザキイチゲ
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シダ学びの旅 - 南紀へ -
2018/02/26 Mon. 04:45 [edit]
シダ類の勉強のため、和歌山県の熊野地方に行って来ました。車中2泊の予定でしたが、初日は家の野暮用で半日がつぶれ、前夜発+車中1泊とほぼ同様な日程になりました。主要な目的はシチトウハナワラビ(ナンキハナワラビ)を見ることと、シロヤマシダを認識することでしたが、まだまだ混乱が多く目的を達成できたとは言えません。
しかし、兵庫県では見ることのできないシダ類も数多く観察でき、非常に意義深い旅となりました。シダ類以外でも面白いものが沢山あるので、これから年に数度は熊野行脚が続きそうです。
いろいろと見るには現地の方にご案内頂くのがよいのですが、現地の感覚を掴むためにわずかな予備知識を収集したのみで、敢えて飛び込みで探索してきました。生育環境ごと自生地と種を捉えるのは、この方法が一番です。
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Fig.1 フウトウカズラ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
暖地系の藤本植物で、コショウに近縁の種。
谷の入口の林道脇の岩場につるを伸ばしたものが結実していました。
このあたりではどこにでも見られますが、兵庫県では淡路島で見られるのみです。

Fig.2 マツザカシダとオオバノイノモトソウ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
林道の路傍にマツザカシダ(左)とオオバノイノモトソウ(右)が教科書的に並んで生えていました。
マツザカシダは側羽片が1~2対(稀に3対)で、葉身は濃緑色で葉縁が強く波打ち、明るい色のオオバノイノモトソウと区別できます。
マツザカシダもフウトウカズラと同様に兵庫県では淡路島で見られるのみです。

Fig.3 植林地の林床に繁茂するイズセンリョウ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
イズセンリョウはシカの忌避植物であり、近畿地方南部では近年林床で大きな群落を形成しつつあります。近畿中部以北の山間の林床ではイズセンリョウに変わってチャノキや植栽されたミツマタがシカ忌避植生として群落を形成しています。
南紀ではイズセンリョウ周辺では兵庫県と同様なマツカゼソウやオオバノイノモトソウ、葉質の硬いスゲ属草本が見られました。

Fig.4 ミヤマトベラ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
近畿地方では稀少種であるミヤマトベラも、シカの忌避植物であるため果実をつけたまま遊歩道脇で残っていました。クリンソウと同じような位置にありますが、本来的に自生地の少ない種なので見かける機会はあまりありません。

Fig.5 岩場のシダ類 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
湿った崖がコウヤコケシノブに覆われ、画像に見えるヌリトラノオやシシランのほか、キジノオシダ、オオキジノオ、タニイヌワラビ、クルマシダ、ミヤマノコギリシダ、ナガバノイタチシダ、イノデモドキなどが生育していました。

Fig.6 イヌチャセンシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
谷沿いの林道をクルマで走っていると、林道脇の岩が緑に染まっていたので降りてみると、イヌチャセンシダに覆われていました。
イヌチャセンシダの葉は岩に沿って広がり、チャセンシダのように岩場から葉が立ち上がりません。
関連ページ 関西の花/シダ・イヌチャセンシダ

Fig.7 クルマシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
兵庫県では自生地が極限される種ですが、和歌山県ではシカの食害を受けにくい場所で沢山見られました。薄暗い照葉樹林下の急な沢沿いでは群生している場所にも度々出くわしました。
関連ページ 関西の花/シダ・クルマシダ

Fig.8 ナガバノイタチシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
本種もシカの食害に遭いやすいようで、多くは急斜面で見られ、大きな個体はシカに食べられにくい岩場に見られました。
関連ページ 関西の花/シダ・ナガバノイタチシダ

Fig.9 ノコギリシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
倒木の多い植林地の林床で散在していました。
葉が硬いためか、キジノオシダやオオバノイノモトソウとともに食害をあまり受けずに生育していました。

Fig.10 シチトウハナワラビ(ナンキハナワラビ) (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
何ヵ所か廻った社寺林では見ることができず、山腹の雑木林で1個体のみ見ることができました。
野生動物による撹乱を受けて胞子葉の柄から上が枯死しており、栄養葉は脇に生えているコバノカナワラビに邪魔されて暴れていました。
葉面に光沢があり、裂片の切れ込みは浅く、裂片の幅は狭いのが目立った特徴です。
ここのものは大阪府で見たナンキハナワラビとされているものよりも裂片の幅が若干広かったです。

Fig.11 シチトウハナワラビ(ナンキハナワラビ)の標本 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
標本にすると葉面の光沢は失われて解らなくなりますが、裂片の幅や鋸歯の切れ込み具合がオオハナワラビと異なることが解ります。

Fig.12 オオハナワラビ変異個体 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
栄養葉はオオハナワラビとモトマチハナワラビの中間的な形状で、裂片の幅は狭く、葉身は赤紫色気味に色付いています。葉面にはそれなりに光沢があって、鋸歯もモトマチ的の特徴が見られますが、黄褐色の色素が全く表出していません。典型的なモトマチハナワラビではないものは、とりあえずはオオハナワラビとしておくべきでしょう。
関連ページ 関西の花/シダ・オオハナワラビ 関西の花/シダ・モトマチハナワラビ

Fig.13 ハイホラゴケ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
兵庫県内ではハイホラゴケとヒメハイホラゴケが浸透交雑を繰り返したようなコハイホラゴケあるいはホクリクホラゴケのようなものばかりに出会いますが、ここでは典型的といえるハイホラゴケを見ることができ、様々な着生シダ類とともに渓流沿いの岩上に群生していました。

Fig.14 ハイホラゴケの全草標本 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
羽片の裂片は立体的に広がることはなく、羽片は平面的で互いに重なりあう部分はほとんどありません。

Fig.15 ハイホラゴケのソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ソーラスはラッパ状ですが、口部は浅い2弁状となり、胞子嚢床は糸状に長く伸びています。

Fig.16 オオコケシノブ全草標本 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
本種は兵庫県では一部の場所でしか見られずRDB Aランク種となっていますが、南紀では濡れた岩場でよく見かけました。兵庫県のものは葉身も小さく、ソーラスもほとんど見られませんが、こちらではソーラスを多数つけた立派なものが多く見られました。

Fig.17 オオコケシノブのソーラスと胞子嚢床 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ソーラスは2弁状で、胞子嚢床は塊状となります。

Fig.18 ヤクシマホウビシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
最初はツルホラゴケかと思いましたが、ソーラスが全く異なりサンプルを持ち帰って調べたところヤクシマホウビシダと解りました。
オオコケシノブやホソバコケシノブ、コウヤコケシノブとともに、水のしたたる岩上に群生していました。

Fig.19 ヤクシマホウビシダのソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ヤクシマホウビシダの葉身は2層の細胞からなるため、透明感があり透けています。
ソーラスは中肋寄りにつき、羽片の後側のほうにより多くつきます。

Fig.20 イワヤナギシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
兵庫県では稀なイワヤナギシダも、こちらでは谷筋の岩上のいたるところで見られました。
ただ、ソーラスをつけた葉は思いのほか少なかったです。

Fig.21 イワヤナギシダの葉柄基部とソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
サジランに酷似しますが、葉柄基部は緑色で、ソーラスはサジランに比べて中肋に対して狭い角度でつきます。

Fig.22 タカノハウラボシ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
渓流の苔むした巨岩上でタカノハウラボシが見られました。
画像のような充分に生長したものは間違いようがありませんが、周辺の小型個体もソーラスを形成しており、こちらはヒメタカノハウラボシ、ケイリュウウラボシ、裂片のないミツデウラボシと見紛います。

Fig.23 タカノハウラボシの根茎と鱗片 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
1目盛=0.5mm。根茎は径約3mm、鱗片は褐色~淡褐色で長さ5~6mmで線形~線状披針形、全縁。
ヒメタカノハウラボシでは根茎の径1.5~2mmで、鱗片の長さ2~2.5mm。ミツデウラボシでは根茎の径2~4mm、鱗片の長さ3~4mm。
また、ミツデウラボシやケイリュウウラボシには胞子表面に突起がありますが、タカノハウラボシやヒメタカノハウラボシの胞子表面は平滑となります。

Fig.24 タカサゴキジノオ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
キジノオシダとヤマソテツの中間的な印象を与える常緑性のシダ。
頂羽片はありませんが、ヤマソテツよりも葉質は厚く、生育環境が重なることはないので区別は容易です。さすがにこの時期には胞子葉は見られませんでした。

Fig.25 アミシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ヒメシダ科の中でも独特の形態を持ち、一度見れば忘れることはないシダです。
岩壁の湿度の高い下部にそれなりの数が散在していました。

Fig.26 アミシダの胞子葉裏面 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ソーラスは遊離脈のない網状脈に沿ってつきます。

Fig.27 ホングウシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
渓流沿いの岩壁の下部に群生していました。
同じ岩場にはヌリトラノオやシモツケヌリトラノオも見られなかなか紛らわしいですが、生育環境ははっきりと異なっていて、かなり水際近くまで生育していました。

Fig.28 ホングウシダのソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
渓流畔にはより小型のサイゴクホングウシダも出現しますが、ソーラスが羽片の切れ込みで寸断されることにより、ホングウシダと同定できます。

Fig.29 ホングウシダの群落 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
渓流沿いの岩壁下部の向陽~半日陰部分に優占していました。
ホングウシダの群落のすぐ上にはヌカイタチシダモドキ、ヌカイタチシダ、キジノオシダが混生しており、その陰にヌリトラノオや小型のエダウチホングウシダが生育していました。
岩壁上部の比較的乾いた場所ではシモツケヌリトラノオが見られ、途中の日陰でやや空中湿度の高い部分にはアミシダやキミズらしきもの(キミズモドキ?)が見られました。

Fig.30 ヒノキシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
空中湿度の高い巨岩が累積する渓流沿いにヒノキシダの群落が発達していました。
付近にはイワヤナギシダも群生していますが、イワヤナギシダよりも渓流に近い岩上を覆って純群落を形成しています。兵庫県では見ることの出来ない美しいシダで、しばし見とれてしまいました。

Fig.31 ヒノキシダ群落 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ヒノキシダは中軸の先端が長く伸びて、先にクローンを形成して栄養繁殖するため、このような純群落をつくるようです。

Fig.32 ミズスギ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
林道を上がると谷から離れて尾根を縫うように敷設されていましたが、乾いたように見える林道脇に胞子嚢穂をつけたミズスギが多数見られました。
兵庫県で見るものとは生育環境が異なっていますが、雨が多いためにこのような場所でも生育できるのでしょう。南紀滞在中には夜間から早朝にかっけては必ず降雨がありました。
関連ページ 湿生植物・ミズスギ

Fig.33 ヒュウガシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
シカの食害は顕著で、奥山に行くほど地表の植生は単調となり、シロヤマシダ様のシダ類は全く見られませんでしたが、山麓の国道沿いの林下にそれらしいものがポツポツと見られました。
シロヤマシダよりも最下羽片の柄が長く見えるこの個体は、コウモウクジャクとシロヤマシダの中間的な形質を持つヒュウガシダのようです。

Fig.34 採集した葉身 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
画像と同じ場所で採集した葉。葉身は長3角状卵形、最下羽片の柄は長い。

Fig.35 採集品の葉柄基部鱗片とソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
恐らくソーラスでは近似種とは区別できないのでしょう。
葉柄基部の鱗片はコウモウクジャクほど残存していませんでした。
近似種との区別は1度訪れたくらいでは習得できず、何度も通う必要があると実感します。

Fig.36 開花したオニシバリ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
周辺の林床ではシカの忌避植物であるオニシバリが開花中でした。
花は黄緑色のもののほか、画像のような緑色が強く花披が紫色を帯びているものも見られました。

Fig.37 セリバオウレン (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
翌日に向かった山域の麓ではセリバオウレンがちらほらと開花し始めていました。
兵庫県よりも開花が2~3週間程早いようです。
関連ページ 関西の花・セリバオウレン

Fig.38 アツミカンアオイ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
道中には林縁や樹冠の切れた場所でアツミカンアオイが点々と見られました。
葉身は厚い革質で光沢があり、脈が窪むのが特徴で、分布域は三重・奈良・和歌山の紀伊半島南部に偏在しています。
近畿地方の日本海側に見られるものもアツミカンアオイとされていますが、これほどの厚味と光沢はなく、サンインカンアオイと仮称されるようにおそらくは別種でしょうが、まだ正式に記載されていません。

Fig.39 アツミカンアオイの花 (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
花の色は変異に富み、紫褐色のもから淡黄色~汚緑色のものまで見られ、葉を掻き分けて花色を確かめるのは楽しいものです。

Fig.40 ナチクジャク (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
訪れた山域ではマルバベニシダが多い場所でしたが、ナチクジャクとマルバベニシダとの中間的なイヌナチクジャクも見られました。
ナチクジャクはマルバベニシダやイヌナチクジャクよりも小型の個体ばかりでした。
関連ページ 関西の花/シダ・ナチクジャク

Fig.41 ヌカイタチシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
兵庫県では非常に稀なシダですが、南紀では前日の岩場でも見かけ、比較的よく見られるシダのようです。ここではウラジロやコシダに被圧されない、遊歩道脇の地表に生えており、周辺の湿った岩上にも点々と生育していました。

Fig.42 ヌカイタチシダのソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
ソーラスは最下羽片の中軸寄りから羽片の先や葉先に向かって同心円状に広がってつき、小さく、包膜がありません。

Fig.43 ヌカイタチシダモドキ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
ヌカイタチシダモドキも南紀では比較的見られるもののようで、2日連続で見ることができました。
ヌカイタチシダよりもヌカイタチシダマガイに酷似していると感じます。
ヌカイタチシダマガイとの区別点として葉面の光沢の有無があげられますが、実際にはかなり微妙なもので、最初はヌカイタチシダマガイと思っていましたが、帰宅後に標本の鱗片を確認してヌカイタチシダモドキだと解りました。
Mさんによると、南紀ではヌカイタチシダマガイは稀なもののようです。

Fig.44 ヌカイタチシダモドキの下方の羽片と葉柄基部鱗片 (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
羽軸は中軸とほぼ直交し、羽片は無柄、先に向かって鎌状に曲がり、先端は急尾状に細まります。小羽片も羽片の中軸にほぼ直交してつきます。
鱗片は暗褐色~黒色、線形~線状披針形でヌカイタチシダマガイよりも幅が狭く、鱗片基部は軸に圧着しません。
兵庫県ではヌカイタチシダマガイ、アツギノヌカイタチシダマガが丹波層群の分布域を中心とした内陸部に点々と見られますが、両種は南紀では稀なものとなっており、このような分布の濃淡の原因がどこにあるのか、非常に興味深いところです。

Fig.45 エダウチホングウシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
エダウチホングウシダも2日連続で観察できましたが、ここでは下方の羽片が羽状になった充実した個体が林縁のウラジロやコシダの葉陰で沢山見られました。

Fig.45 エダウチホングウシダの若い個体 (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
若い小型の個体では最下羽片は羽状にならず、丸みを帯びた横長の羽片となります。
このような小型個体でも葉縁裏面にはソーラスが形成されています。

Fig.46 コウモウクジャク (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
細流脇の倒木が折れ重なった場所に、倒木にしなだれるように大きな葉身を持たれ掛けながら生育しているシダがありました。
最下羽片の柄は長くタンゴワラビのようにも見えますが、タンゴワラビよりも葉質は柔らかく、葉柄基部には多くの鱗片が残っています。鱗片や脈の状態からコウモウクジャクではないかと見ましたが、自信はありません。

Fig.47 コウモウクジャクの鱗片、最下羽片、ソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
タンゴワラビやシロヤマシダには見られないような黒味を帯びた鱗片が葉柄に残っており、辺縁には突起が見られました。
最下羽片には長い柄があり、小羽片はタンゴワラビよりもスマートで明瞭な短柄があります。
ソーラスは小さく中間生で、側脈はほとんど分岐していません。

Fig.48 ナチシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
ナチシダはシカの忌避植物で近畿地方では増えつつあるシダで、兵庫県ではRDB種にランクされていますが、これまで見られなかった場所でも見つかっている種です。
南紀でもいたるところで見られましたが、夏緑性シダなので奥山では枯れた残骸が目立ちました。温暖な海岸寄りの社寺林ではまだ冬枯れしていない個体も見られました。
芽立ちのフィドルヘッドは兵庫県で殖えつつあるオニヒカゲワラビと同様に山菜として利用できるので、南紀では積極的に利用してもよいもののように思います。
関連ページ 関西の花/シダ・ナチシダ

Fig.49 リュウビンタイ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
兵庫県では見られない大型の常緑シダで、奥山よりも海岸に近い常緑樹林下や社寺林の数ヶ所で見かけました。画像のものは社寺の裏山の日陰の多湿地で、大小30個体前後が部分的に群生していたものです。
このような大型のシダが群生している様子は地元では見られない光景で、細部を観察する前にしばし圧倒されてしまいます。

Fig.50 オオタニワタリとタマシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
社寺林を仕切る石垣にオオタニワタリとタマシダが群生していました。
境内の一画にはオオタニワタリが植栽されていると見られる場所があり、このオオタニワタリはそこから胞子が飛んで逸出して育ったものとも考えられます。
旺盛に繁殖しているタマシダは海岸沿いの石垣や斜面に繁茂しているのが見られ、自然分布と考えられるものです。

Fig.51 カゴノキに着生したオオタニワタリ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
境内の大木にはオオタニワタリの幼株が着生しているものが多く見られ、特にカゴノキには比較的大きな個体が着生していました。

Fig.52 マツバラン (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
兵庫県では稀ですが、紀伊半島の海岸に面した場所では乾いた岩場や石垣で比較的よく見かけます。
江戸時代から続く園芸植物であるため、自生か栽培による胞子散布拡散の逸出か判断することは難しいものです。
西宮市内にも社寺内に見られますが、自生のものと断定するのは難しいものです。
しかし、兵庫県では見ることのできないシダ類も数多く観察でき、非常に意義深い旅となりました。シダ類以外でも面白いものが沢山あるので、これから年に数度は熊野行脚が続きそうです。
いろいろと見るには現地の方にご案内頂くのがよいのですが、現地の感覚を掴むためにわずかな予備知識を収集したのみで、敢えて飛び込みで探索してきました。生育環境ごと自生地と種を捉えるのは、この方法が一番です。
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Fig.1 フウトウカズラ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
暖地系の藤本植物で、コショウに近縁の種。
谷の入口の林道脇の岩場につるを伸ばしたものが結実していました。
このあたりではどこにでも見られますが、兵庫県では淡路島で見られるのみです。

Fig.2 マツザカシダとオオバノイノモトソウ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
林道の路傍にマツザカシダ(左)とオオバノイノモトソウ(右)が教科書的に並んで生えていました。
マツザカシダは側羽片が1~2対(稀に3対)で、葉身は濃緑色で葉縁が強く波打ち、明るい色のオオバノイノモトソウと区別できます。
マツザカシダもフウトウカズラと同様に兵庫県では淡路島で見られるのみです。

Fig.3 植林地の林床に繁茂するイズセンリョウ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
イズセンリョウはシカの忌避植物であり、近畿地方南部では近年林床で大きな群落を形成しつつあります。近畿中部以北の山間の林床ではイズセンリョウに変わってチャノキや植栽されたミツマタがシカ忌避植生として群落を形成しています。
南紀ではイズセンリョウ周辺では兵庫県と同様なマツカゼソウやオオバノイノモトソウ、葉質の硬いスゲ属草本が見られました。

Fig.4 ミヤマトベラ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
近畿地方では稀少種であるミヤマトベラも、シカの忌避植物であるため果実をつけたまま遊歩道脇で残っていました。クリンソウと同じような位置にありますが、本来的に自生地の少ない種なので見かける機会はあまりありません。

Fig.5 岩場のシダ類 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
湿った崖がコウヤコケシノブに覆われ、画像に見えるヌリトラノオやシシランのほか、キジノオシダ、オオキジノオ、タニイヌワラビ、クルマシダ、ミヤマノコギリシダ、ナガバノイタチシダ、イノデモドキなどが生育していました。

Fig.6 イヌチャセンシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
谷沿いの林道をクルマで走っていると、林道脇の岩が緑に染まっていたので降りてみると、イヌチャセンシダに覆われていました。
イヌチャセンシダの葉は岩に沿って広がり、チャセンシダのように岩場から葉が立ち上がりません。
関連ページ 関西の花/シダ・イヌチャセンシダ

Fig.7 クルマシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
兵庫県では自生地が極限される種ですが、和歌山県ではシカの食害を受けにくい場所で沢山見られました。薄暗い照葉樹林下の急な沢沿いでは群生している場所にも度々出くわしました。
関連ページ 関西の花/シダ・クルマシダ

Fig.8 ナガバノイタチシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
本種もシカの食害に遭いやすいようで、多くは急斜面で見られ、大きな個体はシカに食べられにくい岩場に見られました。
関連ページ 関西の花/シダ・ナガバノイタチシダ

Fig.9 ノコギリシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
倒木の多い植林地の林床で散在していました。
葉が硬いためか、キジノオシダやオオバノイノモトソウとともに食害をあまり受けずに生育していました。

Fig.10 シチトウハナワラビ(ナンキハナワラビ) (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
何ヵ所か廻った社寺林では見ることができず、山腹の雑木林で1個体のみ見ることができました。
野生動物による撹乱を受けて胞子葉の柄から上が枯死しており、栄養葉は脇に生えているコバノカナワラビに邪魔されて暴れていました。
葉面に光沢があり、裂片の切れ込みは浅く、裂片の幅は狭いのが目立った特徴です。
ここのものは大阪府で見たナンキハナワラビとされているものよりも裂片の幅が若干広かったです。

Fig.11 シチトウハナワラビ(ナンキハナワラビ)の標本 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
標本にすると葉面の光沢は失われて解らなくなりますが、裂片の幅や鋸歯の切れ込み具合がオオハナワラビと異なることが解ります。

Fig.12 オオハナワラビ変異個体 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
栄養葉はオオハナワラビとモトマチハナワラビの中間的な形状で、裂片の幅は狭く、葉身は赤紫色気味に色付いています。葉面にはそれなりに光沢があって、鋸歯もモトマチ的の特徴が見られますが、黄褐色の色素が全く表出していません。典型的なモトマチハナワラビではないものは、とりあえずはオオハナワラビとしておくべきでしょう。
関連ページ 関西の花/シダ・オオハナワラビ 関西の花/シダ・モトマチハナワラビ

Fig.13 ハイホラゴケ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
兵庫県内ではハイホラゴケとヒメハイホラゴケが浸透交雑を繰り返したようなコハイホラゴケあるいはホクリクホラゴケのようなものばかりに出会いますが、ここでは典型的といえるハイホラゴケを見ることができ、様々な着生シダ類とともに渓流沿いの岩上に群生していました。

Fig.14 ハイホラゴケの全草標本 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
羽片の裂片は立体的に広がることはなく、羽片は平面的で互いに重なりあう部分はほとんどありません。

Fig.15 ハイホラゴケのソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ソーラスはラッパ状ですが、口部は浅い2弁状となり、胞子嚢床は糸状に長く伸びています。

Fig.16 オオコケシノブ全草標本 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
本種は兵庫県では一部の場所でしか見られずRDB Aランク種となっていますが、南紀では濡れた岩場でよく見かけました。兵庫県のものは葉身も小さく、ソーラスもほとんど見られませんが、こちらではソーラスを多数つけた立派なものが多く見られました。

Fig.17 オオコケシノブのソーラスと胞子嚢床 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ソーラスは2弁状で、胞子嚢床は塊状となります。

Fig.18 ヤクシマホウビシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
最初はツルホラゴケかと思いましたが、ソーラスが全く異なりサンプルを持ち帰って調べたところヤクシマホウビシダと解りました。
オオコケシノブやホソバコケシノブ、コウヤコケシノブとともに、水のしたたる岩上に群生していました。

Fig.19 ヤクシマホウビシダのソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ヤクシマホウビシダの葉身は2層の細胞からなるため、透明感があり透けています。
ソーラスは中肋寄りにつき、羽片の後側のほうにより多くつきます。

Fig.20 イワヤナギシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
兵庫県では稀なイワヤナギシダも、こちらでは谷筋の岩上のいたるところで見られました。
ただ、ソーラスをつけた葉は思いのほか少なかったです。

Fig.21 イワヤナギシダの葉柄基部とソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
サジランに酷似しますが、葉柄基部は緑色で、ソーラスはサジランに比べて中肋に対して狭い角度でつきます。

Fig.22 タカノハウラボシ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
渓流の苔むした巨岩上でタカノハウラボシが見られました。
画像のような充分に生長したものは間違いようがありませんが、周辺の小型個体もソーラスを形成しており、こちらはヒメタカノハウラボシ、ケイリュウウラボシ、裂片のないミツデウラボシと見紛います。

Fig.23 タカノハウラボシの根茎と鱗片 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
1目盛=0.5mm。根茎は径約3mm、鱗片は褐色~淡褐色で長さ5~6mmで線形~線状披針形、全縁。
ヒメタカノハウラボシでは根茎の径1.5~2mmで、鱗片の長さ2~2.5mm。ミツデウラボシでは根茎の径2~4mm、鱗片の長さ3~4mm。
また、ミツデウラボシやケイリュウウラボシには胞子表面に突起がありますが、タカノハウラボシやヒメタカノハウラボシの胞子表面は平滑となります。

Fig.24 タカサゴキジノオ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
キジノオシダとヤマソテツの中間的な印象を与える常緑性のシダ。
頂羽片はありませんが、ヤマソテツよりも葉質は厚く、生育環境が重なることはないので区別は容易です。さすがにこの時期には胞子葉は見られませんでした。

Fig.25 アミシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ヒメシダ科の中でも独特の形態を持ち、一度見れば忘れることはないシダです。
岩壁の湿度の高い下部にそれなりの数が散在していました。

Fig.26 アミシダの胞子葉裏面 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ソーラスは遊離脈のない網状脈に沿ってつきます。

Fig.27 ホングウシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
渓流沿いの岩壁の下部に群生していました。
同じ岩場にはヌリトラノオやシモツケヌリトラノオも見られなかなか紛らわしいですが、生育環境ははっきりと異なっていて、かなり水際近くまで生育していました。

Fig.28 ホングウシダのソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
渓流畔にはより小型のサイゴクホングウシダも出現しますが、ソーラスが羽片の切れ込みで寸断されることにより、ホングウシダと同定できます。

Fig.29 ホングウシダの群落 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
渓流沿いの岩壁下部の向陽~半日陰部分に優占していました。
ホングウシダの群落のすぐ上にはヌカイタチシダモドキ、ヌカイタチシダ、キジノオシダが混生しており、その陰にヌリトラノオや小型のエダウチホングウシダが生育していました。
岩壁上部の比較的乾いた場所ではシモツケヌリトラノオが見られ、途中の日陰でやや空中湿度の高い部分にはアミシダやキミズらしきもの(キミズモドキ?)が見られました。

Fig.30 ヒノキシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
空中湿度の高い巨岩が累積する渓流沿いにヒノキシダの群落が発達していました。
付近にはイワヤナギシダも群生していますが、イワヤナギシダよりも渓流に近い岩上を覆って純群落を形成しています。兵庫県では見ることの出来ない美しいシダで、しばし見とれてしまいました。

Fig.31 ヒノキシダ群落 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
ヒノキシダは中軸の先端が長く伸びて、先にクローンを形成して栄養繁殖するため、このような純群落をつくるようです。

Fig.32 ミズスギ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
林道を上がると谷から離れて尾根を縫うように敷設されていましたが、乾いたように見える林道脇に胞子嚢穂をつけたミズスギが多数見られました。
兵庫県で見るものとは生育環境が異なっていますが、雨が多いためにこのような場所でも生育できるのでしょう。南紀滞在中には夜間から早朝にかっけては必ず降雨がありました。
関連ページ 湿生植物・ミズスギ

Fig.33 ヒュウガシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
シカの食害は顕著で、奥山に行くほど地表の植生は単調となり、シロヤマシダ様のシダ類は全く見られませんでしたが、山麓の国道沿いの林下にそれらしいものがポツポツと見られました。
シロヤマシダよりも最下羽片の柄が長く見えるこの個体は、コウモウクジャクとシロヤマシダの中間的な形質を持つヒュウガシダのようです。

Fig.34 採集した葉身 (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
画像と同じ場所で採集した葉。葉身は長3角状卵形、最下羽片の柄は長い。

Fig.35 採集品の葉柄基部鱗片とソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
恐らくソーラスでは近似種とは区別できないのでしょう。
葉柄基部の鱗片はコウモウクジャクほど残存していませんでした。
近似種との区別は1度訪れたくらいでは習得できず、何度も通う必要があると実感します。

Fig.36 開花したオニシバリ (和歌山県紀南地方 2018.2/2)
周辺の林床ではシカの忌避植物であるオニシバリが開花中でした。
花は黄緑色のもののほか、画像のような緑色が強く花披が紫色を帯びているものも見られました。

Fig.37 セリバオウレン (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
翌日に向かった山域の麓ではセリバオウレンがちらほらと開花し始めていました。
兵庫県よりも開花が2~3週間程早いようです。
関連ページ 関西の花・セリバオウレン

Fig.38 アツミカンアオイ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
道中には林縁や樹冠の切れた場所でアツミカンアオイが点々と見られました。
葉身は厚い革質で光沢があり、脈が窪むのが特徴で、分布域は三重・奈良・和歌山の紀伊半島南部に偏在しています。
近畿地方の日本海側に見られるものもアツミカンアオイとされていますが、これほどの厚味と光沢はなく、サンインカンアオイと仮称されるようにおそらくは別種でしょうが、まだ正式に記載されていません。

Fig.39 アツミカンアオイの花 (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
花の色は変異に富み、紫褐色のもから淡黄色~汚緑色のものまで見られ、葉を掻き分けて花色を確かめるのは楽しいものです。

Fig.40 ナチクジャク (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
訪れた山域ではマルバベニシダが多い場所でしたが、ナチクジャクとマルバベニシダとの中間的なイヌナチクジャクも見られました。
ナチクジャクはマルバベニシダやイヌナチクジャクよりも小型の個体ばかりでした。
関連ページ 関西の花/シダ・ナチクジャク

Fig.41 ヌカイタチシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
兵庫県では非常に稀なシダですが、南紀では前日の岩場でも見かけ、比較的よく見られるシダのようです。ここではウラジロやコシダに被圧されない、遊歩道脇の地表に生えており、周辺の湿った岩上にも点々と生育していました。

Fig.42 ヌカイタチシダのソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
ソーラスは最下羽片の中軸寄りから羽片の先や葉先に向かって同心円状に広がってつき、小さく、包膜がありません。

Fig.43 ヌカイタチシダモドキ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
ヌカイタチシダモドキも南紀では比較的見られるもののようで、2日連続で見ることができました。
ヌカイタチシダよりもヌカイタチシダマガイに酷似していると感じます。
ヌカイタチシダマガイとの区別点として葉面の光沢の有無があげられますが、実際にはかなり微妙なもので、最初はヌカイタチシダマガイと思っていましたが、帰宅後に標本の鱗片を確認してヌカイタチシダモドキだと解りました。
Mさんによると、南紀ではヌカイタチシダマガイは稀なもののようです。

Fig.44 ヌカイタチシダモドキの下方の羽片と葉柄基部鱗片 (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
羽軸は中軸とほぼ直交し、羽片は無柄、先に向かって鎌状に曲がり、先端は急尾状に細まります。小羽片も羽片の中軸にほぼ直交してつきます。
鱗片は暗褐色~黒色、線形~線状披針形でヌカイタチシダマガイよりも幅が狭く、鱗片基部は軸に圧着しません。
兵庫県ではヌカイタチシダマガイ、アツギノヌカイタチシダマガが丹波層群の分布域を中心とした内陸部に点々と見られますが、両種は南紀では稀なものとなっており、このような分布の濃淡の原因がどこにあるのか、非常に興味深いところです。

Fig.45 エダウチホングウシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
エダウチホングウシダも2日連続で観察できましたが、ここでは下方の羽片が羽状になった充実した個体が林縁のウラジロやコシダの葉陰で沢山見られました。

Fig.45 エダウチホングウシダの若い個体 (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
若い小型の個体では最下羽片は羽状にならず、丸みを帯びた横長の羽片となります。
このような小型個体でも葉縁裏面にはソーラスが形成されています。

Fig.46 コウモウクジャク (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
細流脇の倒木が折れ重なった場所に、倒木にしなだれるように大きな葉身を持たれ掛けながら生育しているシダがありました。
最下羽片の柄は長くタンゴワラビのようにも見えますが、タンゴワラビよりも葉質は柔らかく、葉柄基部には多くの鱗片が残っています。鱗片や脈の状態からコウモウクジャクではないかと見ましたが、自信はありません。

Fig.47 コウモウクジャクの鱗片、最下羽片、ソーラス (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
タンゴワラビやシロヤマシダには見られないような黒味を帯びた鱗片が葉柄に残っており、辺縁には突起が見られました。
最下羽片には長い柄があり、小羽片はタンゴワラビよりもスマートで明瞭な短柄があります。
ソーラスは小さく中間生で、側脈はほとんど分岐していません。

Fig.48 ナチシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
ナチシダはシカの忌避植物で近畿地方では増えつつあるシダで、兵庫県ではRDB種にランクされていますが、これまで見られなかった場所でも見つかっている種です。
南紀でもいたるところで見られましたが、夏緑性シダなので奥山では枯れた残骸が目立ちました。温暖な海岸寄りの社寺林ではまだ冬枯れしていない個体も見られました。
芽立ちのフィドルヘッドは兵庫県で殖えつつあるオニヒカゲワラビと同様に山菜として利用できるので、南紀では積極的に利用してもよいもののように思います。
関連ページ 関西の花/シダ・ナチシダ

Fig.49 リュウビンタイ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
兵庫県では見られない大型の常緑シダで、奥山よりも海岸に近い常緑樹林下や社寺林の数ヶ所で見かけました。画像のものは社寺の裏山の日陰の多湿地で、大小30個体前後が部分的に群生していたものです。
このような大型のシダが群生している様子は地元では見られない光景で、細部を観察する前にしばし圧倒されてしまいます。

Fig.50 オオタニワタリとタマシダ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
社寺林を仕切る石垣にオオタニワタリとタマシダが群生していました。
境内の一画にはオオタニワタリが植栽されていると見られる場所があり、このオオタニワタリはそこから胞子が飛んで逸出して育ったものとも考えられます。
旺盛に繁殖しているタマシダは海岸沿いの石垣や斜面に繁茂しているのが見られ、自然分布と考えられるものです。

Fig.51 カゴノキに着生したオオタニワタリ (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
境内の大木にはオオタニワタリの幼株が着生しているものが多く見られ、特にカゴノキには比較的大きな個体が着生していました。

Fig.52 マツバラン (和歌山県紀南地方 2018.2/3)
兵庫県では稀ですが、紀伊半島の海岸に面した場所では乾いた岩場や石垣で比較的よく見かけます。
江戸時代から続く園芸植物であるため、自生か栽培による胞子散布拡散の逸出か判断することは難しいものです。
西宮市内にも社寺内に見られますが、自生のものと断定するのは難しいものです。
category: シダ
初夏の花
2017/07/19 Wed. 19:34 [edit]
6月から7月半ばに見た初夏の花達です。一部昆虫も。
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Fig.1 ホソバシロスミレ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
スミレ類の中ではアギスミレと並んで最も開花期が遅く、5月下旬~6月初旬にかけて開花がみられます。兵庫県では高原の草地で生育しています。

Fig.2 ホソバシロスミレの花 (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
花弁の奥が黄緑色を帯びるのが特徴。距は短いです。

Fig.3 ツルタチツボスミレ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
多くの場所では開花が終わっていましたが、雪が遅くまで残っていた箇所ではまだ開花していました。
茎は長く地表をはい、花は距が細長く、葉は腎形となるのが特徴です。

Fig.4 サンカヨウ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
今年はどうもサンカヨウは不作の年のようで、毎年沢山開花個体が見られる場所でも、花茎を上げていない個体が多く見られました。
早い年では4月下旬から開花が見られますが、今年は6月に入ってようやく花が見れました。
関連ページ 関西の花・サンカヨウ

Fig.5 オオナルコユリ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
山麓ではオオナルコユリが開花し始めていました。鈴なりの花が下方から咲き上がっていきます。

Fig.6 フチグロヤツボシカミキリ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
美しいカミキリムシです。降雨の中、ホストであるホオノキの葉裏で休んでいました。

Fig.7 ハマボウフウ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
砂浜ではあちこちでハマボウフウが開花していました。
開発の進んだ阪神地域では少ないものですが、但馬の海岸ではごくふつうに見られます。
関連ページ 関西の花・ハマボウフウ

Fig.8 メノマンネングサ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
日本海側にはメノマンネングサ、タイトゴメともに分布しますが、メノマンネングサはより大型となります。

Fig.9 ハマボッス (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
メノマンネングサの隣ではハマボッスも咲いていました。
メノマンネングサよりも開花期は早く、茎下方では結実が進んでいます。
関連ページ 関西の花・ハマボッス

Fig.10 ハマウツボ (京都府丹後地方 2017.6/9)
砂浜に生育しているカワラヨモギに寄生しています。
兵庫県では非常に稀なものですが、京都の砂浜では個体数は多いです。

Fig.11 ハナムグリ (京都府丹後地方 2017.6/9)
なぜか砂浜の上でハナムグリがモゾモゾと歩いていました。ふつうは花上で花粉を食しているのを見る機会が多く、よく見かけるコアオハナムグリよりひと回り大型です。

Fig.12 ヤマブキショウマ (京都府丹後地方 2017.6/9)
ヤマブキショウマはいつも但馬の高原で7月に開花するものを見ているので、低地での1ヶ月前の開花に驚かされました。隣のオオバギボウシも花茎を上げ始めていました。

Fig.13 ベニドウダン (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
湖北の山地ではちょうどベニドウダンが満開でした。
六甲山地でお馴染みの樹ですが、こちらでは個体数が多かったです。

Fig.14 サラサドウダン (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
ベニドウダンよりも開花期が早いため、ここでは残り花を少々見た程度でした。

Fig.15 ハナヒリノキ (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
兵庫県では現状不明となっている種ですが、ここでは登山道脇のいたるところで見られました。
花序は長く、葉はごわつく感じです。

Fig.16 ハナヒリノキの花 (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
花の色は緑白色で地味ですが、形はユニークで、先のすぼまったおちょぼ口のやや扁平な壷形です。

Fig.17 シロバナニガナ (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
登山道脇にハナニガナに混じって点々と開花個体が見られました。
ハナニガナより個体数は少なく、ハナニガナよりも遅い時間まで開花していました。

Fig.18 キヨスミウツボ (神戸市 2017.6/15)
いつも降雨中の撮影で納得のいく画像が撮れなかったのですが、今年の6月の空梅雨で満足な画像を撮影できました。これまでの研究から柱頭が目立つ2倍体の「芳香型」、柱頭が目立たない4倍体の「無香型」、雌蕊に長短がある3倍体の「中間型」があるとされていましたが、最近の遺伝子解析ではそのように単純に分けられない傾向が解りつつあるようです。

Fig.19 カキノハグサ (神戸市 2017.6/15)
知人からの情報を得て、ちょうど最盛期のカキノハグサを観察することができました。
六甲山地のものは、他の地域のものに比べて花弁が橙色を帯びて萼とのゴントラストが美しく、群生する様子は見応えがあります。

Fig.20 ノアザミを訪花したモンキチョウ (京都府中丹地方 2017.6/18)
スゲ類調査で里山を歩いていると、ナンテンハギやタムラソウが生育する土手で、モンキチョウがノアザミを訪花していました。
モンキチョウはノアザミ、タムラソウ、アカツメクサなどの紅色の花がよく似合います。

Fig.21 キミズ (兵庫県播磨地方 2017.6/19)
この日は兵庫県新産種キミズの自生地調査。半低木で基部近くの茎が木質化するサンショウソウ属草本で、雌雄異花。ほとんどの個体は半日陰のチャートもしくは緑色岩の岩場の岩棚やクラックからしなだれるように生育していました。

Fig.22 キミズの雌花序 (兵庫県播磨地方 2017.6/19)
雄性先熟なのか、調査時に見られたのはすでに受粉し終えたと見られる雌花序ばかりでした。
茎には毛が顕著に見られます。

Fig.23 オニルリソウ (兵庫県播磨地方 2017.6/19)
シカの食害の多い地域ですが、オニルリソウは食害を受けずに残っている傾向が強いものと言えます。
6~9月にかけて、花序を伸ばしながら開花していきますが、開花初期は花序もこじんまりとして美しいものです。

Fig.24 ミヤマムグラ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
この日は北播~但馬地方にかけてのスゲ類の調査。初夏の花の多い時期でもあります。
調査地に向かう前に原生林の広がる谷間に寄り道。そこにはミヤマムグラが満開状態で群生していました。

Fig.25 オオキヌタソウ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
ミヤマムグラの群生する谷筋ではオオキヌタソウもまばらに点在しています。
どちらも兵庫県では絶滅危惧種となっています。

Fig.26 エゾノヨツバムグラ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
ブナが優占する温帯林下ではエゾノヨツバムグラが増え、同じアカネ科のオククルマムグラ、クルマムグラは減少します。ミヤマムグラやオオキヌタソウは、同じ温帯林下でも、より陰湿で手の入っていないトチノキ、シオジ、ミズナラの古木が生える原生林に見られます。エゾノヨツバムグラは温帯林下でも登山道脇のような撹乱を受けるような場所にも出現します。

Fig.27 アカモノ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
高層湿原とそれに続く多湿地に点在する種で、周辺には多くの場合ミズゴケ類が見られます。
ここでは同所的にノギラン、バイケイソウ、コイチヨウラン、モウセンゴケ、マイヅルソウ、ツマトリソウ、マンネンスギ、ヤマドリゼンマイ、オオバショリマ、ヤマソテツなどが見られます。

Fig.28 ツマトリソウ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
湧水が滲みだす登山道脇でひっそりと開花していました。
この時期はまだ登山者は少なく、開花期も短いため、この場所に生育していることはほとんど知られていません。まだこの場所で結実しているのを見たことがありませんが、結実と同時に鳥獣の食餌となっているのかもしれません。

Fig.29 ミヤマニガイチゴ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
マイヅルソウ、ユキザサ、グレーンスゲ、ナガミヒメスゲ、クジュウスゲ、オオバショリマなどが見られる登山道脇で開花中でした。ニガイチゴというよりもクマイチゴを細くした裂片が特徴的で、花弁の幅には変異が多い半低木草本です。訪花昆虫のうち、特にハチ類がよく訪れている種で、1日腰を据えて訪花昆虫を調べてみるのも面白そうだなあと思います。

Fig.30 ムネアカクロジョウカイ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
2週間前はアオジョウカイをよく見かけたのですが、今回は稜線上の1200mを超えたあたりからやたらと目だっていました。期間的な棲み分けを行っているのか、標高による棲み分けを行っているのかは不明です。

Fig.31 ホタルブクロ (神戸市 2017.7/1)
この日は棚田保全地の田植え作業でした。棚田に向かう農道脇ではホタルブクロの花が見頃を迎えていました。
関連ページ 関西の花・ホタルブクロ

Fig.32 カセンソウ (神戸市 2017.7/1)
保全地の草刈り管理している土手ではカセンソウが満開でした。
この場所ではカセンソウのほか、オカオグルマ、コシオガマ、アカネスミレ、フナバラソウ、ヒロハハナヤスリなどの草原性の稀少種が数多く生育しており、林縁部ではアカハナワラビやホタルカズラ、コイケマが見られます。

Fig.33 ヨツスジハナカミキリ (神戸市 2017.7/1)
ふつうに見られる訪花昆虫で、ウツギの葉上で静止していました。
この日は気温が高いためか飛翔する甲虫類は少なく、昆虫類ではカセンソウに訪花しているコハナバチ類、ツバメシジミ、ヒメウラナミジャノメ、林縁にテリトリーを張るオオムラサキ♂が見られました。

Fig.34 シオデ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
この日は但馬地方の氷ノ山周辺で今季最後のスゲ調査でしたが、高温多湿でバテバテとなりました。
登山口の沢沿いではシオデの雄花が開花中でした。日陰地ではコウモリカズラが繁茂していますが、開花個体は見られませんでした。タジマタムラソウは結実期に入っており、結実率は低いながらも、萼内に分果ができているものも見られました。

Fig.35 ウメガサソウ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
温帯林下部の林床に1個体のみが開花していました。
兵庫県南部では減少傾向の著しい種で滅多に見られなくなりましたが、但馬地方では所々で見かけます。周辺では果実形成中のギンリョウソウが点在していました。

Fig.36 コバノフユイチゴ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
標高1000m付近から林床にはコバノフユイチゴが出現し、ちょうど開花中で、小型のハチやアブが訪花していました。周辺ではアクシバやシナノキも開花中で、シナノキではウラギンヒョウモンやヒオドシチョウを初めとした多数の昆虫類が訪花していました。

Fig.37 アカガネサルハムシ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
低地でもふつうに見られるハムシですが、上昇気流に乗ってやって来たのか、1200m付近で見られました。小さな甲虫ですが、宝石のような美しさがあります。

Fig.38 カタシロゴマフカミキリ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
ナガゴマフカミキリによく似ていますが、それよりも高標高地に多いという印象を受けます。
氷ノ山付近の山域ではふつうに見られますが、ここでは白味の強い個体が見られました。

Fig.39 ツノアオカメムシ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
山地でふつうに見られる大型で金属光沢のある美しいカメムシで、駐車場に停めたクルマのボディーに止まっていました。この日はあちこちでこのカメムシと遭遇しましたが、ウシアブやトンボ類と同じように光沢のあるものを好むのかもしれません。
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Fig.1 ホソバシロスミレ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
スミレ類の中ではアギスミレと並んで最も開花期が遅く、5月下旬~6月初旬にかけて開花がみられます。兵庫県では高原の草地で生育しています。

Fig.2 ホソバシロスミレの花 (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
花弁の奥が黄緑色を帯びるのが特徴。距は短いです。

Fig.3 ツルタチツボスミレ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
多くの場所では開花が終わっていましたが、雪が遅くまで残っていた箇所ではまだ開花していました。
茎は長く地表をはい、花は距が細長く、葉は腎形となるのが特徴です。

Fig.4 サンカヨウ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
今年はどうもサンカヨウは不作の年のようで、毎年沢山開花個体が見られる場所でも、花茎を上げていない個体が多く見られました。
早い年では4月下旬から開花が見られますが、今年は6月に入ってようやく花が見れました。
関連ページ 関西の花・サンカヨウ

Fig.5 オオナルコユリ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
山麓ではオオナルコユリが開花し始めていました。鈴なりの花が下方から咲き上がっていきます。

Fig.6 フチグロヤツボシカミキリ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
美しいカミキリムシです。降雨の中、ホストであるホオノキの葉裏で休んでいました。

Fig.7 ハマボウフウ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
砂浜ではあちこちでハマボウフウが開花していました。
開発の進んだ阪神地域では少ないものですが、但馬の海岸ではごくふつうに見られます。
関連ページ 関西の花・ハマボウフウ

Fig.8 メノマンネングサ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
日本海側にはメノマンネングサ、タイトゴメともに分布しますが、メノマンネングサはより大型となります。

Fig.9 ハマボッス (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
メノマンネングサの隣ではハマボッスも咲いていました。
メノマンネングサよりも開花期は早く、茎下方では結実が進んでいます。
関連ページ 関西の花・ハマボッス

Fig.10 ハマウツボ (京都府丹後地方 2017.6/9)
砂浜に生育しているカワラヨモギに寄生しています。
兵庫県では非常に稀なものですが、京都の砂浜では個体数は多いです。

Fig.11 ハナムグリ (京都府丹後地方 2017.6/9)
なぜか砂浜の上でハナムグリがモゾモゾと歩いていました。ふつうは花上で花粉を食しているのを見る機会が多く、よく見かけるコアオハナムグリよりひと回り大型です。

Fig.12 ヤマブキショウマ (京都府丹後地方 2017.6/9)
ヤマブキショウマはいつも但馬の高原で7月に開花するものを見ているので、低地での1ヶ月前の開花に驚かされました。隣のオオバギボウシも花茎を上げ始めていました。

Fig.13 ベニドウダン (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
湖北の山地ではちょうどベニドウダンが満開でした。
六甲山地でお馴染みの樹ですが、こちらでは個体数が多かったです。

Fig.14 サラサドウダン (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
ベニドウダンよりも開花期が早いため、ここでは残り花を少々見た程度でした。

Fig.15 ハナヒリノキ (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
兵庫県では現状不明となっている種ですが、ここでは登山道脇のいたるところで見られました。
花序は長く、葉はごわつく感じです。

Fig.16 ハナヒリノキの花 (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
花の色は緑白色で地味ですが、形はユニークで、先のすぼまったおちょぼ口のやや扁平な壷形です。

Fig.17 シロバナニガナ (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
登山道脇にハナニガナに混じって点々と開花個体が見られました。
ハナニガナより個体数は少なく、ハナニガナよりも遅い時間まで開花していました。

Fig.18 キヨスミウツボ (神戸市 2017.6/15)
いつも降雨中の撮影で納得のいく画像が撮れなかったのですが、今年の6月の空梅雨で満足な画像を撮影できました。これまでの研究から柱頭が目立つ2倍体の「芳香型」、柱頭が目立たない4倍体の「無香型」、雌蕊に長短がある3倍体の「中間型」があるとされていましたが、最近の遺伝子解析ではそのように単純に分けられない傾向が解りつつあるようです。

Fig.19 カキノハグサ (神戸市 2017.6/15)
知人からの情報を得て、ちょうど最盛期のカキノハグサを観察することができました。
六甲山地のものは、他の地域のものに比べて花弁が橙色を帯びて萼とのゴントラストが美しく、群生する様子は見応えがあります。

Fig.20 ノアザミを訪花したモンキチョウ (京都府中丹地方 2017.6/18)
スゲ類調査で里山を歩いていると、ナンテンハギやタムラソウが生育する土手で、モンキチョウがノアザミを訪花していました。
モンキチョウはノアザミ、タムラソウ、アカツメクサなどの紅色の花がよく似合います。

Fig.21 キミズ (兵庫県播磨地方 2017.6/19)
この日は兵庫県新産種キミズの自生地調査。半低木で基部近くの茎が木質化するサンショウソウ属草本で、雌雄異花。ほとんどの個体は半日陰のチャートもしくは緑色岩の岩場の岩棚やクラックからしなだれるように生育していました。

Fig.22 キミズの雌花序 (兵庫県播磨地方 2017.6/19)
雄性先熟なのか、調査時に見られたのはすでに受粉し終えたと見られる雌花序ばかりでした。
茎には毛が顕著に見られます。

Fig.23 オニルリソウ (兵庫県播磨地方 2017.6/19)
シカの食害の多い地域ですが、オニルリソウは食害を受けずに残っている傾向が強いものと言えます。
6~9月にかけて、花序を伸ばしながら開花していきますが、開花初期は花序もこじんまりとして美しいものです。

Fig.24 ミヤマムグラ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
この日は北播~但馬地方にかけてのスゲ類の調査。初夏の花の多い時期でもあります。
調査地に向かう前に原生林の広がる谷間に寄り道。そこにはミヤマムグラが満開状態で群生していました。

Fig.25 オオキヌタソウ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
ミヤマムグラの群生する谷筋ではオオキヌタソウもまばらに点在しています。
どちらも兵庫県では絶滅危惧種となっています。

Fig.26 エゾノヨツバムグラ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
ブナが優占する温帯林下ではエゾノヨツバムグラが増え、同じアカネ科のオククルマムグラ、クルマムグラは減少します。ミヤマムグラやオオキヌタソウは、同じ温帯林下でも、より陰湿で手の入っていないトチノキ、シオジ、ミズナラの古木が生える原生林に見られます。エゾノヨツバムグラは温帯林下でも登山道脇のような撹乱を受けるような場所にも出現します。

Fig.27 アカモノ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
高層湿原とそれに続く多湿地に点在する種で、周辺には多くの場合ミズゴケ類が見られます。
ここでは同所的にノギラン、バイケイソウ、コイチヨウラン、モウセンゴケ、マイヅルソウ、ツマトリソウ、マンネンスギ、ヤマドリゼンマイ、オオバショリマ、ヤマソテツなどが見られます。

Fig.28 ツマトリソウ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
湧水が滲みだす登山道脇でひっそりと開花していました。
この時期はまだ登山者は少なく、開花期も短いため、この場所に生育していることはほとんど知られていません。まだこの場所で結実しているのを見たことがありませんが、結実と同時に鳥獣の食餌となっているのかもしれません。

Fig.29 ミヤマニガイチゴ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
マイヅルソウ、ユキザサ、グレーンスゲ、ナガミヒメスゲ、クジュウスゲ、オオバショリマなどが見られる登山道脇で開花中でした。ニガイチゴというよりもクマイチゴを細くした裂片が特徴的で、花弁の幅には変異が多い半低木草本です。訪花昆虫のうち、特にハチ類がよく訪れている種で、1日腰を据えて訪花昆虫を調べてみるのも面白そうだなあと思います。

Fig.30 ムネアカクロジョウカイ (兵庫県北播地方 2017.6/23)
2週間前はアオジョウカイをよく見かけたのですが、今回は稜線上の1200mを超えたあたりからやたらと目だっていました。期間的な棲み分けを行っているのか、標高による棲み分けを行っているのかは不明です。

Fig.31 ホタルブクロ (神戸市 2017.7/1)
この日は棚田保全地の田植え作業でした。棚田に向かう農道脇ではホタルブクロの花が見頃を迎えていました。
関連ページ 関西の花・ホタルブクロ

Fig.32 カセンソウ (神戸市 2017.7/1)
保全地の草刈り管理している土手ではカセンソウが満開でした。
この場所ではカセンソウのほか、オカオグルマ、コシオガマ、アカネスミレ、フナバラソウ、ヒロハハナヤスリなどの草原性の稀少種が数多く生育しており、林縁部ではアカハナワラビやホタルカズラ、コイケマが見られます。

Fig.33 ヨツスジハナカミキリ (神戸市 2017.7/1)
ふつうに見られる訪花昆虫で、ウツギの葉上で静止していました。
この日は気温が高いためか飛翔する甲虫類は少なく、昆虫類ではカセンソウに訪花しているコハナバチ類、ツバメシジミ、ヒメウラナミジャノメ、林縁にテリトリーを張るオオムラサキ♂が見られました。

Fig.34 シオデ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
この日は但馬地方の氷ノ山周辺で今季最後のスゲ調査でしたが、高温多湿でバテバテとなりました。
登山口の沢沿いではシオデの雄花が開花中でした。日陰地ではコウモリカズラが繁茂していますが、開花個体は見られませんでした。タジマタムラソウは結実期に入っており、結実率は低いながらも、萼内に分果ができているものも見られました。

Fig.35 ウメガサソウ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
温帯林下部の林床に1個体のみが開花していました。
兵庫県南部では減少傾向の著しい種で滅多に見られなくなりましたが、但馬地方では所々で見かけます。周辺では果実形成中のギンリョウソウが点在していました。

Fig.36 コバノフユイチゴ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
標高1000m付近から林床にはコバノフユイチゴが出現し、ちょうど開花中で、小型のハチやアブが訪花していました。周辺ではアクシバやシナノキも開花中で、シナノキではウラギンヒョウモンやヒオドシチョウを初めとした多数の昆虫類が訪花していました。

Fig.37 アカガネサルハムシ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
低地でもふつうに見られるハムシですが、上昇気流に乗ってやって来たのか、1200m付近で見られました。小さな甲虫ですが、宝石のような美しさがあります。

Fig.38 カタシロゴマフカミキリ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
ナガゴマフカミキリによく似ていますが、それよりも高標高地に多いという印象を受けます。
氷ノ山付近の山域ではふつうに見られますが、ここでは白味の強い個体が見られました。

Fig.39 ツノアオカメムシ (兵庫県但馬地方 2017.7/14)
山地でふつうに見られる大型で金属光沢のある美しいカメムシで、駐車場に停めたクルマのボディーに止まっていました。この日はあちこちでこのカメムシと遭遇しましたが、ウシアブやトンボ類と同じように光沢のあるものを好むのかもしれません。
category: 初夏の花
スゲを探して
2017/06/16 Fri. 19:26 [edit]
スゲ類は地域や環境により種分化し、スゲ属中には非常に多くの種が含まれています。にもかかわらず、確実に同定できる標本を採取できる期間は4月下旬~6月と短いものです。
この期間のうち個人で動ける時間は限られており、事前に目標と計画を建てておかないと、なんとなくスゲ類を見て終わりということになりかねません。
今年は2004年に新記載され、古い標本は残っていますが、自生の現状を確認できていない兵庫県RDB Aランクとされているサンインヒエスゲの確認と、未だ自生状態のものを見ていないハリガネスゲ、オオタマツリスゲを見ることでした。
結果的に3種とも見ることができた上、ニッコウハリスゲとコウヤハリスゲも観察でき、個人的には上々の年でした。
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Fig.1 開花中のヒロバスゲ (兵庫県但馬地方 2017.5/22)
標高800m前後の明るい林床では、この時期はまだ開花状態でした。
アオヒエスゲやアオバスゲ、サンインヒエスゲとは葉幅が広いことにより区別できます。
周辺ではオクノカンスゲやカンスゲも開花中でした。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・ヒロバスゲ

Fig.2 カンスゲ群落 (兵庫県北播地方 2017.5/26)
沢沿いの登山道を登っていくと、カンスゲの見事な群落がありました。
このようなまとまった群落を見たのは初めてです。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・カンスゲ

Fig.3 クジュウスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
カンスゲ群落のある谷筋では沢沿いにクジュウスゲのマットがあちこちで見られました。
基部から匐枝を伸ばして栄養繁殖するためにマット状の群落をつくります。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・クジュウスゲ

Fig.4 ヒロハノオオタマツリスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
県内ではやや高標高地の適湿な場所に見られ、クジュウスゲに混じって沢筋に点在していました。
果胞が熟す頃は柔らかい花茎は倒伏し、どうやっても締まりの無い画像になってしまいます。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・ヒロハノオオタマツリスゲ

Fig.5 ヤマテキリスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
開けた谷筋の撹乱された湿地状の場所に生育していました。
県内では中部から北部にかけて見られ、テキリスゲより葉の色が濃く、ほとんどざらつかないことにより区別できます。
関連ページ 湿生植物・ヤマテキリスゲ

Fig.6 ハリガネスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
高原地帯のオオミズゴケ群落中や開けた沢筋に多くの個体が生育していました。
低地に生育するマツバスゲに似ていますが、マツバスゲは雌鱗片と果胞がほぼ同長に対し、ハリガネスゲは雌鱗片よりも果胞が大きいことにより、おおよその区別ができます。
関連ページ 湿生植物・ハリガネスゲ

Fig.7 ニッコウハリスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
高原の草地に別の草本を目当てに訪れたところ、細流脇や湿地に点在しているのを偶然見つけました。
兵庫県内では数ヶ所でしか自生しておらず、嬉しい出会いになりました。
ハリガネスゲとは葉幅が2~3mmと幅広くて目立ち、雌鱗片が淡緑色で、雄花部が短いことにより区別できます。ふつう花茎上部はざらつきますが、この集団ではあまりざらつきは目立たず、他の地域のものとは微妙に遺伝子的な差があるかもしれません。

Fig.8 オオタマツリスゲ (神戸市 2017.5/31)
以前から聞いていたオオタマツリスゲの自生地を訪ねました。
かなり大きな群落で、熟した果胞をつけた花茎は全て倒伏しており、ヒロハノオオタマツリスゲ同様、全く絵になりません。近辺には自生地はなく、かなり局所的な分布傾向のあるスゲです。

Fig.9 オオタマツリスゲの花序 (神戸市 2017.5/31)
花茎が全て倒伏しているので、花序がわかる画像がなかなか撮影できません。
車道の溝に垂れ下がっている花茎があったので、なんとか花序が解る画像を撮ることができました。

Fig.10 ヒメミコシガヤ (神戸市 2017.5/31)
オオタマツリスゲ自生地からの帰途、保全管理されている里山に生育しているヒメミコシガヤの様子を見に立ち寄りました。兵庫県と岡山県のみに生育しており、ここでは増殖の試みがなされています。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・ヒメミコシガヤ

Fig.11 ヒメミコシガヤの花序 (神戸市 2017.5/31)
雄雌性の小穂が比較的密についていて、ミノボロスゲやツクシミノボロスゲの花序に似ています。

Fig.12 ヒメミコシガヤの基部の葉鞘 (神戸市 2017.5/31)
葉鞘の腹面には横しわがあり、ミノボロスゲやツクシミノボロスゲとの区別点となります。

Fig.13 アワボスゲ (神戸市 2017.5/31)
ヒメミコシガヤの近くには生育良好なアワボスゲの大株が繁茂しています。
草原環境の減少とともに見られなくなっているスゲですが、ここではかなりの個体が生育しています。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・アワボスゲ

Fig.14 アワボスゲとヤワラスゲの花序 (神戸市 2017.5/31)
アワボスゲとヤワラスゲは時に同じような環境に生えることがあり、よく似ています。
アワボスゲは果胞が丸く膨らみ、開出して嘴は短いですが、ヤワラスゲの果胞は斜上して着き、嘴は長くなります。アワボスゲは稀ですが、ヤワラスゲは様々な環境でよく見かけるスゲです。
関連ページ 湿性植物・ヤワラスゲ

Fig.15 ホナガヒメゴウソ (神戸市 2017.5/31)
ヒメミコシガヤ、アワボスゲ、タチスゲなどが生育する休耕田に生育しています。
次のヒメゴウソに比べて自生地は少なく、その名のごとく雌小穂は長く、青味を帯びません。

Fig.16 ヒメゴウソ (神戸市 2017.5/31)
別名アオゴウソとも呼ばれ、草体や雌小穂は青白い。
二次的自然環境の高い場所に見られ、ここではゴウソ、オタルスゲとともにホナガヒメゴウソがある休耕田とは別の休耕田で生育しており、混生は見られません。
関連ページ 湿性植物・ヒメゴウソ(ホナガヒメゴウソ含む)

Fig.17 グレーンスゲ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
夏期には放牧地となる、高原のススキ草原の小さな沢沿いに生育していました。
ややコンパクトな草体で、同じ沢沿いにはアズマナルコ、クサスゲが見られました。
関連ページ 湿性植物・グレーンスゲ

Fig.18 コカンスゲ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
山の頂に登ると、ブナ林の林床にミヤマカンスゲとともにコカンスゲが生育していました。
匐枝で栄養繁殖するため、湿った林床斜面で群生することの多いスゲです。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・コカンスゲ

Fig.19 サンインヒエスゲ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
ここに登ってきたのは、県下唯一の記録のあるこの場所での生育を確認するためです。
兵庫県内ではおよそ50年振りの再確認になる兵庫県版RDB Aランク種のスゲです。
ブナ帯直下のミズナラ・アカマツ二次林の歩道脇の乾いたような半日陰地に、20個体程生育していました。来年からは同じ条件を満たすような場所を探して歩くことになります。

Fig.20 イソアオスゲ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
海岸の岩場ではタイトゴメが開花し始め、その間の岩棚や岩の隙間にイソアオスゲが見られました。
匐枝を伸ばして栄養繁殖し、大きなまとまりとなっていますが、その割りに花茎は少数でした。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・イソアオスゲ

Fig.21 ハマアオスゲ (京都府丹後地方 2017.6/9)
砂浜に続く松林の林床に生育しているもので、イソアオスゲよりも雌小穂は太く、果胞の大きく、密に短毛が生えることにより区別できます。時に海岸の岩場(磯)であっても、表土がある場所に生えていることがありますが、上記の特徴で区別は容易です。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・ハマアオスゲ

Fig.22 コウボウムギ (京都府丹後地方 2017.6/9)
初心者であっても、まず間違えようのない特徴的で目立つスゲで、web上でも他のスゲに比べて圧倒的に多数の画像が見られます。雌雄異株で、画像のものは雌株というのも、今さら野暮な感じです。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・コウボウムギ

Fig.23 コウヤハリスゲ (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
温帯林が広がる林道脇の小湿地に生育しているもので、小穂はコハリスゲっぽく感じました。
本種の大きな特徴は地下に匍匐根茎があることで、2008年に新記載されて間もない種です。
関連ページ 湿生植物・コウヤハリスゲ

Fig.24 コウヤハリスゲの生育状態 (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
匍匐根茎によって栄養繁殖するため、マット状に広がります。
林道脇の数ヶ所で見られましたが、いずれも湧水に涵養され、浅い表水のある小湿地でした。

Fig.25 ハリスゲ節3種の小穂
いずれも雄雌性ですが、ハリガネスゲをのぞいては、雄花部がごく短いことが解ります。

Fig.26 ミノボロスゲ (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
登山道入り口の駐車場脇に見られたもので、おそらくは登山者の靴か車のタイヤの溝に運ばれてきたものでしょう。ここでは移入初期なのか3個体の生育を確認したのみですが、兵庫県の氷ノ山では登山道脇にビッシリと生育している箇所があります。
関連ページ 湿性植物・ミノボロスゲ

Fig.27 ミノボロスゲの花序 (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
花序には雄雌性の無柄の小穂が密につき、ヒメミコシガヤに似ていますが、花茎上部がざらつくことにより区別できます。また先述のようにヒメミコシガヤの基部の葉鞘には横しわがありますが、ミノボロスゲにはありません。

Fig.28 ツクシミノボロスゲ (神戸市 2017.6/15)
道端に10数個体が生育していますが、ゴルフ場の路傍であり、これも移入されたと考えられるものです。兵庫県内には数例の採集記録がありますが、いずれに場所のものも自生していたものかどうか疑わしいと思っています。

Fig.29 ツクシミノボロスゲの花序 (神戸市 2017.6/15)
ミノボロスゲ同様、雄雌性で無柄の小穂が着きますが、その着き方はミノボロスゲよりもまばらで、花序は貧相な印象を受けます。また、ミノボロスゲの有花茎上部がざらつくのに対し、ツクシミノボロスゲでは有花茎上部は平滑となります。

Fig.30 ミヤマシラスゲ (神戸市 2017.6/15)
ふくらんだ果胞が密についた雌小穂がまるで細長いソーセジのように見える、解りやすいスゲで、撹乱を受けたような湿地で群生しているのを見かける機会が多いです。
湿地環境に広く見られ、開花期の頃はネクイハムシの仲間が雄花の花粉を漁っているのを見ることがあります。
関連ページ 湿性植物・ミヤマシラスゲ

Fig.31 サトヤマハリスゲ (神戸市 2017.6/15)
小穂の雄花、雌花部ともに短く、兵庫県南部では低山や丘陵の湿地に比較的よく見られるハリスゲ節のスゲです。ハリスゲ節はヌカスゲ節と同様、同所的に見られるアゼスゲ節やミヤマシラスゲ節に比べて開花・結実が早く、結実した果胞が落ち始めていました。
関連ページ 湿性植物・サトヤマハリスゲ
この期間のうち個人で動ける時間は限られており、事前に目標と計画を建てておかないと、なんとなくスゲ類を見て終わりということになりかねません。
今年は2004年に新記載され、古い標本は残っていますが、自生の現状を確認できていない兵庫県RDB Aランクとされているサンインヒエスゲの確認と、未だ自生状態のものを見ていないハリガネスゲ、オオタマツリスゲを見ることでした。
結果的に3種とも見ることができた上、ニッコウハリスゲとコウヤハリスゲも観察でき、個人的には上々の年でした。
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Fig.1 開花中のヒロバスゲ (兵庫県但馬地方 2017.5/22)
標高800m前後の明るい林床では、この時期はまだ開花状態でした。
アオヒエスゲやアオバスゲ、サンインヒエスゲとは葉幅が広いことにより区別できます。
周辺ではオクノカンスゲやカンスゲも開花中でした。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・ヒロバスゲ

Fig.2 カンスゲ群落 (兵庫県北播地方 2017.5/26)
沢沿いの登山道を登っていくと、カンスゲの見事な群落がありました。
このようなまとまった群落を見たのは初めてです。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・カンスゲ

Fig.3 クジュウスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
カンスゲ群落のある谷筋では沢沿いにクジュウスゲのマットがあちこちで見られました。
基部から匐枝を伸ばして栄養繁殖するためにマット状の群落をつくります。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・クジュウスゲ

Fig.4 ヒロハノオオタマツリスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
県内ではやや高標高地の適湿な場所に見られ、クジュウスゲに混じって沢筋に点在していました。
果胞が熟す頃は柔らかい花茎は倒伏し、どうやっても締まりの無い画像になってしまいます。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・ヒロハノオオタマツリスゲ

Fig.5 ヤマテキリスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
開けた谷筋の撹乱された湿地状の場所に生育していました。
県内では中部から北部にかけて見られ、テキリスゲより葉の色が濃く、ほとんどざらつかないことにより区別できます。
関連ページ 湿生植物・ヤマテキリスゲ

Fig.6 ハリガネスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
高原地帯のオオミズゴケ群落中や開けた沢筋に多くの個体が生育していました。
低地に生育するマツバスゲに似ていますが、マツバスゲは雌鱗片と果胞がほぼ同長に対し、ハリガネスゲは雌鱗片よりも果胞が大きいことにより、おおよその区別ができます。
関連ページ 湿生植物・ハリガネスゲ

Fig.7 ニッコウハリスゲ (兵庫県北播地方 2017.5/26)
高原の草地に別の草本を目当てに訪れたところ、細流脇や湿地に点在しているのを偶然見つけました。
兵庫県内では数ヶ所でしか自生しておらず、嬉しい出会いになりました。
ハリガネスゲとは葉幅が2~3mmと幅広くて目立ち、雌鱗片が淡緑色で、雄花部が短いことにより区別できます。ふつう花茎上部はざらつきますが、この集団ではあまりざらつきは目立たず、他の地域のものとは微妙に遺伝子的な差があるかもしれません。

Fig.8 オオタマツリスゲ (神戸市 2017.5/31)
以前から聞いていたオオタマツリスゲの自生地を訪ねました。
かなり大きな群落で、熟した果胞をつけた花茎は全て倒伏しており、ヒロハノオオタマツリスゲ同様、全く絵になりません。近辺には自生地はなく、かなり局所的な分布傾向のあるスゲです。

Fig.9 オオタマツリスゲの花序 (神戸市 2017.5/31)
花茎が全て倒伏しているので、花序がわかる画像がなかなか撮影できません。
車道の溝に垂れ下がっている花茎があったので、なんとか花序が解る画像を撮ることができました。

Fig.10 ヒメミコシガヤ (神戸市 2017.5/31)
オオタマツリスゲ自生地からの帰途、保全管理されている里山に生育しているヒメミコシガヤの様子を見に立ち寄りました。兵庫県と岡山県のみに生育しており、ここでは増殖の試みがなされています。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・ヒメミコシガヤ

Fig.11 ヒメミコシガヤの花序 (神戸市 2017.5/31)
雄雌性の小穂が比較的密についていて、ミノボロスゲやツクシミノボロスゲの花序に似ています。

Fig.12 ヒメミコシガヤの基部の葉鞘 (神戸市 2017.5/31)
葉鞘の腹面には横しわがあり、ミノボロスゲやツクシミノボロスゲとの区別点となります。

Fig.13 アワボスゲ (神戸市 2017.5/31)
ヒメミコシガヤの近くには生育良好なアワボスゲの大株が繁茂しています。
草原環境の減少とともに見られなくなっているスゲですが、ここではかなりの個体が生育しています。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・アワボスゲ

Fig.14 アワボスゲとヤワラスゲの花序 (神戸市 2017.5/31)
アワボスゲとヤワラスゲは時に同じような環境に生えることがあり、よく似ています。
アワボスゲは果胞が丸く膨らみ、開出して嘴は短いですが、ヤワラスゲの果胞は斜上して着き、嘴は長くなります。アワボスゲは稀ですが、ヤワラスゲは様々な環境でよく見かけるスゲです。
関連ページ 湿性植物・ヤワラスゲ

Fig.15 ホナガヒメゴウソ (神戸市 2017.5/31)
ヒメミコシガヤ、アワボスゲ、タチスゲなどが生育する休耕田に生育しています。
次のヒメゴウソに比べて自生地は少なく、その名のごとく雌小穂は長く、青味を帯びません。

Fig.16 ヒメゴウソ (神戸市 2017.5/31)
別名アオゴウソとも呼ばれ、草体や雌小穂は青白い。
二次的自然環境の高い場所に見られ、ここではゴウソ、オタルスゲとともにホナガヒメゴウソがある休耕田とは別の休耕田で生育しており、混生は見られません。
関連ページ 湿性植物・ヒメゴウソ(ホナガヒメゴウソ含む)

Fig.17 グレーンスゲ (兵庫県但馬地方 2017.6/8)
夏期には放牧地となる、高原のススキ草原の小さな沢沿いに生育していました。
ややコンパクトな草体で、同じ沢沿いにはアズマナルコ、クサスゲが見られました。
関連ページ 湿性植物・グレーンスゲ

Fig.18 コカンスゲ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
山の頂に登ると、ブナ林の林床にミヤマカンスゲとともにコカンスゲが生育していました。
匐枝で栄養繁殖するため、湿った林床斜面で群生することの多いスゲです。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・コカンスゲ

Fig.19 サンインヒエスゲ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
ここに登ってきたのは、県下唯一の記録のあるこの場所での生育を確認するためです。
兵庫県内ではおよそ50年振りの再確認になる兵庫県版RDB Aランク種のスゲです。
ブナ帯直下のミズナラ・アカマツ二次林の歩道脇の乾いたような半日陰地に、20個体程生育していました。来年からは同じ条件を満たすような場所を探して歩くことになります。

Fig.20 イソアオスゲ (兵庫県但馬地方 2017.6/9)
海岸の岩場ではタイトゴメが開花し始め、その間の岩棚や岩の隙間にイソアオスゲが見られました。
匐枝を伸ばして栄養繁殖し、大きなまとまりとなっていますが、その割りに花茎は少数でした。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・イソアオスゲ

Fig.21 ハマアオスゲ (京都府丹後地方 2017.6/9)
砂浜に続く松林の林床に生育しているもので、イソアオスゲよりも雌小穂は太く、果胞の大きく、密に短毛が生えることにより区別できます。時に海岸の岩場(磯)であっても、表土がある場所に生えていることがありますが、上記の特徴で区別は容易です。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・ハマアオスゲ

Fig.22 コウボウムギ (京都府丹後地方 2017.6/9)
初心者であっても、まず間違えようのない特徴的で目立つスゲで、web上でも他のスゲに比べて圧倒的に多数の画像が見られます。雌雄異株で、画像のものは雌株というのも、今さら野暮な感じです。
関連ページ 関西の花/カヤツリグサ科・コウボウムギ

Fig.23 コウヤハリスゲ (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
温帯林が広がる林道脇の小湿地に生育しているもので、小穂はコハリスゲっぽく感じました。
本種の大きな特徴は地下に匍匐根茎があることで、2008年に新記載されて間もない種です。
関連ページ 湿生植物・コウヤハリスゲ

Fig.24 コウヤハリスゲの生育状態 (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
匍匐根茎によって栄養繁殖するため、マット状に広がります。
林道脇の数ヶ所で見られましたが、いずれも湧水に涵養され、浅い表水のある小湿地でした。

Fig.25 ハリスゲ節3種の小穂
いずれも雄雌性ですが、ハリガネスゲをのぞいては、雄花部がごく短いことが解ります。

Fig.26 ミノボロスゲ (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
登山道入り口の駐車場脇に見られたもので、おそらくは登山者の靴か車のタイヤの溝に運ばれてきたものでしょう。ここでは移入初期なのか3個体の生育を確認したのみですが、兵庫県の氷ノ山では登山道脇にビッシリと生育している箇所があります。
関連ページ 湿性植物・ミノボロスゲ

Fig.27 ミノボロスゲの花序 (滋賀県湖北地方 2017.6/10)
花序には雄雌性の無柄の小穂が密につき、ヒメミコシガヤに似ていますが、花茎上部がざらつくことにより区別できます。また先述のようにヒメミコシガヤの基部の葉鞘には横しわがありますが、ミノボロスゲにはありません。

Fig.28 ツクシミノボロスゲ (神戸市 2017.6/15)
道端に10数個体が生育していますが、ゴルフ場の路傍であり、これも移入されたと考えられるものです。兵庫県内には数例の採集記録がありますが、いずれに場所のものも自生していたものかどうか疑わしいと思っています。

Fig.29 ツクシミノボロスゲの花序 (神戸市 2017.6/15)
ミノボロスゲ同様、雄雌性で無柄の小穂が着きますが、その着き方はミノボロスゲよりもまばらで、花序は貧相な印象を受けます。また、ミノボロスゲの有花茎上部がざらつくのに対し、ツクシミノボロスゲでは有花茎上部は平滑となります。

Fig.30 ミヤマシラスゲ (神戸市 2017.6/15)
ふくらんだ果胞が密についた雌小穂がまるで細長いソーセジのように見える、解りやすいスゲで、撹乱を受けたような湿地で群生しているのを見かける機会が多いです。
湿地環境に広く見られ、開花期の頃はネクイハムシの仲間が雄花の花粉を漁っているのを見ることがあります。
関連ページ 湿性植物・ミヤマシラスゲ

Fig.31 サトヤマハリスゲ (神戸市 2017.6/15)
小穂の雄花、雌花部ともに短く、兵庫県南部では低山や丘陵の湿地に比較的よく見られるハリスゲ節のスゲです。ハリスゲ節はヌカスゲ節と同様、同所的に見られるアゼスゲ節やミヤマシラスゲ節に比べて開花・結実が早く、結実した果胞が落ち始めていました。
関連ページ 湿性植物・サトヤマハリスゲ
category: カヤツリグサ科スゲ属